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16 使い魔は悟りそう
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ひっそりと静まりかえった薄暗い寝室。
母后さまは、大きな寝台の真ん中にちんまりと具合良く収まっていらしっしゃる。
………………たいへん良く、お眠りで。
さすがの姫さまも、ここで祖母君を叩き起こすなんてことはなさらない。寝台の傍に座って、ひたすらお目覚め待ちである。
やがて姫さまは眠気に負け、船を漕ぎ始めた。
椅子から転げ落ちそうなので、少し肩をゆらして覚醒して頂く。
姫さまは、暫くぼんやりされて。
それから徐に立ち上がると窓を開け、お庭の見えるバルコニーへ出て行かれた。
★ ★ ★
バルコニーに出るなり、庭から視線が飛んで来た。
目の前にあるのは、仮にも母后さまのお館の内庭。外部の者は立ち入らない場所なのだが。誰かがすんごい姫さまを見ている。
視線を辿ると、真っ黒い目。
今日連れて来たアリの子だ。
母親の後についてお庭の端を移動中なのかな。
なんだろう。殺気じゃないけど目が重い。そしてすっかり足が止まっている。
不審に思っていると数秒後、予測しない事象が発生した。
姫さまが突如しゃがみ込み、バルコニーの手摺に隠れてしまわれたのだ。
庭が、彼が気になるのか、頭だけちょびっと手摺から出して様子を伺っている。
可愛いお顔がくしゃっと崩れて真っ赤である。
………は?
あれ、姫さま、が。照れてる、ぞ。
男の子の方は、というと。
庭からの視線が手放しの歓喜で沸いている。
思いが隠れてない。……おい。
ちょ、この甘酸っぱ~いやり取りは、何?
どう見ても初々し~い男女の仲良しじゃん。
え、えええ、姫さまーーーーーー!!
どんっっなマイナーな特殊性癖なんですか!
まさか、樽入り坊やがお好みだったなんて。
そんなの、言って下されば!
今までの求婚者さまたち全員、酒樽に詰めたのに~~!!!
ああ、やばい。興奮の反動で血圧が下がり、下限をぶち抜いて目眩がする。
しかし私は気合いで意識を保ち、使い魔その2の体をガシッと抱え持った。
そのまま有無を言わさずカーテンの裏へ連れ込む。
とにかく至急、事態を確認しなくては。
「ねえ、なにあれ?」
「ぐへへへへへへへへ。」
「ねえ、ねえ、お車で何があった!?」
「いやあ、何があったって事もないんだけどさ~。別に、姫さまたち、あんまりしゃべってなかったし~。」
ええい、焦らすな。
「う~ん。まずねえ、あの子が樽から頭出したのを見て、姫さまが固まっちゃったのよね~。
で、あの子の方もじわ~っと様子がおかしくなってきてさ~。
いわゆる一目惚れ?
もうさー、誰もしゃべらないからし~んとしてるし、そのくせ空気はピンクいし~。
車の中で窒息するかと思ったわ~~。」
「いやそこで自ら会話しなかった時点で百パー楽しんでたでしょう。休憩のときの顔面崩壊はこれか…。あ、姫さま。」
庭の坊やが歩いて近づいて来るのを見て、頭から湯気が出そうな姫さまは、プイッとそっぽを向くとお部屋の中へ駆けこんでしまわれた。
庭からの視線が強い。
「ど、どうしよ。あの子、姫さまに求婚してないじゃん。なのに色恋沙汰が来ちゃったよ…。
別の人の求婚とか、しばらくやるだけ命の無駄じゃない?て言うか、あの子がずーっと求婚しなかったらどうするよ!?」
「落ち着いて。何を決めるにも今はネタが少な過ぎる、そうでしょ?
ちょいと様子を見て、考えるのはそれからだって。」
「わかってる、頭じゃわかっているけどさー!!」
びっくりするよね、そりゃ。
だって彼、混血のど庶民の苦労人だよ?
ずっと人間の王子さまを探してたのに。姫さまはそれで良いのだろうか。
あー。いや、むしろこんなの、姫さまとしては安定の気儘っぷりだから。
もう、王子さまとか本当にどうでも良いんだろうなあ……。やれやれ。
母后さまは、大きな寝台の真ん中にちんまりと具合良く収まっていらしっしゃる。
………………たいへん良く、お眠りで。
さすがの姫さまも、ここで祖母君を叩き起こすなんてことはなさらない。寝台の傍に座って、ひたすらお目覚め待ちである。
やがて姫さまは眠気に負け、船を漕ぎ始めた。
椅子から転げ落ちそうなので、少し肩をゆらして覚醒して頂く。
姫さまは、暫くぼんやりされて。
それから徐に立ち上がると窓を開け、お庭の見えるバルコニーへ出て行かれた。
★ ★ ★
バルコニーに出るなり、庭から視線が飛んで来た。
目の前にあるのは、仮にも母后さまのお館の内庭。外部の者は立ち入らない場所なのだが。誰かがすんごい姫さまを見ている。
視線を辿ると、真っ黒い目。
今日連れて来たアリの子だ。
母親の後についてお庭の端を移動中なのかな。
なんだろう。殺気じゃないけど目が重い。そしてすっかり足が止まっている。
不審に思っていると数秒後、予測しない事象が発生した。
姫さまが突如しゃがみ込み、バルコニーの手摺に隠れてしまわれたのだ。
庭が、彼が気になるのか、頭だけちょびっと手摺から出して様子を伺っている。
可愛いお顔がくしゃっと崩れて真っ赤である。
………は?
あれ、姫さま、が。照れてる、ぞ。
男の子の方は、というと。
庭からの視線が手放しの歓喜で沸いている。
思いが隠れてない。……おい。
ちょ、この甘酸っぱ~いやり取りは、何?
どう見ても初々し~い男女の仲良しじゃん。
え、えええ、姫さまーーーーーー!!
どんっっなマイナーな特殊性癖なんですか!
まさか、樽入り坊やがお好みだったなんて。
そんなの、言って下されば!
今までの求婚者さまたち全員、酒樽に詰めたのに~~!!!
ああ、やばい。興奮の反動で血圧が下がり、下限をぶち抜いて目眩がする。
しかし私は気合いで意識を保ち、使い魔その2の体をガシッと抱え持った。
そのまま有無を言わさずカーテンの裏へ連れ込む。
とにかく至急、事態を確認しなくては。
「ねえ、なにあれ?」
「ぐへへへへへへへへ。」
「ねえ、ねえ、お車で何があった!?」
「いやあ、何があったって事もないんだけどさ~。別に、姫さまたち、あんまりしゃべってなかったし~。」
ええい、焦らすな。
「う~ん。まずねえ、あの子が樽から頭出したのを見て、姫さまが固まっちゃったのよね~。
で、あの子の方もじわ~っと様子がおかしくなってきてさ~。
いわゆる一目惚れ?
もうさー、誰もしゃべらないからし~んとしてるし、そのくせ空気はピンクいし~。
車の中で窒息するかと思ったわ~~。」
「いやそこで自ら会話しなかった時点で百パー楽しんでたでしょう。休憩のときの顔面崩壊はこれか…。あ、姫さま。」
庭の坊やが歩いて近づいて来るのを見て、頭から湯気が出そうな姫さまは、プイッとそっぽを向くとお部屋の中へ駆けこんでしまわれた。
庭からの視線が強い。
「ど、どうしよ。あの子、姫さまに求婚してないじゃん。なのに色恋沙汰が来ちゃったよ…。
別の人の求婚とか、しばらくやるだけ命の無駄じゃない?て言うか、あの子がずーっと求婚しなかったらどうするよ!?」
「落ち着いて。何を決めるにも今はネタが少な過ぎる、そうでしょ?
ちょいと様子を見て、考えるのはそれからだって。」
「わかってる、頭じゃわかっているけどさー!!」
びっくりするよね、そりゃ。
だって彼、混血のど庶民の苦労人だよ?
ずっと人間の王子さまを探してたのに。姫さまはそれで良いのだろうか。
あー。いや、むしろこんなの、姫さまとしては安定の気儘っぷりだから。
もう、王子さまとか本当にどうでも良いんだろうなあ……。やれやれ。
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