【完結】孤独を抱いた英雄と、孤独に生まれた魔法使い〜元Sランクと訳あり美少年の共同生活〜

藤原遊

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「……最近さ。なんか、変じゃない?」

ギルドの休憩スペースで、カイルがつぶやいた。

「何が?」

「いや、あんまり大きな声じゃ言えないけど……ちょっとした“異変”が出てきてるらしいんだよ」

 

リュカはその言葉に、手を止めた。

「異変、ですか?」

「うん。依頼帰りの冒険者が、しばらくのあいだ言動がおかしくなるとか。妙に攻撃的になったり、逆に何も話せなくなったり。重症ってわけじゃないけど、こう……魔物に遭遇したわけでもないのに、精神的な揺らぎが出てるって」

 

リュカの背中に、冷たいものが流れた。

(――魅了)

間違いない。
あれは、自分の“種族”特有のもの。魔族が、外から人の心を撫でるときの波長。

 

「それ、最近?」

「そう。ここ一週間くらいだな。場所もバラバラで、一人ずつだし、誰かが狙われてる感じじゃないんだけど……妙だよなぁ」

カイルは腕を組んで首をかしげた。

 

リュカは答えなかった。けれど内心では、はっきりと危機を察していた。

(来てる。少しずつ、確実に)

 

 



 

その夜、シズナは地図を広げていた。

「最近の依頼、どうも偏ってる気がしてて……」

「何か、気になりますか?」

「……昔、似たことがあったの」

 

そう言ったシズナの顔は、真剣だった。

「大きな魔物の“下見”みたいな動き。あちこちに気配をばらまいて、人間の反応を見る。……それが何度か起きたあとに、スタンピートが来たの」

 

「……」

「まだ断定できないけど、備えはしておこう。カリオスとも少し話してくる」

 

シズナの背筋はまっすぐだった。
それでも、リュカは知っている。彼女は“ひとりで抱え込もうとする”人だ。

 

「俺も、何か調べてみます」

 

言いながら、リュカは自分の中に生まれている不安の正体を確かめようとしていた。

 

 



 

ギルドの神官、ユリアンがリュカに静かに声をかけてきたのは、その翌日だった。

「……君の目が、少し強くなったね」

「え?」

「君は、どちらかを選ばなければならない時期に来ている。でも、焦らなくていい。傍に“誰がいるか”で、心の形は変わるから」

 

「俺の、傍……」

リュカは自然に、シズナの姿を思い浮かべていた。

 

「君が誰かを守ろうとするのなら、きっと君自身も守られるよ」

ユリアンの言葉は、いつも通り穏やかだった。

けれど、その奥にある“知っている”気配が、どこかくすぐったかった。

 

 



 

その日の夜。

窓の外を見ながら、リュカは静かに呟いた。

「……誰にも、手を出させない」

それが、どんなに無謀でも。

自分が“この街で生きている”ということを、初めてはっきりと誓えた気がした。
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