【完結】孤独を抱いた英雄と、孤独に生まれた魔法使い〜元Sランクと訳あり美少年の共同生活〜

藤原遊

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シズナたちが街を離れてから、三日が経った。

リュカはその間、朝も昼も、家の裏庭で黙々と魔法の練習を続けていた。
時折、通りがかった冒険者たちが興味深げに足を止めるが、声をかける者は少ない。

 

それもそのはずだった。

リュカは、手袋、マスク、フード付きローブをしっかりと身につけ、
素肌が一切見えないようにしていた。

まるで、人に触れられるのを避けているように。

――いや、実際、避けていた。

 

(魅了が出たら、面倒なことになる)

自分が「他人を狂わせてしまう可能性がある」ことを、
リュカは知っていた。
それを“呪い”と呼びたくなるほどに、過去には何度も後悔してきた。

だから、触れない。触らせない。

そう決めていた。

 

冒険者たちは、その様子に気づいていた。

「……あの子、顔、すごい整ってるな……けど、触れられないようにしてる」

「何か、あったんだろうな。無理に関わっちゃ悪い」

そんなふうに、そっと見守るように扱ってくれる者が多かった。

 

けれど、その日の昼下がり。
柵の向こうから、やわらかい声がかけられた。

「よっ。ひとりでずっと練習してるみたいだけど……」

リュカが振り向くと、
明るい栗色の髪を後ろで結んだ青年が、気さくな笑みを浮かべて立っていた。

「魔法の使い方、ちょっとバランス悪くない? 火球と盾、ああいう順番なら逆のほうが安全だよ」

青年は、軽く手を上げて自己紹介するように言った。

「俺、カイル=エストラ。魔法使いで、今はBランク冒険者やってる。後衛火力ってやつ」

リュカは、やや警戒したまま距離を保ちつつ、うなずく。

カイルは、その反応を見て、自然に言葉を足した。

「別に、無理に近づいたりしないよ。
……見ればわかる。触られるの、嫌なんだろ?」

言われて、リュカの肩がすこし揺れた。

けれど、それは嫌悪でも怒りでもない。

 

(……わかってくれる人、いるんだ)

それが、少しだけ、救いだった。

「……お願いします」

リュカは口を開いた。声はかすれていたけれど、はっきりと届いた。

 

***

 

それから、リュカはカイルと共に、訓練場での実戦形式の練習を始めた。

接触は禁止。魔法のみの対人模擬訓練。

カイルはベテランらしく、指導も要点を突いていた。

「火球、タイミングいい。でもな、魔力の流れが急すぎると読みやすくなるから、もうちょい抑えて」

「はい……」

「盾展開は上手いけど、三回に一回、ほんのちょっと遅れてる。
そのぶん、詠唱開始を早めるか、魔力回しを軽くする方が安定するかも」

「……やってみます」

カイルは、必要なことだけを淡々と伝える。

それでも言葉は柔らかく、常にリュカの反応を気にかけていた。

 

(やっぱり、冒険者って……すごい)

独りでは気づかなかった癖や、魔法の癖が見えてくる。

そして何より、人と関わることで得られる実感が、そこにはあった。

 

「なあ、名前って――リュカで合ってた?」

「……はい」

「そっか。リュカ。
あんまり無理すんなよ。お前、ちょっと頑張りすぎるとこあるからさ」

ふっと、リュカの胸が熱くなった。

 

(……この人、優しい)

それだけで、今日の訓練は、十分すぎるほどだった。

 

***

 

その夜、リュカが帰宅すると、シズナからの手紙が届いていた。

「調査は一段落。明日か明後日には帰れそう」

それだけの文に、深い安堵が宿る。

(……おかえり、って言いたい)

それだけの想いが、確かにあった。
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