冥界の愛

文字の大きさ
23 / 107

引き止める理由がある

しおりを挟む


皆がまたヘルメスを殺しかける前に先にハデスが動いた。
ヘカテーに尋ねる。


「 ミノスを迎えに行かせたが、様子はどうだ?」

ヘカテーが片膝を付いて答える。

「 お体は特に問題無さそうですが、記憶が少し混乱してるようでご自分の名前も全て覚えておられないようです。」


「 この花のせいならば、しばらくすると元に戻るだろう。
レテの河の水は飲んだりしてないか?」


「 はい、そんな感じではなく表情はしっかりとしておられる様です。
ミノスとも話をされてます。」



そしてハデスはヘルメスに向き直り答えた。


「  客人の記憶が戻った事を確認したら帰ってもらおう。
今回はこちらの事情で巻き込まれたので、冥界の記憶を全て消してから送り届けよう。」


ハデスが告げるとヘルメスは慌てた様に、

「 お待ちください。なぜ今ではダメなのですか? 
どうせ忘れさせるなら、記憶がしっかりとしていない今の方が都合が良くないのですか?」

一刻も早く連れ帰らないと地上もかなりまずい事になる。
そうヘルメスは考えたのだが、ハデスの返事は違った。


「 記憶が混乱している所に忘却の術を行うと、そのまま全ての記憶が壊れてしまう可能性がある。コアになる格も障害されるかも知れない。
これは客人の為だ。決定だ。」

ハデスが決定と言えば覆る事はない。
それにコレーの為のものだと言えば納得せざるおえない。

尚もヘルメスはハデスに追い縋る。

「 では、せめてコレー様にお会いさせて下さい。デーメテール様にご様子をお伝えしたいのです。」


「  おまえがそんなにデーメテールの事を気にしているとは意外だな。」

と言われるがヘルメスは横を向いて

「 私ではなくゼウス様が気にされているのです。」

と小声で答える。


しばらくハデスが考えていたが

「やはり会わせる事はできない。だが、客人に姿が見えない様に遠くから見るだけならいいだろう。それでお前は帰れ。
 ゼウスには、しばらく預かるが大事にもてなすから心配するなと 伝えてくれ。」


そうヘルメスに告げると ハデスが立ち上がり出て行こうとする。

ヘルメスは尚も言い募ろうとするが、ハデスはそのまま背を向けたまま




「 もういい加減気にするなって言ってやってくれ…」

そう言い残して部屋を出る。



閉じられた扉の前で複雑そうな顔のヘルメスが残される。



部屋を出たハデスにヘカテーが走り寄る。

「 ハデス様 
そこまで気をつかわれる必要がありますか? デーメテール様の御子神だからですか?」

ハデスはその質問には答えない。
ヘカテーは溜息を飲み込んでハデスに申し出る。

「 彼女をハデス様のお部屋にお連れします。」

そう言ってミノスの待っている部屋に戻ろうとすると、
ハデスは

「 会う必要はない。ここには連れて来なくてもいい。」

「 会わないんですか!?」


「記憶が戻るまで しばらく様子を見る。ヘルメスに言ったように、大切にもてなしてくれ。
界渡りの花が元に戻ったら、花と一緒に地上まで送ってやってくれ。後は任せる。」

「 お待ち下さい。なぜお会いにならないんですか?」


「 向こうに帰った時に、何かのきっかけでここでの事を思い出すかも知れぬ。
だから、私とは会わない方がいいだろう。
ヘルメスとは今後、地上で出会うだろう。今 ここで出逢ってしまうと、またどこかで出逢った?と、記憶が混乱するやも知れぬ。」


(ハデス様は、やはりそこまで気にするのか)
そうムカつきながらハデスに言い出す。

「 私は…  彼女の世話を任されるのは、適任ではありません。
大切にもてなすのは むつかしいと思います。誰か他の物に申し付け下さい。」

そう言うヘカテーをしばらく見つめていたが、ハデスは小さく
「 君もまだか 」と呟いて


「 では、ミノスに任せ    
「 これ以上 ミノスを関わらせるのは反対します!かなり親しそうにしておりました。」


珍しくハデスの言葉を待つ事なくヘカテーが声をあげる。


じっとヘカテーを見つめた後、ハデスは

「 わかった。誰か他の者を遣わそう。
それと皆、客人が ここのものを食べない様に気をつけててくれ。
後は自然に思い出すまでは、他の事も知らせる事がない様にしてくれ。あまり彼女の名を呼ばぬ様に。
ここで呼ばれた事を思い出してしまわない様にしてやってくれ。」


そうヘカテーに依頼した。
話を聞いていくうちに段々とヘカテーの無表情が壊れていく。眉間の皺をみてハデスが苦笑する。

「 すまない。よろしく頼む 」

主にそう言われてとうとう切れた。



「どうして主が頼むのか?!彼女はハデス様の何なんだ? ただの客人では無いのか!」



 まだ未練があるのか!あの女の娘にそんなに気をつかうほどに。

その言葉だけは飲み込んでヘカテーはハデスの元を去る。






ツカツカと靴を鳴らして、後ろ髪を頭の上の方で一つに括り 揺らしながら、早足で去るヘカテーに、ハデスも言葉を飲み込んだ。

(   誰が誰の身代わりというのだ。)



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...