病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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春の陽光が差し込む政庁の窓辺に立ちながら、ユリアンは静かに指先を組んだ。
これまでのような無邪気な少年の姿は、そこにはなかった。
美しい金の髪をなでる風さえ、彼の表情に触れるのを躊躇うかのようだ。

王城には、目に見えぬ緊張が張りつめていた。
冬の舞踏会を境に、政局は大きく揺れた。
第二王子暗殺未遂の衝撃は、宮廷内だけでなく、各地の有力貴族にも波紋を広げている。
その背後にある不穏な力関係を察した者たちは、次に誰が頂に立つのかを本気で見極めはじめていた。

「今が機だ」

ユリアンは小声で呟き、机に広げられた書簡に目を通す。
筆跡は整っていたが、文面の端々に焦りと不安が滲んでいた。
最近、各地の地方貴族の若手が動き出し、彼へ密かに支持を示している。
彼らは皆、これまでリリーナの慈善と奨学金制度に恩を受け、教会や官僚から派遣されて今の地位を築いた者たちだ。

姉が築いた土台。
その上に、自分は立たなければならない。

部屋にノックの音が響いた。
ユリアンの了承を得て扉を開けたのは、エドガーだった。

「予想以上の速度で支持が広がっています」
エドガーは報告書を差し出しながら言った。
「この春の官吏任命で、貴族家に属さない者が多く採用された。殿下の名での推薦も通りました。政庁内部も、少しずつ変わりつつあります」

ユリアンは黙って報告書を受け取り、眼を通した。
その瞳には、もう少年の迷いはなかった。

「……ならば、次は枢密院の改革を提案する」
「大胆ですね。支持が割れるかと」

「割れた方がいい」
ユリアンは静かに言い放った。
「……割れれば、動いた者が誰か、はっきりする。次に排除すべき対象が見える」

その言葉に、エドガーは一瞬だけ沈黙した。
その後、かすかに口元を上げる。

「……変わられましたね、殿下」
「姉さまを傷つけた世界を、そのままにはしない」
「承知しました」

ユリアンは立ち上がり、窓の外を見た。
離宮のある丘が、遠く霞んで見える。

姉さまは、あの日から目を覚ましていない。
白魔法の癒し手も、教会の祈りも、回復を確約できていない。

それでも――

(あなたの作った道を、僕が歩く。
あなたの命を賭けた未来を、僕が守る)

胸元には砕けたアクアマリンの破片を仕込んだ、新たな護り石が揺れていた。
春の風に乗って、静かな革命の足音が広がりはじめていた。
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