都合のいい妻でいるのをやめただけですが、問題ありますか?――夫の提案に従っただけですが

藤原遊

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第7話 跡継ぎ問題

その話が持ち出されたのは、夜会から数日後のことだった。

公爵家の応接間には、家宰をはじめとした家臣たちが揃っている。誰も声を荒げることはないが、言葉の選び方には余裕がなく、慎重さと切迫が同じ重さで混じっていた。

私は席に着き、用意された茶に手を伸ばさないまま、やり取りを聞いている。

「後継ぎの件でございます」

家宰が切り出した。

「現状のままでは、時間が経過するほど不利になります。」

公爵は答えない。

「理由については、申し上げるまでもございません。現在のご事情では、どの家も踏み込めません」

一拍だけ間を置く。

「公爵夫人様が王弟殿下の公妾である以上、婚姻関係は形式上維持されていても、実質は動かせないと見られております」

言葉は穏やかだが、逃げ道は残していない。

別の家臣が続ける。

「新たなご縁を進める場合、妾の扱いになります。同等の家格では応じる見込みが低く、結果として家格を下げる、またはワケありの方を引き取る形になります。しかし、それでは後継ぎの教育と将来の統治に支障が出ます」

「加えて」

別の声が重なる。

「現在お付き合いのある伯爵未亡人につきましては、後継ぎを望める状況ではございません」

言い切らないが、意味は十分に通る。

「いずれの形でも、後継ぎが得られない状況にございます」

室内が静まる。

誰も否定しない。

公爵は視線を落としたまま、動かない。

「このままでは、家の維持に関わります」

家宰が静かに言い切る。

私はそのやり取りを聞きながら、ようやくカップに手を伸ばした。口に含むと、茶は少し冷めているが、味は変わらない。

視線を上げる。

公爵の手が肘掛けの上でわずかに動きかけては止まり、言葉の代わりに逡巡だけが残る。

「……対処を」

控えめな声が落ちる。

だが、その先は続かない。

後継ぎを得るには婚姻を整える必要がある。
婚姻を整えるには、現状を動かす必要がある。
そのどちらも、今の形では手が届かない。

公爵がゆっくりと息を吐いた。

「分かっている」

短い一言だったが、それ以上を許さない響きがあった。

家臣たちはそれを受け、それぞれに視線を落とす。議論が終わったわけではない。ただ、ここで続けても前に進まないと分かっている。

私はカップをソーサーに戻す。

「お話は以上でしょうか」

静かに声を挟むと、家宰が顔を上げた。

「……はい。本日はこれにて」

それ以上はない。

私は立ち上がる。

「では、失礼いたします」

椅子がわずかに軋む音を残し、その場を離れる。

背後で誰かが息を整える気配がしたが、振り返ることはしない。

扉を抜けると、廊下は静まり返っている。

先ほどまでの重さが嘘のように、外の空気は何も知らないままだ。

足音だけが一定の間隔で続く。
私は歩みを止めず、そのまま進んだ。
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