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第4章 危うい日々
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石畳の埃が舞い上がる中、彼女は息を整え、深く礼をした。
「……助けていただき、ありがとうございます。グラシア辺境伯令息」
声は震えていない。侯爵令嬢として相応しく、完璧に整えられた調子だった。
けれど、その「他人行儀さ」に、ユリウスは胸を抉られるような痛みを覚える。
(……やっぱり。もう俺を“親しい相手”としては見てくれないんだな)
けれど同時に、理解もしていた。
彼女がそこまで線を引かずにはいられないほど、傷ついていることを。
「怪我はしていないか」
「……問題ありません」
毅然と告げる声。その細い体が微かに震えているのに、彼女は絶対に弱さを見せない。
だからユリウスは、彼女の言葉を遮るように抱き上げた。
「――っ!?」
「検める。怪我があったら遅いからな」
気づけば、お姫様抱っこの形だった。アメリアの黒髪が腕に流れ、至近距離で見えた横顔は愕然としていた。
「ユリウス様、放して……!」
「駄目だ。ここで無理をするな」
周囲がざわめく。侯爵令嬢を辺境伯令息が抱え上げた――それだけで大きな事件だ。
けれど、ユリウスは一歩も引かない。
「緊急だ。命に関わる状況から助け出したのだ。怪我がないと証明できるまで、俺は責任を持つ」
その真っ直ぐな声音に、周囲は口を噤んだ。
――辺境伯家は、スタンピート、人間と魔物の最前線を担う家。
命を救うことに関して、彼らの判断を疑う者はいない。
「救命活動だからね……」
「まあ……確かに、そうね」
ひそやかな同意の声が広がり、騒ぎは収束していった。
アメリアは唇を噛み、逃げ場をなくした瞳を逸らす。
ユリウスはその震えを感じながら、強く腕に抱き直した。
(……もう絶対に、目を離さない)
心に刻むように。
「……助けていただき、ありがとうございます。グラシア辺境伯令息」
声は震えていない。侯爵令嬢として相応しく、完璧に整えられた調子だった。
けれど、その「他人行儀さ」に、ユリウスは胸を抉られるような痛みを覚える。
(……やっぱり。もう俺を“親しい相手”としては見てくれないんだな)
けれど同時に、理解もしていた。
彼女がそこまで線を引かずにはいられないほど、傷ついていることを。
「怪我はしていないか」
「……問題ありません」
毅然と告げる声。その細い体が微かに震えているのに、彼女は絶対に弱さを見せない。
だからユリウスは、彼女の言葉を遮るように抱き上げた。
「――っ!?」
「検める。怪我があったら遅いからな」
気づけば、お姫様抱っこの形だった。アメリアの黒髪が腕に流れ、至近距離で見えた横顔は愕然としていた。
「ユリウス様、放して……!」
「駄目だ。ここで無理をするな」
周囲がざわめく。侯爵令嬢を辺境伯令息が抱え上げた――それだけで大きな事件だ。
けれど、ユリウスは一歩も引かない。
「緊急だ。命に関わる状況から助け出したのだ。怪我がないと証明できるまで、俺は責任を持つ」
その真っ直ぐな声音に、周囲は口を噤んだ。
――辺境伯家は、スタンピート、人間と魔物の最前線を担う家。
命を救うことに関して、彼らの判断を疑う者はいない。
「救命活動だからね……」
「まあ……確かに、そうね」
ひそやかな同意の声が広がり、騒ぎは収束していった。
アメリアは唇を噛み、逃げ場をなくした瞳を逸らす。
ユリウスはその震えを感じながら、強く腕に抱き直した。
(……もう絶対に、目を離さない)
心に刻むように。
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