冥界の愛

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カエラネバ、カエサネバ

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~もう二度と俺を思い出さない~




「本当に眠っているだけか?」

「はい。私が診たところ大変お疲れのご様子でした。」


 意識を失ったペルセフォネを心配したハデス様の命で、冥界の医者が冥府宮の客間に呼ばれた。
 冥界で暮らしてるからといって何も病気もなく、いつも元気で体調万全とは限らない。いや、元気いっぱいの冥界は想像しにくいが。
 とにかく、死者として肉体を持たずにこの冥界に存在している者もいれば、不老不死の神の肉体を持ったまま冥界で暮らしている者もいる。

 さすがに死後の国で、これ以上死ぬ様な事は無いが、心の持ち様なのか、地上での病気の症状が出てくる者もいてる。
 そこで、天上界地上界ときっての医学博士のケイロンが、今ではここ冥界の主治医殿となっている。まぁ、たまに地上の森の奥底にしか咲かない薬草を調達しに地上界へ渡る事もあるそうだ。地上に行くために、黒いマントの人の姿に変身する。(その姿を見て「ブラックジャックだ」とミノスに言われ「海賊の旗?そんな悪趣味なマントは着てないが」と、大真面目に返事をしたケイロンだが。遠い未来の弟子の一人が本当にブラックジャックだった。)

 その大賢者医学博士のケイロンの見立てに異を唱える愚かな者がいるはずもない。


「本当に寝てるだけなのか?」



いました。溺愛馬鹿なんでしょうね。

「はい。何度も言いますが、忘却水の作用で体調が悪くなったという訳ではなさそうです。ただ色々な事が急に体験された様でお客様の意識が疲労されていると出ております。
もしかしたら、冥府宮のお部屋を出てからずっと気を張ってる状況だったのでしょう。それで、さすがに緊張の糸も切れたと言えばご納得して頂けますか?」

「わかった。ケイロンありがとう。目を覚ましたらまた部屋に行って診察してくれ。」

「畏まりました、冥府王様」

と、報告にきたケイロンは 冥府王の部屋から退室する。

 その後、ハデスは一人部屋で考える。


 量としては僅かになった様だが、確実にペルセフォーネに忘却のレテの河の水がかけられた。
 次に目が覚めた時には何も覚えてないだろう。


 何も…。

 誰も…。


 それでいい。

 君は君のふさわしい場所で生きて行く。

 君の笑顔が見れる場所に返そう。

 一刻も早く。

 何故かここが痛くなり、味わった事のない激情が押し寄せる。


 必死に抑えているが、これが「唯一の定め」の力なのか? ある意味本当に恐ろしい。

 だが、それでもやっぱり 君は笑顔でいてくれないと。

 この冥界の奥深くまで引き込んで囲い込み閉じ込めてしまいたい欲望を、いつまで無視もできるか?初めてそんな欲望を持ってしまい、抑制の仕方も分からずに無駄に力を放出するから、冥界の(入り口の一つと言われてる)テ・メハニ火山がずっと大炎を噴き出しまくってる。

 優しいあの子に悟られてはいけない。悟られる前に地上に戻さないといけない。

 何より、彼女と同じで地上を愛しんでる。
小さき人達やニンフ達に囲まれて母親の側にいるあの子を思い出せ。

 

 …そうだ。 カエサネバ…   




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