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結ばれなくてよかった二人
しおりを挟むこの後コレーは、ヘカテーに礼を言い部屋を出た。
コレーは、ケイロンが案内することになったが、コレーの希望を聞くと 休める場所がほしいと言われる。
「 とりあえず、ここの部屋を使ってもらう事になってます。」
と、案内された部屋は 二階の奥で清潔でも華美ではない落ち着いた部屋だった。大きな二つの窓からは、外の遠くの景色やすぐ裏の森が見えた。冥界には普通 客は来ないので客間はほとんど無いとの事だった。
コレーに、申し訳ないが少し休みたいと言われて部屋を出て行くケイロンは、用事がある時は部屋に付いてるベルを鳴らす様に使い方を教える。
「 他に何かほしい物はない?食べ物や飲み物以外出来るだけ用意するよ。」
優しくそう言ってくれるが、
「 ありがとうございます。でもなんだか疲れてしまって少しだけ休ませてもらおうと思います。」
コレーはいつになく体の怠さを感じていた。
心配するケイロンだが、少し眠ればすぐに回復すると言うコレーを休ませる為にも部屋を出る。
部屋の扉に『DO NOT DISTURB 』の札をかけ、悪意のある者が訪れる事ができない様に結界をはる。
とりあえず、これで休ませて後で様子見に来るとするか、とケイロンは側を離れる。
しばらく行くと、さっきの部屋でミノスとヘカテーが追いかけごっこをしているのが見えた。
「ミノ!まだサボってるのか?
それにさっきのアレはなんだ?私がハデス様を大好きとか言うな!変にとるやつがいたらどうするんだ!」
「 そうムキになる所が可愛いよね~
図星を刺されると髪とおんなじ色の真っ赤になるほっぺが、思わず突っつきたくなるね~」
「うるさい!余計な事をペラペラと!
うちの冥界には、嘘吐きの舌を引き抜く道具にも、虚言癖のある者を放り投げる永劫の炎で赤熱した城塞にも事欠かない。
そんなに試したいなら是非、生身の体の感覚を取り戻して試させてやる!」
「 えー?それはサボってるって言われないの?
何?ヘカテーちゃん自ら女王様のスタイルでプレイしてくれるの? ご褒美プレイ?」
追いかけごっこしている仲良しの二人の邪魔をしない様に部屋を離れる。
(あのうるさい連中もしばらくは部屋に入れないだろう。)
=○
休憩室に行くとカロンの爺さんがこちらに気付いて目があった。
隣に座りカプノスをもらう。
「 お客さんは俺にお鉢が回ってきましたよ。面倒みる事になった。
デーメテール様の娘さんだから ヘカテーさんが嫌がったんだろう。
みんな まだこだわってるんだなぁ。案外ハデス様は初めから気にしてなかったようなのに。
本当のとこはどうなんだろう。俺はそこまで本気ではなくて、仲良し程度だったんじゃないかと思うけど。
何より まだまだ幼い頃の二人の話しなんでしょう?」
「 そうかい、お前がお嬢ちゃんの世話をしてくれるなら安心じゃな。で、今は?」
「少し疲れたみたいで寝るって。起こされないように結界を張ってきた。しばらくして見に行くつもりですよ。」
「まぁ、界渡りから船からずっと緊張しどうしの上に、記憶もないからかなり不安だったろう。
それでも、泣き出したのはここでの記憶は全て消して帰るって聞いた時だけじゃったな。人の気持ちのわかる優しい子じゃな。
名前も役目を忘れても花に一生懸命力を流そうとしてたしな。
どうだ?少しは力が戻ったかい?」
「いや。確かめては無いがたぶん。寝たら治るから心配するなとは言ってたが、随分と疲れた顔してたから、まだ力は戻って無いんじゃないか?」
「そうか。力も記憶もまだかかりそうじゃな。長くここに居てる事があの子にとっていいことなのか?凶になるのか?辛くならなければ良いが。
ハデス様にとってもな。」
カプノスの白煙がゆっくりと風に流れてゆく。時も健康も死さえ冥界では意味を保たない。
「…… わしは、あの子デーメテールとハデス様が結ばれなかったのは良かったと思っておる。
ハデス様は昔から人の事ばかりで自分の事はいつも後回しにする。後からででも、欲しがって後悔でもしてくればいい方だ。自ら何か欲した事は一度も無い。デーメテールがここ冥界に来る事を、皆が言うように本気で望んでいた様には決して見えなかったな。そうじゃ、まだまだ幼い頃の話しじゃな。
あの子はハデス様を裏切ったりはしてないし、ハデス様もそんな風には思っておられなんだ。
大体、あの地上が大好きなデーメテールがここに来て笑って過ごせたか?鬱々とした彼女の顔を見ながら過ごすハデス様こそお気の毒じゃろう。
まぁこの話は ミノの言葉を借りるならタラレバの話らしいからのぉ。」
その時、二人の背後でカサっと小さく足音がした。
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