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第7章 魔獣の季節襲来
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工房の片隅で、私はリヒャルトの説明をうんうんと聞いていた。
彼は小柄で気弱そうだけれど、魔道具のことになると目つきが真剣になる。まるで別人だ。
「学院では、十六歳以上は専門分野に分かれて研究するんです。私は魔道具学に傾倒していて――その延長線で、今回の設計を詰めました」
リヒャルトが薄い本を取り出し、図面をひらひらさせる。数字と装飾線でいっぱいのページが、私にはちょっとした魔法書に見えた。
「単発式のプロトタイプです。構造は単純にして頑丈に。魔力の集中と放出を瞬間的に促す導管をここに組んで――」
「要するに“撃つだけ”。でも、魔力の注入方法で性質が変わる、と」
私が端的にまとめると、リヒャルトは嬉しそうにうなずいた。
職人たちが金属を削り、魔導師見習いが導管に符を刻む。イルマは黙って作業を手伝い、祖父は腕組みしながら「ふむ、悪くない」と頷く。場がざわつきつつも、ちゃんと動いているのが面白い。
数日後、試作機――長い銃身をもつ“魔導銃”が完成した。見た目は素朴だ。だがその中には、学院で学んだ理屈と職人の工夫がぎゅっと詰まっている。
「使い方は簡単です。杖を握って魔力を注ぎ、引き金を引く。杖持ちなら、魔法石がなくても発射できます。ただし――」
リヒャルトの声が少し小さくなる。私はその「ただし」という言葉に戦慄する天秤を感じた。
「杖なしの者は必ず魔法石を装填しないと弾を飛ばせません。威力は杖の有無と魔力注入量に依存します。中規模の威力までは杖だけで出せますが、大規模魔法級を狙うなら杖の魔力だけでは不十分で、魔法石の併用が必須です。それと、反動と魔力消耗がかなり大きい」
「反動って、物理的な?」と私は訊ねる。想像しただけで背筋がざわつく。
「ええ。魔導銃は魔力を一点に集中するので、発射時に放出された反動が手元に戻ってきます。杖で制御する分には問題ないですが、魔力の少ない者だと腕ごと吹き飛ばされかねません。あと、連射は論外です。魔力が枯渇します」
イルマがにやりと笑った。
「一発で決めるのが良さそうですね、大物向けのようです」
祖父は真顔で指を鳴らす。
「ならば、やってみるか」
いつの間にか、私の胸は高鳴っていた。怖かったはずなのに、武器で“遠くから守る”という発想が、妙に希望をくれるからだ。
試射場に出る。目標の枯れ木を置き、リヒャルトが慎重に照準を合わせる。私は杖を構え、魔力を流し込む。手のひらが温かく、芯から燃えるような感覚がぐわっと上がる。
「魔力注入、完了。発射!」
引き金を引く。鋭い閃光が銃口を切り裂き、鋭い衝撃が手首を揺らした。枯れ木の中央に直撃し、乾いた破裂音と共に衝撃波が広がる。木は黒焦げの粉になって、ぱっと吹き飛んだ。
「成功だ!」
リヒャルトの顔に、久しぶりの笑顔が戻る。
だが同時に私は自分の腕が妙に重く、身体の奥がくらりとしたのを感じた。魔力が思ったより奪われている。
「反動、来ましたね。思ったより強い。数回は無理でしょう」とイルマが呟く。
「そして、これを巨大威力にすると――付近の植生にまで被害が出る」と祖父が渋い声で続ける。
成功の喜びと、不安の二つが渦巻く。威力は確かにあった。だが代償もあった。魔力の消耗、反動の危険性、そして――素材の在庫。
「これ、素材も無くなるよね」
私は無意識に呟く。魔獣を吹き飛ばすほどの威力を使えば、目的の素材(魔獣の部位)を飛散させてしまう可能性がある。素材回収の問題は後で耳触りの悪い現実になるだろう。
リヒャルトは真剣な顔で私を見た。
「まずは“使いどころ”と“運用方法”を練る必要があります。単発式は有用ですが、運用には熟練と補助が要ります。あとは、魔法石の供給と回収計画も」
私は深呼吸をして、拳を固めた。怖い。でも、これで少しは希望が持てる。遠くから領民を護れる手段が生まれたのだ。
「わかった。訓練を重ねよう。反動と消耗を抑える方法を考える。そのために――リヒャルト、君の知識が必要だよ」
リヒャルトは顔を赤らめて、しかし確かな決意を返してくれた。
「はい、エレオノーラ様。一生懸命やりますね」
その声に、私は少しだけ笑った。怖さは残るけれど、仲間がいる。だから、やれることがあるのだと――そう思えた。
彼は小柄で気弱そうだけれど、魔道具のことになると目つきが真剣になる。まるで別人だ。
「学院では、十六歳以上は専門分野に分かれて研究するんです。私は魔道具学に傾倒していて――その延長線で、今回の設計を詰めました」
リヒャルトが薄い本を取り出し、図面をひらひらさせる。数字と装飾線でいっぱいのページが、私にはちょっとした魔法書に見えた。
「単発式のプロトタイプです。構造は単純にして頑丈に。魔力の集中と放出を瞬間的に促す導管をここに組んで――」
「要するに“撃つだけ”。でも、魔力の注入方法で性質が変わる、と」
私が端的にまとめると、リヒャルトは嬉しそうにうなずいた。
職人たちが金属を削り、魔導師見習いが導管に符を刻む。イルマは黙って作業を手伝い、祖父は腕組みしながら「ふむ、悪くない」と頷く。場がざわつきつつも、ちゃんと動いているのが面白い。
数日後、試作機――長い銃身をもつ“魔導銃”が完成した。見た目は素朴だ。だがその中には、学院で学んだ理屈と職人の工夫がぎゅっと詰まっている。
「使い方は簡単です。杖を握って魔力を注ぎ、引き金を引く。杖持ちなら、魔法石がなくても発射できます。ただし――」
リヒャルトの声が少し小さくなる。私はその「ただし」という言葉に戦慄する天秤を感じた。
「杖なしの者は必ず魔法石を装填しないと弾を飛ばせません。威力は杖の有無と魔力注入量に依存します。中規模の威力までは杖だけで出せますが、大規模魔法級を狙うなら杖の魔力だけでは不十分で、魔法石の併用が必須です。それと、反動と魔力消耗がかなり大きい」
「反動って、物理的な?」と私は訊ねる。想像しただけで背筋がざわつく。
「ええ。魔導銃は魔力を一点に集中するので、発射時に放出された反動が手元に戻ってきます。杖で制御する分には問題ないですが、魔力の少ない者だと腕ごと吹き飛ばされかねません。あと、連射は論外です。魔力が枯渇します」
イルマがにやりと笑った。
「一発で決めるのが良さそうですね、大物向けのようです」
祖父は真顔で指を鳴らす。
「ならば、やってみるか」
いつの間にか、私の胸は高鳴っていた。怖かったはずなのに、武器で“遠くから守る”という発想が、妙に希望をくれるからだ。
試射場に出る。目標の枯れ木を置き、リヒャルトが慎重に照準を合わせる。私は杖を構え、魔力を流し込む。手のひらが温かく、芯から燃えるような感覚がぐわっと上がる。
「魔力注入、完了。発射!」
引き金を引く。鋭い閃光が銃口を切り裂き、鋭い衝撃が手首を揺らした。枯れ木の中央に直撃し、乾いた破裂音と共に衝撃波が広がる。木は黒焦げの粉になって、ぱっと吹き飛んだ。
「成功だ!」
リヒャルトの顔に、久しぶりの笑顔が戻る。
だが同時に私は自分の腕が妙に重く、身体の奥がくらりとしたのを感じた。魔力が思ったより奪われている。
「反動、来ましたね。思ったより強い。数回は無理でしょう」とイルマが呟く。
「そして、これを巨大威力にすると――付近の植生にまで被害が出る」と祖父が渋い声で続ける。
成功の喜びと、不安の二つが渦巻く。威力は確かにあった。だが代償もあった。魔力の消耗、反動の危険性、そして――素材の在庫。
「これ、素材も無くなるよね」
私は無意識に呟く。魔獣を吹き飛ばすほどの威力を使えば、目的の素材(魔獣の部位)を飛散させてしまう可能性がある。素材回収の問題は後で耳触りの悪い現実になるだろう。
リヒャルトは真剣な顔で私を見た。
「まずは“使いどころ”と“運用方法”を練る必要があります。単発式は有用ですが、運用には熟練と補助が要ります。あとは、魔法石の供給と回収計画も」
私は深呼吸をして、拳を固めた。怖い。でも、これで少しは希望が持てる。遠くから領民を護れる手段が生まれたのだ。
「わかった。訓練を重ねよう。反動と消耗を抑える方法を考える。そのために――リヒャルト、君の知識が必要だよ」
リヒャルトは顔を赤らめて、しかし確かな決意を返してくれた。
「はい、エレオノーラ様。一生懸命やりますね」
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