病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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秋風が吹き抜け、木々は赤く色づきはじめていた。
王都の空気は徐々に落ち着きを取り戻し、夏の喧騒が嘘のように思えるほど静かだった。
けれど、その裏で蠢くものは確かにある。リリーナはその空気を肌で感じていた。

王城の奥、応接の間。
淡い香が焚かれた空間で、リリーナはカミラとエドガーを前に、静かに紅茶を口にしていた。

「――で、東のギルド経由の資金流れがまた確認されたの?」

「はい。表向きは交易の名目でしたが、金額と頻度が不自然に跳ねています。
いくつかの小領主を経由して、ある貴族派閥に集められている可能性が高いです」

エドガーが淡々と答える。
その黒魔法の技能を生かし、商人や使用人にまで目を光らせる彼の情報網は、もはや王都の一角に深く根を下ろしていた。

「それ、どこの頭の軽い坊っちゃん?」

と、扇子をぱたぱたさせながらカミラが口を挟んだ。
けれどその目は笑っていない。

「今はまだ明言を避けるべきですわ。泳がせましょう」

リリーナの声音は穏やかだったが、その裏には凍えるような冷たさがあった。

「罠にかける?」

「ええ。資金源が何であれ、それを断たれたら困る人間は、必ず焦ります。
――焦った相手は、自ら次の動きを起こす。そこで仕留めます」

リリーナはティーカップを静かに置いた。

「こちらも、資金の流れをひとつずつ封じていきましょう。
慈善事業への補助金制度を再編し、商人ギルドへの融資優先枠を変更して」

「大胆ね。自分たちの地盤すらも弄るつもり?」

カミラが苦笑混じりに言うと、リリーナは首を傾げた。

「そのために、今まで築いてきた信用があるんですもの。
信頼とは、時にこちらから“踏み出す”ことでより強固になるものです」

「……本当にあなた、たまに怖いわよ」

ぽつりと呟くカミラに、リリーナは微笑を返した。

「ユリアンのためですもの。怖いくらいでちょうどいいでしょう?」

室内に一瞬の沈黙が流れ、やがてエドガーが小さく咳払いをして言った。

「とはいえ、過度な締め付けは逆効果になりかねません。
“誰が仕掛けてきたか”を特定するまでは、こちらの仕掛けも慎重に」

「もちろん。糸を切るのは、もう少し先。
でも――餌は、もう垂らしました」

リリーナの瞳は窓の外、風に揺れる紅葉へ向けられていた。
その目には微かな光と、鋭く研ぎ澄まされた意志が宿っていた。

(まだ慌てるには早い。けれど、風向きは確実に変わり始めている。
――あとは、誰が最初に喰いつくか)

音もなく、季節は進んでいく。
赤く染まりゆく街の下で、次なる局面の幕が静かに上がろうとしていた。
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