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12 それから
しおりを挟む暫く後のある日。
冷房が吹き付ける社内でキーボードを叩いていた真暗は、机の隅から聞こえる声に手を止めた。
『………真暗。』
いつの間にか書類の影に小さなアマガエルが鎮座している。
ちんまりして愛らしい。真暗はニマニマしてしまう口元をなんとか引き下げた。
『話がある。大きい声は出したくない、こっちに顔をよこしてくれ。』
「うん?」
できるだけ自然に、机に突っ伏すフリをしながら頭を下げて行く。
ふっちーは耳元までやって来てこう言った。
『静の就職先が決まったぞ。』
「!」
『三途の川の渡し守だ。明日から見習いに入るそうだ。』
「すごい!地獄イチ快適な職場じゃん、おっっそろしく高い競争率の!!」
『ふふん。水辺だから俺のツテがあった。あとな、静の容姿も役にたったんだぞ。』
「どんなふうに?」
『美しいのが買われた。さ迷える亡者を誘き寄せる力がありそうだから。』
「に、人間ってやつは。えっ待って。あの控えめな静がハニートラップ要員てこと!?」
『まあな。あいつは女装でなけりゃハニトラ役でも問題ないそうだ。“商売繁盛”の御守りも持ってるし大丈夫だろ。』
「あはははは。うわあーー。」
美人も大変だ。
(これだけ容姿に振り回されて、私だったらウンザリしてる。ヤケもおこさないとはさすが静。世の中上手くできてるなー。)
あの美貌で、周りに要らん反応をされて。それでも静は淡々と生きて行ける……というか、生きて、行くのだ。
どうにか折り合いを付けながら。
せめて皆、楽に惑わされてくれれば良い。真暗は御守りのご利益を願って瞑目した。
「ふっちー、いろいろありがとうね。お礼に南半球の雨水を献上しようと思うのだけど。コンビニに付き合う時間ある?」
『問題ない。1リットルくれ!』
ぴょんと肩に跳び乗るふっちー。
二匹の鬼は連れだってビルを出ると、表の人混みの中へと紛れていった。
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