毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十三章 青春の1ページ

第百九話 文化祭が始まったよ

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学園祭の当日、体育館のステージには色鮮やかな布が飾られ、観客席は満員だった。
学園祭のオープニングは演劇会。
「二年一組 演目:勇者と囚われの姫」――その文字が垂れ幕に掲げられている。

ナディアが舞台袖でマイクを握りしめながら、小声で言った。
「さぁみんな!
昨日の失敗は忘れて、今日は笑顔でいこう!」

「昨日って、ティアが真っ赤になって逃げたやつ?」
クラウドがニヤッと笑う。

「もう!その話蒸し返さないで!」
ティアは顔を赤くしながらスカートの裾を直した。
その白と金のドレス姿は、まさに“姫”そのもの。

客席では、アーサーが腕を組んで座っていた。
表情は真剣そのもの。
(……大丈夫だ。
ティアを信じろ。)
そう心の中で呟くと、深く息を吐いた。


幕が上がる。

クラウド演じる勇者は剣を構え、魔物役の男子たちが派手に吹き飛ぶ。
観客席から拍手と笑いが湧く。

「姫、今こそあなたを救う!」
「勇者さま……!」

ティアは震える声でセリフを言いながら、自然と微笑んでいた。
光がティアを照らし、クラウドがそっと近づいた。

「もう泣かないで。
あなたの笑顔こそ、世界を救う光だ。」

ティアは小さく頷き、ゆっくりと顔を上げる。

――そして。
観客全員の視線が二人に集まった。

(ここだ……アドリブの、あの“おでこキス”のところ。)

クラウドが一歩踏み出す。
ティアは心臓が跳ねるのを感じながら、そっと目を閉じた。

……その瞬間。

ふっと、クラウドは微笑んだ。
そしてティアの顎を指で軽く持ち上げると右の頬にキスをした。
「え?!」
ティアはびっくりして目を見開いた。
その時、クラウドはニッコリと微笑んでいた。

「君の涙も笑顔も、勇者がすべて守る。」

ティアは驚いて目を開ける。
クラウドが小さく囁いた。
「どう?サプライズのアドリブは?」

その一言で、ティアの顔がまた真っ赤になった。

「もうっ……クラウドっ!!」

観客席からは笑いと拍手が起こり、体育館が揺れるほどの盛り上がりになった。

そして幕が下りる。
ティアは大きく息をついた。
「終わったぁ~~!」

クラウドが笑って手を差し出す。
「お疲れ、姫。」

ティアはその手を取って、少しだけ微笑んだ。
「クラウド!反則!サプライズなんて!」

舞台袖ではナディアとメリルが大興奮。
「最高だったー!!」
「ティア、真っ赤で可愛すぎた!!」

客席のアーサーは、小さく笑ってつぶやいた。
「……ぐぐぐ、クラウドめ!」
その目は、血走っていた。


◆終演後◆

クラス全員が集合写真を撮る中、ティアはそっとアーサーのもとへ駆け寄る。
「アーサー、どうだった?」

「……うん。最高の姫だったよ。
クラウドにはやられたけどな。
まあ、頰だから許すつもりだ。」

「ほんとに?ごめん、油断しちゃった。」

「唇だったらクラウドを殺してるな。」

ティアはいたずらっぽく笑うと、アーサーの肩を引き寄せる。
「じゃあ、私の勇者さまにもご褒美をあげようかな。」

「え?」

ティアは小声で言った。
「……アーサーだけだよ。」

アーサーが驚くより早く、ティアはアーサーに口付けた。
ティアは一瞬で顔を真っ赤にして離れる。

「はいっ、これで許して。」

「ずるいな……」
アーサーが笑い、ティアも笑った。

その笑顔は、ステージのライトよりも眩しく輝いていた。

演劇会も終わって、各クラスの出店イベントが始まった。

「開店まであと五分だってよ!!」
「うおおおおお!!」

朝から二年一組の前には、異様な熱気が漂っていた。
行列の九割が男子生徒。
残りの一割は、好奇心で並んだ女子生徒。

「おい、あれ見ろよ! 
一年の時の“伝説のメイド”が今年も復活らしいぞ!」
「ティアが帰ってきたんだ!」
「去年、正面から見られずに後悔した俺の一年が報われる……!」

「お前、神に祈ってたもんな。」
「『もう一度だけメイド服のティア様を…』ってやつ?」
「うるさい!」


「みんな、準備いい?」
ナディアの掛け声で教室のドアが開く。

そこに現れたのは——
白と紺のフリル、金のラインが走る気品あるメイド服。
柔らかな金髪が光を反射し、澄んだ青い瞳が微笑む。

ティアだった。

「いらっしゃいませ♡ 
二年一組、メイド喫茶へようこそ♪」

――その瞬間。

教室前の男子達、全員沈黙。
そして次の瞬間、爆発。

「尊いぃぃぃぃ!!!」
「目が!目が浄化される!!」
「神だ!いや天使だ!!」
「ありがとう生まれてきた俺!!」

クラウドがため息をつく。
「お前ら、注文する前に魂抜けてんじゃねぇか。」

アーサーはというと、腕を組んで複雑そうに視線をそらしていた。
(……かわいいけど……可愛すぎて、複雑だ……)



「ティアさん、写真撮ってもいいですか!?」
「ティアさん、追加注文ってどこに書けば!?」
「ティアさん、ストローを落としたので拾ってもらっても……!」

「はい、落としましたね?
 “自分で拾ってくださいね♡”」
ティアが笑顔で返すたび、男子達は床に崩れ落ちていく。

「い、今、“♡”がついた……!」
「声が甘すぎて糖尿になりそうだ……!」

メリルが後ろで小声で呟く。
「ティアってば、無自覚で爆撃してるのよね。」

「もう……ほんと、困った男子たち。」
ティアは苦笑しながら、紅茶を運ぶ手を止めなかった。


一方そのころ、外では……

「店の中が見えない! 前が詰まってる!」
「押すな押すな! こぼれるぞ!」

廊下は大混乱。
一年生の男子が泣きそうな顔で叫ぶ。
「もう二時間並んでるのに入れないんですけど!?」



そして女子たちの反応

「ねぇ、あの人がティア先輩……?」
「本当に綺麗……。
同じ女なのに、ドキドキする……」
「まるで貴族の執事に仕える“理想のメイド”って感じ!」

一年女子の一人がぽつり。
「ティア先輩、憧れます……! 
私もあんな風になりたい!」

ティアは厨房から顔を出し、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう。
きっと、あなたもなれるわ。」

その笑顔に、女子達の頰もぽっと染まる。

「……もう、反則だわあの人……」



ティアはホールの隅でため息をついていた。
「もう……お茶を運ぶたびに“結婚してくれ”とか言われるの、勘弁してほしいわ……」

アーサーが苦笑しながらタオルを差し出す。
「まぁ、君がメイド服を着るって時点で、平和じゃいられないよな。」

「……ふふっ。
そうかしら?
来年はメイド喫茶、禁止にしましょうよ。」

ティアの笑顔に、男子達の叫びが響く。
「来年もやってぇぇぇぇぇぇ!!!」

こうして二年一組・ティアのメイド喫茶は、
学園祭史上最大の入場待機列を記録したのだった。


メイド喫茶・初日終了後

「はぁぁぁぁぁ……疲れた~~~!!」
ティアはエプロンのリボンを外しながら、机に突っ伏した。

「何よこの人の数! 
ここは遊園地か何か!?」
メリルも椅子にへたり込み、ぐったり。

「っていうか、ティア目当ての男子多すぎ!」
「うん、あれはもう“客”じゃなくて“信者”だったわ。」
「拝まれたの、人生で初めてよ……」
教室のあちこちから女子達の疲労と嘆きの声が響く。

「明日は男子禁制にしたいわ。」
「賛成! 
“女子とティアの楽園デー”にしよう!」
「それ最高!」

ナディアが机をばんっと叩いた。
「よし、決まり! 
今日は初日お疲れ様会! 
場所は――ミュウオケ!」

「ん!? ミュウオケ!?」
ティアが顔を上げる。

「そうよ! 
みんなで歌いまくるわよ!
そして、ストレス発散するわよ!」

「やったー!」
「行こ行こ!」
女子達のテンションが一気に回復した。


それを聞いていた男子陣、騒然

「おい、何か女子だけで打ち上げ行くって本当か!?」
「マジ!? 俺たちも行きたい!!」
「男子を蔑ろにするなぁぁ!!」

廊下では男子達がデモ行進のように騒ぎ出す。

ナディアがドアを開けて顔を出した。
「はいはい、静かにしなさーい!」

「男子禁制反対っ!」
「ティアの歌が聞きたいんだよ!」

「いやよ! 
今日は女子だけでやるの!」

「そんなぁぁ!」

「明日の最終日打ち上げは全員でやるから、今日は我慢なさいっ!」

ナディアの一喝で、男子陣は見事に沈黙した。

「……ナディア、強い……」
「委員長のカリスマ性、こういう時ほんと助かるよね。」
メリルが拍手しながら頷いた。

「ティア、大丈夫?」
女子達が心配して覗き込むと、ティアは机に突っ伏したまま動かない。

「ほんと疲れたぁぁぁ……もうしばらく男子の顔も見たくない……」
「愛想笑いの筋肉が限界よぉ……」

「ふふっ、わかる~!」
「笑いながら“いらっしゃいませ♡”言うたび、魂削れたもんね!」

ティアが顔を上げ、真顔で言い放った。
「もう……彼氏でも見たくないわ。」

「はははっ、それは言いすぎ!」
「いや、正直わかるわ。」
「男子全員、明日から一時退学でもいいんじゃない?」
「賛成~!」

みんなで愚痴りながら、次第に笑いが止まらなくなっていった。


女子だけの夜

そして。
「カンパーイ!!!」

ミュウオケに猫耳をつけた女子達の声が響く。
ティアもマイクを握り、猫耳をちょこんと乗せていた。

「にゃ~ん♡ お疲れ様でした~♪」
「かわいいー!」
「反則だよティア!」

疲れもどこへやら、女子達は笑って、歌って、
男子のいない平和な夜を心から満喫したのだった。
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