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第8章 祝福の声
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風が街道を吹き抜け、乾いた土の匂いが漂っていた。
長い戦で荒れ果てた畑には、ようやく緑が芽吹き始めている。
焼け落ちた家々の間には仮設の市が立ち、民衆のざわめきが広がっていた。
その中心を、二人を乗せた馬車が進んでいく。
銀の髪を覆うヴェールを揺らし、エリシアーナは胸の奥に微かな緊張を抱えていた。
民衆の視線は温かさだけではなかった。
かつて刃を交え、敵として立ちはだかった女。
和平の象徴とされながらも、心から受け入れられるかどうか――彼女自身が最も恐れていたことだった。
「顔を上げろ、エリシア」
隣に座るレオンハルトの声が低く響く。
その手がそっと彼女の指を包み、力を込める。
黒い瞳に宿る光は迷いなく、ただまっすぐだった。
「お前は俺の妻だ。誰にどう思われようと、俺が誇りに思う」
その言葉に、胸の緊張が少し解けた。
馬車が止まり、扉が開く。
二人は並んで外へと降り立った。
ざわめきが広がる。
民衆の視線が集まり、息を呑む気配が伝わる。
その沈黙の中、レオンハルトは一歩前に進み、エリシアーナの手をしっかりと取った。
彼女もまた、その手を握り返す。
銀と黒が並び立つ。
光を浴びた二人の姿に、最初の声が上がった。
「……お幸せに!」
それはかすかな叫びだった。
だが、それを皮切りにあちこちから声が重なり、やがて大きな歓声へと膨らんでいく。
「お幸せに!」
「ありがとう……!」
「平和を……!」
涙を流す者もいた。
戦で家族を失った者、飢えに苦しんだ者、その全てが、今この瞬間に「未来」を見ようとしていた。
エリシアーナは胸に熱いものを覚えた。
かつて敵と呼ばれた人々の視線が、今は祝福に満ちている。
彼女の頬に涙が伝う。
レオンハルトはその横顔を見つめ、静かに囁いた。
「聞こえるか。これがお前への祝福だ」
銀の瞳が彼を見返す。
その奥には、戦乱を超えて結ばれた絆が確かに宿っていた。
歓声が広がる中、二人は肩を並べて進んでいく。
握りしめた手は離れることなく、未来へと向かっていた。
――こうして、戦を超えた二人は、和平の象徴として人々の祝福を受けた。
そして、その声は遠い空へと響き渡っていった。
長い戦で荒れ果てた畑には、ようやく緑が芽吹き始めている。
焼け落ちた家々の間には仮設の市が立ち、民衆のざわめきが広がっていた。
その中心を、二人を乗せた馬車が進んでいく。
銀の髪を覆うヴェールを揺らし、エリシアーナは胸の奥に微かな緊張を抱えていた。
民衆の視線は温かさだけではなかった。
かつて刃を交え、敵として立ちはだかった女。
和平の象徴とされながらも、心から受け入れられるかどうか――彼女自身が最も恐れていたことだった。
「顔を上げろ、エリシア」
隣に座るレオンハルトの声が低く響く。
その手がそっと彼女の指を包み、力を込める。
黒い瞳に宿る光は迷いなく、ただまっすぐだった。
「お前は俺の妻だ。誰にどう思われようと、俺が誇りに思う」
その言葉に、胸の緊張が少し解けた。
馬車が止まり、扉が開く。
二人は並んで外へと降り立った。
ざわめきが広がる。
民衆の視線が集まり、息を呑む気配が伝わる。
その沈黙の中、レオンハルトは一歩前に進み、エリシアーナの手をしっかりと取った。
彼女もまた、その手を握り返す。
銀と黒が並び立つ。
光を浴びた二人の姿に、最初の声が上がった。
「……お幸せに!」
それはかすかな叫びだった。
だが、それを皮切りにあちこちから声が重なり、やがて大きな歓声へと膨らんでいく。
「お幸せに!」
「ありがとう……!」
「平和を……!」
涙を流す者もいた。
戦で家族を失った者、飢えに苦しんだ者、その全てが、今この瞬間に「未来」を見ようとしていた。
エリシアーナは胸に熱いものを覚えた。
かつて敵と呼ばれた人々の視線が、今は祝福に満ちている。
彼女の頬に涙が伝う。
レオンハルトはその横顔を見つめ、静かに囁いた。
「聞こえるか。これがお前への祝福だ」
銀の瞳が彼を見返す。
その奥には、戦乱を超えて結ばれた絆が確かに宿っていた。
歓声が広がる中、二人は肩を並べて進んでいく。
握りしめた手は離れることなく、未来へと向かっていた。
――こうして、戦を超えた二人は、和平の象徴として人々の祝福を受けた。
そして、その声は遠い空へと響き渡っていった。
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