毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第二章 魔王と勇者

第十四話 魔王、勇者とデートをする。

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デート前日・ギルド前

 夕方、ギルドの前はいつになく賑やかだった。
 明日、勇者ロディアスとティアが出かける――その噂はさらに広がり、興味津々な冒険者たちがちらちらと視線を送ってくる。

 「……あれ、なんか今日ずっと見られてない?」
 帳簿を整理しながら、ティアは眉をひそめた。
 だが、その視線の正体は冒険者たちだけではなかった。

 向かいの屋根の上では、セリアが弓を抱えてギルドを監視。
 「距離二十メートル以内、不審人物なし……でもあの勇者は油断できません」

 通りの果物屋の陰からはカインが欠伸をしながら覗き、
 「……ったく、ティア様の護衛ってのは骨が折れるな」

 その反対側の路地では、リシェルとルシェルが買い物客に紛れ、
 「勇者が近づいたらすぐ合図よ」
 「うん、ティア様に変なことさせない」

 完全に包囲網だ。
 ティアはもちろんそんなことは露知らず、「何でこんなに人が多いんだろう」と首をかしげていた。



デート当日・朝

 ロディアスは珍しく緊張した面持ちでギルドに現れた。
 「よっ、ティア! 今日はよろしくな!」
 体育会系らしい爽やかな笑顔と、やや大きめの声。

 「……声が大きくわよ。ギルド中に聞こえるじゃない」

 「いいじゃねぇか! せっかくのデートだ、堂々と行こうぜ!」

 その様子を部屋の奥から見ていたアリスが小声でぼやく。
 「……また始まった。あの人、ほんと加減を知らないんだから」

 マイクは笑いながら、
 「まぁ、面白いからいいんじゃねぇの?」

 バレスティーは長い髭を撫でつつ、
 「若いっていうのは、まぶしいものじゃな……」

 ギルドの外、少し離れた場所には――今日も変わらず臣下たちが配置についていた。
 セリアは矢筒を背負い、
 「……二人きりなんて絶対にさせません」

 カインは苦笑しながらも腰の短剣を確かめ、
 「まぁ、あいつが何かやらかす前に止めりゃいいんだろ」

 双子は息を揃えて、
 「ティア様の安全第一!」

デート中・街外れの商店街

 ティアはギルドの更衣室で私服に着替えるとギルドのクエスト受注部屋にいるロディアスの元に現れた。

今日の衣装は女性らしいワンピースを選んだ。
「可愛い…。」
思わずロディアスが口にした。

「え?…やめてよ、恥ずかしい。」
ティアは照れながら少し微笑んだ。

ティアとロディアスは並んで商店街を歩いていた。
 周囲の視線は相変わらず熱い。だが、その中に――あきらかにただの通行人には見えない数人が混ざっている。

 「……ん?」
 ロディアスの目が鋭く細められた。

 屋根の上、弓を抱えたセリア。
 果物屋の陰からチラ見するカイン。
 雑貨屋の前で客に紛れ、こそこそ視線を送るリシェルとルシェル。

 「……おいティア、あれ」
 ロディアスは顎をくいっと動かし、後方を示す。

 「え? ……ああ」
 ティアは一瞬「あちゃー」と思ったが、表情には出さず、笑顔で誤魔化す。
 「何かしらね。たまたまじゃない?」

 「いや、あれは完全に護衛だろ」

 「……」

 ロディアスの顔がぱっと明るくなる。
 「そうか! お前……どこかの国のお姫様なんだな!」

 「は?」

 「そりゃそうだよな、こんなに美人で気品があって、護衛が何人もついて……いやー、納得だ!」

 「違うって」

 「隠さなくてもいいって! オレ、そういう秘密ごともしっかり守る男だからな!」

 「……違うって言ってるじゃない!
暑苦しいわね、あなた。」

 遠くからそのやりとりを見ていたカインが、小声でため息をつく。
 「……おいセリア、あれ完全に勘違いしてんぞ」

 「放っておきましょう。姫扱いなら、むしろ安全です」

 リシェルとルシェルは顔を見合わせてクスクス笑った。
 「ティア様、姫……似合うかも」
 「うん、でもロディアスが勝手に騎士になりそう」


 ギルドに戻ったティアは、夜の自室でひとり、窓辺から街の灯を見下ろしていた。
 ロディアス――勇者という天敵でありながら、悪意も打算もない真っ直ぐな瞳。
 彼の言葉や行動を思い返すと、どうしても胸の奥がざわつく。

 (……あれが人間の「真っ直ぐさ」……。
  もう、こんな気持ちになることはないと思っていたのに)

 魔王となってから、長い間、自分の中で何かが冷えていた。
 人間への興味も、情けも、すっかり失ったはずだった。
 それが今、妙に熱いものが心の奥で疼いている。

 ――それは、デートの途中での考え事が原因だ。
 邪神教団が作る麻薬で、人間が魔物に変えられている。
 森でカインが目撃した変異体も、元は人間かもしれない。

 (……面白くない)
 ティアは静かに目を細めた。
 魔王としては、教団が何をしようとどうでもいい。
 だが、人間を無理やり魔物に変える行為は――理由もなく腹立たしかった。

麻薬工場潜入

 夜。街外れの廃工場。
 壁のひび割れから漏れる灯りと、鼻を突く薬品臭が辺りに漂っている。

 屋根の上に降り立ったティアとセリアは、下で警備している黒尽くめの信者たちを見下ろした。
 「……人数は?」
 「地上に二十、地下は推定三十以上。全員武装してます」セリアが即答する。

 ティアは口角を上げた。
 「ちょうどいい。派手にやって、地下の奴らを引きずり出すわよ。」



 地下に降りると、鉄格子の奥で何人もの人間が鎖につながれている。
 そのうちの一人に薬液が注射され、悲鳴とともに身体が異形へと変わっていく。

 「……クク、成功だ! これでまた一体、主への贄が増える!」
 実験を見守る白衣姿の男が、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 ティアは物陰からその光景を見つめ、低く吐き捨てる。
 「くだらない……」


 突如、工場の天井が爆破、双子の姉妹とカインが乱入。
 「主の命令だ! 全員、無力化して生け捕りだ!」
 カインが叫びながら巨大な剣で武装信者を薙ぎ払う。

 リシェルが短剣を舞わせ、ルシェルが鎖を操って相手の武器を絡め取る。
 「弱いくせに数だけは多いわね!」
 「その方が私たち、楽しいじゃない?」

 セリアは無音で背後に回り込み、幹部らしき白衣の男の喉元に短剣を突きつけた。
 「……動けば、頸動脈が裂けます」
 男は青ざめ、膝から崩れ落ちる。

 全員が制圧された後、ティアがゆっくりと幹部の前に歩み寄る。
 「質問に答えなさい。黙れば……どうなるか、わかるわね?」
 「ひっ……ひぃっ……!」

 恐怖で口を震わせながら、幹部はついに口を割った。
 「こ、この麻薬は……生贄の数を増やすために……人間を魔物に変え……主の復活から目をそらせる為……!」

 ティアの瞳が冷たく光る。
 「主……邪神、というわけね」
 「そ、そうだ……! もうすぐ……お前ら全員、喰われる……!」

 ティアは無言で背を向けた。
 「セリア、あとは任せるわ」
 その声は淡々としていたが、内心では――怒りに似た熱が静かに燃えていた。
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