姫さまを倒せ!

ねね

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17 心は真っ直ぐ、じゃなかった

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「うーー、うーー、うーー。どうしよう………あの方に嫌われる………お国に帰っちゃう………。」

 私は何も言わずにバケツを差し出す。

 姫さまはごくごくと半分ほど一気に飲み干し、そしてガチの大泣きが再開された。

 いやー、実に盛大な泣きっぷり。
 身体機能がもう、全然違うんだよね~。

 このところ、私たち使い魔は交代で姫さまの水分補給に当たっている。

 姫さまのお水の消費量が、ちょっと洒落にならないのである。

 なんでこんなことになったのかと言うと。

 お城に戻ってから、例の男の子は繰り返し姫さまに接触して来た。

 しれっとお庭の奥に紛れ込み、張り込むこと数日。彼はあっという間に姫さまの出没スポットを押さえ、頻繁に姿を現すようになったのだ。

『好きです!こっち見て!』

 と言わんばかりに、さりげなく(?)アピールしてくる姿はいっそ潔い。

 うん、悪くないお相手だ。
 あの子、別に、問題はないな。

 と言うかむしろ彼のお陰で、思わぬ問題があっさり片付きそうになっている。

 食人鬼である姫さまの、お食事の問題が!

 彼はその、文化的に魔物寄りっぽいって言うか。食べる肉の種類にあまりこだわらないようなのだ。

 例えそれが人肉でも。

 姫さまの出没スポットのひとつである台所の前で、うちの仕込み風景を見てもケロッとしていたから間違いない。

 混血児は、人型以外の姿を取れなければ、人間と見なされる。ただ彼の場合、内面的にはお母さん似なんだろう。

 まあ、本人が食べるかどうかは知らないけれど、忌避感がないってのは大きい。お互いの食べ物を尊重するのは魔物のマナーの第一歩。

 これ、姫さまにとっては物凄くラッキーなことだよねえ。

 ………………なのに、姫さまときたら。

 あの無害そ~な子が近くに寄って来ると、固まる・逃げる・狼狽えるの三点セット。

 挙げ句にご自分の、世にも情けない対応ぶりをお嘆きになられて大号泣。彼とは未だろくにお喋りもできていない有り様なのである。

 ええと……。

 はるか格上な魔物のくせして、何びびってるんですか姫さまー。

 まるでネズミから逃げるネコ、シカから逃げるトラのようですよー。

 ああ、初恋ってほんと厄介。

★ ★ ★

「ひとまず、次の求婚者さまの挑戦は、ご予定をキャンセル致しました。

 これまで99人の失敗が続いておりますから、一度中断するのも自然なこととして、各所には比較的すんなりと受け入れられた模様です。」

「良かった良かった。さて、どうする?」

 使い魔3匹、顔を見合せてため息を吐く。

 今の問題はズバリ姫さまだ。ともかく泣くのを止めさせないと、姫さまが干物になってしまう。

 ここはさっさとお相手とくっ付いて、仲良くして頂きたいところである。私は案を挙げてみた。

「おみ足を床に固定して、逃げられないようにしようか?」

「姫さまのお力は鉄鎖も引きちぎりますよ。」

「それじゃ、あの子を姫さまのお部屋に放り込む?あそこなら、結構ごつい作りしているし。」

「…………。」

 使い魔その1が考え込んだ。
 我ながら、今のは多分、名案だと思う。

 しかし使い魔その2は慎重だった。

「そんなギチギチに追い込むのは無粋だよ。
 こう、さりげな~く自然に、無理なく寄り添ってさー。」

 ああ、あの男の子がやろうとしてる事だな。

 確かに情緒があるのは良いかもね。一般人がお城の奥に身なりを整えて通っている時点で、自然もへったくれもないと思うのだけど。

 ただし。

「そりゃ長期戦になるね…。あの男の子、いつまでここに居るんだろう?」

「その事ですが。彼の仲間たちは、既に帰国の途に着きました。彼は残って、都で仕事を見つけたようです。」

「きゃ~!本気~!!」

「よく仕事見つかったね?早くない!?」

「あの方はこちらに家族が多いですから。姉妹たちの情報があったのでしょう。」

 アリさんの転職情報か。なるほどねー。

 ……そこまでやるなら、私も静観するか。

 次からは、にやつきながら気配消してる護衛と並んで空気になろう。

 坊や、さっさと姫さまの大泣きを止めておくれよー。皆、気をもんでいるんだから。

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