【完結】孤独を抱いた英雄と、孤独に生まれた魔法使い〜元Sランクと訳あり美少年の共同生活〜

藤原遊

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街の石畳を、二人分の足音が鳴っていた。

リュカは深くフードをかぶり、視線を落として歩いていた。
魔力を抑える加工のされたローブは確かに効果的で、
周囲の人の目は、それほど強く彼を捉えてこなかった。

それでも、身体がこわばるのを完全に止めることはできなかった。

隣を歩く彼女は、何も言わない。
道を選び、人混みを避けながら、時々「こっち」とだけ小さく声をかけてくれる。

 

市場の一角。露店の前で立ち止まると、彼女が言った。

「今日の目的はこれ。スパイスと保存食。あとは、リュカの好きそうな甘いやつ」

「……別に、好きとか……」

「うんうん、そういう年頃ってそういうこと言うよね」

軽くあしらわれて、リュカは言葉を詰まらせた。
口調も態度も、まるで普通の人間に対するそれと変わらない。

 

そこで、ひとりの青年冒険者が声をかけてきた。

「あれ? お疲れさまです、姉さん。そっちの子、新人さん?」

「うん。ちょっと訳あってね。魔法使いでしょ、リュカ」

主人公はあっさりそう言って、リュカの肩を軽く叩いた。
青年冒険者は、まるで当然のようにリュカに向かって笑みを向ける。

「よろしくな、魔法使いくん。最初は大変だけど、姉さんの下なら安心だよ」

「…………」

リュカは、言葉が出なかった。

目の前の人間は、怯えてもいなければ、過剰に崇拝しているわけでもない。
ただ、“新人の魔法使い”として自然に接してきただけだった。

「……あ、えっと……よろしく……」

なんとかしぼり出した声に、青年冒険者はにっこり笑って手を振って去っていった。

 

(……おかしい)

胸の奥が、ざわつく。
今まで、人の視線は常に不自然だった。

魅了の呪い。
目が合った瞬間に顔が赤くなり、近づいてきて、言葉が乱れ――
そうして、崩れていく感情の形しか知らなかった。

けれど、今のは――違った。

普通だった。
普通に出会って、普通に話して、普通に去っていった。

それが、どうしようもなく怖かった。

 

「大丈夫? ちょっと顔色悪いよ」

彼女が何気なくそう言って、露店の軒先で瓶詰めのハーブを手に取る。

「……あの人、俺のこと、普通に……」

「うん。そりゃそうでしょ。新人魔法使いくん、だもんね」

「でも、俺……」

「リュカ」

呼ばれて、顔を上げる。

「この街の人たち、そういうところ割と慣れてるんだよね。
魔法使いだって、耳の長い子だって、皮膚が青いのだって、何人もいる。
もちろん最初は珍しがるけど、すぐ慣れる。
――うちの壁、厚いしね」

それは、まるで何かを肯定するような言葉だった。

「……じゃあ、俺が何でもなく見えてる?」

「うん。たぶん、ちゃんと“リュカ”に見えてると思うよ」

 

そのひとことに、リュカは言葉を失った。

 

“ただのリュカ”――そんなふうに見られたのは、きっと初めてだった。
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