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◇
その日、リュカはいつも通りギルドに顔を出していた。
シズナは別のクエストで外に出ており、今日は一人で簡単な仕事を引き受けている。
掲示板の前で依頼を見ていると、背後から声がかかった。
「やあ、リュカくん。ちょっと手伝ってくれないか?」
声をかけてきたのは、街の治安を任される兵団の副官だった。
簡単な護衛任務とのことで、リュカはそれを了承する。
「了解しました。すぐに準備します」
◇
しかし、任務の途中、異変が起きた。
通りすがりの街外れ――
地面の裂け目から、突如現れた魔物。
それは、通常の群れとは異なる、獰猛な個体だった。
「……なんで、こんなところに?」
リュカが呟く間もなく、襲い掛かる魔物。
副官は咄嗟に身を引き、リュカを指差す。
「魔法使い、いけ!」
リュカは応じるように魔力を練る。
けれど――
そのときだった。
突如、魔物がリュカの方を向き、怯えたように動きを止めた。
そして、唸り声をあげながら、逃げ出そうとしたのだ。
(……気づかれた?)
リュカの中の、魔族としての“何か”が漏れ出した瞬間だった。
それを見ていた副官が、目を見開いた。
「おい……今の、何だ?」
「……何でも、ありません」
「いや、明らかに様子がおかしかった。魔物が、お前に“恐れ”を見せたぞ」
周囲にいた兵士たちも、その異変に気づいていた。
リュカは一歩引く。
(……まずい)
◇
その報告は、すぐにギルドに伝わった。
ギルド長のカリオスが即座に事態を把握し、仲間たちに指示を出す。
「確認に行く。カイル、ユリアン、同行を」
やがて、ギルドに戻ってきたリュカを、数人の視線が迎えた。
中には、あからさまに警戒を強める者もいる。
だが――
その中で、カイルがまっすぐに声をかけてくれた。
「おかえり、リュカ。大丈夫だったか?」
リュカは驚いたように瞬き、そして、小さく頷いた。
「……はい。ありがとう、カイルさん」
その温かさに、わずかに胸がほどけた。
そして――
ギルドの扉が開き、シズナが入ってくる。
「……ああ、もう。私が留守の間に何やってるの」
周囲の空気が固まる中、シズナは堂々とリュカの隣に立ち、言った。
「この子は、私が信じてる。だから、問い詰めるならまず私にして」
静まり返るギルドの空気。
その中で、リュカの目が揺れた。
(……庇って、くれた)
この瞬間、初めて――
彼は“自分が選ばれた”ということを、肌で感じた。
◇
その夜、リュカはシズナの隣で小さく呟いた。
「……俺、人として見てくれるのは、あなただけかもしれない」
「違うよ」
シズナは即座に返す。
「もう、街の人たちも、あなたを“仲間”として見てる。私はそれを信じてる」
その言葉に、リュカはようやく――
涙を流すことができた。
その日、リュカはいつも通りギルドに顔を出していた。
シズナは別のクエストで外に出ており、今日は一人で簡単な仕事を引き受けている。
掲示板の前で依頼を見ていると、背後から声がかかった。
「やあ、リュカくん。ちょっと手伝ってくれないか?」
声をかけてきたのは、街の治安を任される兵団の副官だった。
簡単な護衛任務とのことで、リュカはそれを了承する。
「了解しました。すぐに準備します」
◇
しかし、任務の途中、異変が起きた。
通りすがりの街外れ――
地面の裂け目から、突如現れた魔物。
それは、通常の群れとは異なる、獰猛な個体だった。
「……なんで、こんなところに?」
リュカが呟く間もなく、襲い掛かる魔物。
副官は咄嗟に身を引き、リュカを指差す。
「魔法使い、いけ!」
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けれど――
そのときだった。
突如、魔物がリュカの方を向き、怯えたように動きを止めた。
そして、唸り声をあげながら、逃げ出そうとしたのだ。
(……気づかれた?)
リュカの中の、魔族としての“何か”が漏れ出した瞬間だった。
それを見ていた副官が、目を見開いた。
「おい……今の、何だ?」
「……何でも、ありません」
「いや、明らかに様子がおかしかった。魔物が、お前に“恐れ”を見せたぞ」
周囲にいた兵士たちも、その異変に気づいていた。
リュカは一歩引く。
(……まずい)
◇
その報告は、すぐにギルドに伝わった。
ギルド長のカリオスが即座に事態を把握し、仲間たちに指示を出す。
「確認に行く。カイル、ユリアン、同行を」
やがて、ギルドに戻ってきたリュカを、数人の視線が迎えた。
中には、あからさまに警戒を強める者もいる。
だが――
その中で、カイルがまっすぐに声をかけてくれた。
「おかえり、リュカ。大丈夫だったか?」
リュカは驚いたように瞬き、そして、小さく頷いた。
「……はい。ありがとう、カイルさん」
その温かさに、わずかに胸がほどけた。
そして――
ギルドの扉が開き、シズナが入ってくる。
「……ああ、もう。私が留守の間に何やってるの」
周囲の空気が固まる中、シズナは堂々とリュカの隣に立ち、言った。
「この子は、私が信じてる。だから、問い詰めるならまず私にして」
静まり返るギルドの空気。
その中で、リュカの目が揺れた。
(……庇って、くれた)
この瞬間、初めて――
彼は“自分が選ばれた”ということを、肌で感じた。
◇
その夜、リュカはシズナの隣で小さく呟いた。
「……俺、人として見てくれるのは、あなただけかもしれない」
「違うよ」
シズナは即座に返す。
「もう、街の人たちも、あなたを“仲間”として見てる。私はそれを信じてる」
その言葉に、リュカはようやく――
涙を流すことができた。
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