【完結】孤独を抱いた英雄と、孤独に生まれた魔法使い〜元Sランクと訳あり美少年の共同生活〜

藤原遊

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ギルドの掲示板前。
今日は訓練ではなく、シズナの用事に付き合って来ていた。

リュカは横で待っている間、ふと掲示板に貼られた古びた紙に目を留めた。

――《スタンピート撃退英雄:Sランク冒険者シズナ・アルレイア》

そこには、今よりずっと若く、槍を持って立つ少女の姿があった。

背筋はまっすぐ、瞳は鋭く、炎のような威圧感をまとっている。
だけど、間違いなく――その人は、今、自分のそばを歩く“シズナ”だった。

 

「……これ、あなた……なの?」

思わず尋ねた声に、シズナは振り返り、目を細めた。

「うん。若いころの話。まだ槍を使ってた頃だね」

あまりにもあっさりと、それを口にする。

「スタンピートって……」

「ああ、大規模な魔物の氾濫。
あのとき、街が落ちる寸前でね。私が抑えたってことになってるけど――
ほんとは、仲間たちがいてくれたからこそ、なんとかできただけだよ」

 

リュカは、言葉を失っていた。

自分が今、魔法の盾ひとつ張っただけで、胸を高鳴らせていたことを思い出す。
それは、子どもを守った大事なことだった。
けれど、この人は、その何十倍もの命を救っていた。

“規模”じゃない、“経験”じゃない――
そう言い聞かせようとしても、胸の奥が静かに冷たくなる。

 

(……俺は、助けられてばっかりだ)

拾われて、助けられて、育てられて、魔法を教えてもらって。
自分から何かを与えたことなんて、あるだろうか。

「……すごい、ですね」

それだけを絞り出すように言ったリュカの声は、小さく、かすれていた。

 

シズナは、その声の色をちゃんと聞き取っていた。

「……ねえ、リュカ」

「……はい」

「私もね、最初から“英雄”だったわけじゃないよ。
戦い方を教えてもらって、剣を拾って、どうしても守りたい場所ができて――
それだけ。あとは、怪我して、失って、今に至るだけ」

「でも……」

「あなたも、いま、自分で動いてる。
昨日、子どもを守ったのも、訓練してるのも。
昔の私と、そんなに違うとは思わないよ」

 

その言葉に、リュカは目を見開いた。

「……似てるんですか、俺と?」

「うん。ちゃんと“なろう”としてる人って、みんな似てる」

そう言って、シズナは掲示板に貼られた過去の自分の顔を見上げ、少しだけ苦笑した。

「でも――あれはもう、過去。
今の私は、こっちだから」

そう言って、少し首を傾けて、リュカの顔をまっすぐに見た。

「こっちの私も、悪くないでしょ?」

 

(……はい)

リュカは、声には出さず、強くうなずいた。

“英雄”という言葉の向こうで、
自分と同じように立ち止まり、進んできた人の姿が見えた気がした。

 

 

ギルドを出ると、夕暮れの風が頬を撫でた。
シズナの横を歩くリュカの足取りは、少しだけ軽くなっていた。
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