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街は平穏を取り戻したかのように見えた。
外壁の補修はほぼ終わり、ギルドには次のクエスト情報が次々と貼り出されていた。
リュカは、朝からシズナの家の裏手で魔法の練習をしていた。
日課となった基礎魔法の反復と、体力づくりの軽い走り込み。
毎日少しずつ積み重ねたそれは、確かに彼の身体を変えていた。
「よし……次は、簡易結界の展開練習……」
両手を前に出し、魔力を薄く広げる。
周囲の空気がぴたりと張り詰める感覚――リュカは深く息を吐いた。
「最近、体力ついたね」
ふいに背後からかけられた声に振り向けば、シズナが水差しを片手に笑っていた。
「ありがとう、もらいます」
何気ない会話。けれど、リュカにとってはそれが心地よかった。
ここに居てもいいのだと思わせてくれる、その日常が。
◇
午後。ギルドに立ち寄ったリュカは、カイルに声をかけられる。
「お、来てたか。おまえ、最近ギルドの新米に人気だぞ」
「……え?」
「魔法の心得がある若い子が増えてきてるからな。
『あの人みたいになりたい』って子もいたよ。びっくりしたよ」
リュカは戸惑いながらも、「そうですか」とだけ返した。
照れくささと、どこかむず痒い気持ちが混ざる。
ふと、視界の隅に映ったのは、ギルドの壁沿いに腰かけていた小柄な少年。
まだ十歳ほどか、ギルドに付き添いで来たのだろう。
リュカがそっと目をやると、少年は恥ずかしそうに帽子をいじりながら言った。
「あの、リュカさん……あの光の魔法、すごかったです。僕、いつか、あれ使えるようになりたい」
「……ありがとう」
リュカは、自然と微笑んでいた。
(こんな風に、声をかけられる日が来るなんて、思わなかった)
(俺がこの街にいても、いいのだろうか)
◇
その夜。家の周りの空気が、ほんの少しだけ――重たかった。
シズナは家の外に出て、冷えた空気を吸い込む。
ふと、林の端の影に視線をやった瞬間。
草が、かさりと音を立てて揺れた。
「……何か、いる?」
姿は見えない。ただ、気配だけが残されていた。
魔物特有の、鼻をつくような濁った魔力のにおい。
(リュカに見せないようにしないと)
何もなかったかのように扉を閉め、シズナは静かに息をついた。
(また、誰かが……あの子を探してる?)
彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ鋭く光った。
外壁の補修はほぼ終わり、ギルドには次のクエスト情報が次々と貼り出されていた。
リュカは、朝からシズナの家の裏手で魔法の練習をしていた。
日課となった基礎魔法の反復と、体力づくりの軽い走り込み。
毎日少しずつ積み重ねたそれは、確かに彼の身体を変えていた。
「よし……次は、簡易結界の展開練習……」
両手を前に出し、魔力を薄く広げる。
周囲の空気がぴたりと張り詰める感覚――リュカは深く息を吐いた。
「最近、体力ついたね」
ふいに背後からかけられた声に振り向けば、シズナが水差しを片手に笑っていた。
「ありがとう、もらいます」
何気ない会話。けれど、リュカにとってはそれが心地よかった。
ここに居てもいいのだと思わせてくれる、その日常が。
◇
午後。ギルドに立ち寄ったリュカは、カイルに声をかけられる。
「お、来てたか。おまえ、最近ギルドの新米に人気だぞ」
「……え?」
「魔法の心得がある若い子が増えてきてるからな。
『あの人みたいになりたい』って子もいたよ。びっくりしたよ」
リュカは戸惑いながらも、「そうですか」とだけ返した。
照れくささと、どこかむず痒い気持ちが混ざる。
ふと、視界の隅に映ったのは、ギルドの壁沿いに腰かけていた小柄な少年。
まだ十歳ほどか、ギルドに付き添いで来たのだろう。
リュカがそっと目をやると、少年は恥ずかしそうに帽子をいじりながら言った。
「あの、リュカさん……あの光の魔法、すごかったです。僕、いつか、あれ使えるようになりたい」
「……ありがとう」
リュカは、自然と微笑んでいた。
(こんな風に、声をかけられる日が来るなんて、思わなかった)
(俺がこの街にいても、いいのだろうか)
◇
その夜。家の周りの空気が、ほんの少しだけ――重たかった。
シズナは家の外に出て、冷えた空気を吸い込む。
ふと、林の端の影に視線をやった瞬間。
草が、かさりと音を立てて揺れた。
「……何か、いる?」
姿は見えない。ただ、気配だけが残されていた。
魔物特有の、鼻をつくような濁った魔力のにおい。
(リュカに見せないようにしないと)
何もなかったかのように扉を閉め、シズナは静かに息をついた。
(また、誰かが……あの子を探してる?)
彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ鋭く光った。
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