毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第二十章 黒き混沌の魔女編

第百七十話 奇跡

魔女は、ただそこに在るだけで空間を支配していた。

圧倒的な威圧。

溢れ出す黒きオーラが、周囲の建造物を軋ませ、砕き、侵食していく。
やがて限界を迎えた廃城の天井が轟音とともに崩れ落ちた。

瓦礫が降り注ぐ中。

ティアと魔女は、互いに微動だにせず対峙していた。

「ふふふ……」
魔女の笑みは、底知れず深い。

「私には魔法も剣術も効かないのよ。」
ゆっくりと腕を広げる。

「それ以外の力を持たないお前に何ができるのかしら?」

「……そうね。」
ティアは静かに応じる。

「異世界のエネルギー。
それはアリーシアの長寿に不可欠なものだった。」

視線を外さない。

「だから私は、あえてその流れを断たなかった。」

一拍。

「それが、今のあなたの力の源。」

そして、わずかに言葉を区切る。

「だった。」

「……ん?」
魔女の眉が動く。

「『だった』とは、どういう意味かしら?」

「あなたが今受け取っている莫大なエネルギー。」
ティアの瞳が、鋭く光る。

「……感じているでしょう?」

「ふふふ……ああ、感じているとも!」
魔女は愉悦に満ちた声で笑う。

「異世界より流れ込むこの力! 
無限とも思える供給!
これで私は永遠に最強よ!」

「ええ、本来ならね。」

静かな否定。

「アリーシアは転生者。
異世界から流れるエネルギーがあれば、半永久的に命を繋げたでしょう。」
その声に、わずかな哀しみが滲む。

「でも、彼女は寿命を迎えつつあった。」

「……何を言っている?」

「アリーシアは、この結晶化でその流れを断ったのよ。」

「そんなはずはない!」
魔女が声を荒げる。

「現に、この力は満ちている!」

「ええ。」
ティアは、はっきりと頷いた。

「それは私が繋いだものだから。」

「……何?」
一瞬、空気が止まる。

「神である私にはわかった。」

淡々と告げる。

「アリーシアがエネルギーを絶っていたことも。
そして、そのままではあなたに気づかれることも。」

ゆっくりと、手を掲げる。

「だから、擬似的に繋いだのよ。」

「何を……」

「私とアダミルで開発した。」

その瞳が、冷たく輝く。

「異次元エネルギコア。」

空気が震える。

「特定の対象に埋め込み、外部からエネルギーを供給する装置。」

そして。

「アリーシアの身体に、そっと仕込んだ。」

「……なにを言っている?」
声に、明確な揺らぎが生まれる。

「つまり。」

ティアは静かに告げた。

「その力いつでも止められるのよ。」

次の瞬間。

魔女を包んでいた黒きオーラが。
霧のように――消えた。

「な……っ!?」
魔女の目が見開かれる。

「力が……消え……!?」

「そう。」
ティアは冷ややかに言い放つ。

「私はあなたなんかより、ずっと狡猾で、卑劣なの。」

一歩、踏み出す。

「世界を救うためなら友すら利用する。」

その言葉は、刃のようだった。

「馬鹿な……!」
魔女は歯を食いしばる。

だが次の瞬間、再び笑みを浮かべた。

「……ふふふ。だとしても。」
ゆらりと黒が揺らぐ。

「決定的なダメージを与えられないお前では、私を殺せない。」

再び膨れ上がる闇。

「ならば――ここで終わりよ!!」

轟音。

廃城が完全に吹き飛び、二人は空中へと押し上げられる。

そして、空中戦へ。

ティアが先手を取る。

だが。

放たれる魔法は、すべて無効化される。

(……やはり、界離術式。)

干渉そのものを拒絶する絶対防御。

対して。

魔女の攻撃は、確実に届く。
黒きエネルギーが直撃し、ティアの身体を貫く。

「――っ!」

衝撃とともに、地上へと叩き落とされる。
瓦礫の中へ。

「はははは!!」
魔女の高笑いが響く。

「エネルギーなど、また手に入れればいい!
その前にお前を殺す!!」

勝利を確信した声。

「……ふぅ。」
ティアは、ゆっくりと身体を起こす。

「さすがに……キツいわね。」
立ち上がろうとした、その瞬間。

黒き一撃が直撃する。

視界が弾け。
ティアは、瓦礫の中で動かなくなった。

「はははは!! 
終わりだ!!」

魔女は巨大な黒球。
界離術式の極致を生み出す。

「消えろ、神!!」

放たれる。

その瞬間。

空が裂けた。

黄金の光。
雷にも似た閃光が、一直線に降り注ぐ。

黒球に直撃し
消し飛ばした。

「……なに?」
魔女の声が止まる。

光はそのまま地上へ降り立ち、ティアの前で静止する。
輝きが収束する。

そこに。
一人の男が立っていた。

「ティア!」

力強い声。

「遅くなった! もう大丈夫だ!」

「……っ!!」
ティアの瞳が見開かれる。

その気配は。
忘れるはずがない。

「……ロディアス。」
ゆっくりと身体を起こし、その場に座り込む。

同時に、セリアとダクトスも駆けつける。
「主様! ご無事ですか!」

「大丈夫よ……。」
息を整えながら答える。

ダクトスは目の前の男に釘付けになる。

「……あなたは。」

鍛え上げられた肉体。
圧倒的な存在感。

「何者だ……!」
魔女もまた、警戒を露わにする。

「……ロディアス殿!?」
セリアが息を呑む。

「ティア。」
ロディアスは振り返る。

「遅くなった。あとは俺に任せろ。」
剣を構える。

その姿はまさに、全盛期。

「神の……奇跡か……。」
ダクトスが呟く。

「神の危機に呼応し、勇者が蘇る……。」
セリアが静かに言葉を紡ぐ。

「遅い!!ロディアス!!」
ティアが頬を膨らませる。

「すまん! 怪我は!?」
駆け寄るロディアス。

「もう、大変だったんだからね!」

そう言いながら。
笑顔で、抱きついた。

「お、おお……すまん!」

しっかりと抱き合う二人。

その光景に。

「……何者だ、貴様!!」
魔女の怒声が響く。

ロディアスはゆっくりとティアから離れる。

「少し待っててくれ。」
軽く頭に手を置く。

そして、前へ。

魔女と対峙する。

「俺は――ロディアス。」
剣を構える。

黄金のオーラが、爆発的に噴き上がる。

「勇者ロディアスだ!!」

【固有スキル──神魔転換力、発動】
【勇者スキル──超越者、発動】

空気が震える。

「来ます!」
セリアが叫ぶ。

「勇者ロディアスを最強と言わしめたあの技が――!」

ロディアスは、一歩踏み込む。

「勇者スキル…。」
剣が、光を纏う。

「根元滅殺斬!!」
振り抜かれた一撃は。
確実に魔女を捉えた。

「――ガァァァッ!!」

回避は不可能。

直撃。

次の瞬間。

光と炎、そして衝撃が、広範囲を呑み込んだ。

世界が、震えた。

崩れた瓦礫の奥から。
魔女は、這い上がるように姿を現した。

「な……なんだ……!」
息を荒げ、全身を震わせる。

「お前は……何者だ!!」
その声には、明確な恐怖が混じっていた。
確かにダメージは通っている。
これまで通用しないはずだった概念が、今、崩れていた。
勇者ロディアスの前では。
その理不尽すら、例外ではなかった。

「ロディアス。」
ティアが、ゆっくりと立ち上がる。

まだふらつきながらも、その瞳には確かな光が宿っていた。

「……ここからは、私が決着をつけるわ。」

その言葉に、ロディアスは一瞬だけ彼女を見つめ。
そして、微かに笑った。

「……ああ。任せた。」
ティアは彼の隣に並ぶ。

その一歩に、迷いはない。

「はははは!!」
魔女が、なおも嗤う。

「お前では、私は倒せない!!
せめて、道連れにしてくれるわ!!」
崩れた肉体が再生し、黒きオーラが再び噴き出す。

まだ終わってはいない。

だが。

「ああ、もういいわ。」
ティアは静かに言った。

そして、歩き出す。
ゆっくりと。確実に。
魔女へ向かって。

「強がりを!!」
魔女が吠える。

「……あなたは天才よ。」
ティアの声は、穏やかだった。

「界離術式。
確かに素晴らしい。」

一歩、また一歩。

「何度か攻撃を受けて、解析は終わったわ。」

その言葉に、魔女の表情が歪む。

「その術式は、もう、私には通用しない。」

「ははは!! ハッタリだ!!」

叫びとともに、黒き球体が放たれる。

直撃。
そのはずだった。

だが。

それは、ティアに触れる直前で。
ふわりと、消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。

「……なに……?」
魔女の声が、掠れる。

「確かに凄いわ。」
ティアは立ち止まらない。

「人間が辿り着けたのはね。」
その瞳が、冷たく光る。

「でも、所詮は人の領域。」

空気が震える。

「私は、全ての魔法を統べる存在。」

一歩、踏み出す。

「魔法神よ。」
その言葉は、絶対だった。

「あなたが辿り着かなくても、いずれ誰かが見出した力。」

そして。

「神の前では。
いいえ。」
わずかに微笑む。

「私の前では、無力。」

次の瞬間。

雷光が走った。

「ガァァァッ!!」

魔女の左腕が、存在ごと消し飛ぶ。

「な、なぜ……!?」
理解が追いつかない。

「さようなら。」

ティアは、ただ手をかざした。

光が、収束する。

一瞬。

本当に一瞬だった。

次の瞬間には。

魔女は存在ごと消えていた。
跡形もなく。
完全なる消滅。
静寂が、訪れる。
風が、瓦礫を撫でる。

そして。

「……っ。」
ティアの膝が、崩れた。

力が抜ける。

そのまま倒れ込む。
その寸前。

「っと。」
ロディアスが素早く受け止める。

優しく、その身体を支えた。

「……お疲れ。」
低く、穏やかな声。

「……なによ。」
ティアは少しだけ頬を膨らませる。

「今頃……。」
拗ねたように呟きながら。
そのまま、意識を手放した。
ロディアスの腕の中で。
静かに。
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