冥界の愛

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継承の儀式

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「え?じゃあ どこの誰かもわからないの? なのにコレーはそれをずっと信じていたの?」

「えぇ、信じたわ。だってその方は私のお祖母さまだと仰っておられたもの。」

 お母様は信じられないって顔をして、私を見つめる。

昔から、いったん神殿から外に出ると、『デーメテール様には内密で』と私を訪ねてくる人や、不思議な出来事はよくあった。

もちろん 危険な事や、いかがわしい時は母の『護りの力』が作動して近づけない。不埒者には天罰が待っていた。
そんな事も全てを母に告げた訳ではなかった。地母神である母に嫉妬して、その娘になら何とか出来ると思ったのだろう。悪口や嫌味を言ってくる神々や使徒もたくさんいた。いちいち告げ口してたらキリが無い。私と母とニンフ達がここで暮らして困らないなら、例え幼い私の心が多少傷ついても何も言う必要はない。『護りの加護』が発動しない程度なら母も感知はできない。
それに幼い私には、傷ついた心を慰めてくれる素敵な友がいた。周りの花々でもチビニンフ達でもなく、温かく穏やかなオーラで包んでくれる、姿の見えない声だけの不思議な友だった。幼い子どもの私に『悪意の真実』を突きつける綺麗な顔をした神々。母に心配かけたくないと誰にも打ち明けられずに。心が壊れてしまわなかったのはその友のお陰だった。

 デーメテールの神殿のお家に母の不在時に訪ねてきて、しかも私だけに用がある人もいた。その中でも最も印象的な方がいた。「あれには言ってない」と言われると、母よりも高貴な神で知り合いなのだろう。

 
幼い頃の出来事を思い出していると、お母様がまた尋ねる。


「貴女のお祖母様ですって⁈」

「えぇ、お名前は仰らなかったけど、『お前の祖母だ』とだけ。何よりもお母様と同じオーラだったわ。」

 他の方ならそんな話は信じなかっただろう。
でも、その祖母という方は『既にその力とその役目は受け継がれてしまった』と言われたの。何か悲しそうな目が忘れられなかった。
だから、その力は悪い物なのかと思ったけど。『お前の母はその役目によってこの約束の大地に結び付けられている』と続けられたから。
私は
『母さまと同じならいいわ。コレーもここにいるから。みんなでここを幸せにする様に頑張るから』って言ったの。
そうしたら、お祖母様は地母神の役目や結婚について、話始めたわ。それがなんだか長くて、低い声で同じ調子で喋るから子守唄みたいに。気がつくと神殿の前で寝ていたわ。痛くない様に干し草が敷いてあったの。その後もお家に帰ってバタバタしてたから色々あってお母様に話しそびれてたわ。何度か思い出したけど、どうせ運命だから話してもそれは変わらないし。何かのタイミングでも話せばいいわと思っていたの。まさか今がそのタイミングが来るとは思わなかったけどね」


デーメテールの心の声
( な、な、なんてこった。



 あぁ!次代の継承の儀式は既に終わっていたなんて。


そう確かにアレは眠くなるわ。滔々と語る、まるで呪文の様な長く言の葉に成せる継承の始まりの意義や終わりまでの伝承。あれを、あれを、まだまだ覚醒もしていない幼な子にするなんて! 娘ならば女ならばなんでもいいのか?


まだまだ他にも継承出来る娘はいるだろうに。わざわざ抵抗できない幼な子に自覚も、無いまま。それに母の私に何も相談も無しになんて事をしやがる!!(いや、ごめんあそばせ)

 あの人は!本当に私の事なんて全くなんとも思ってないんだろう。他にも女の孫ならたくさん沢山居てるだろうに。何も私の娘にしなくてもいいのに。
 やっぱり、いえ確信して、あいつは私の母ではないわ。あの神が母だと言うなら私は岩から産まれたことにして欲しい。私の大事にしている物をことごとく壊しに来るんだ。あの女にとって大事な子はゼウスただその息子一人のみ。後はただの駒に過ぎない。私はもういまさら少しもいえ、全く母の愛など求めないが。)

 



「ところで、お母様は何しに天界にいらしたの?」


 (そうだわ。すっかりあの女の話に気を取られてた。大事なのは、この子の事よ。そうそう。)

「あなたの事でヘルメスに色々と世話になったのよ。そのお礼を言いに行ってたのよ」

「そうなの?元気にしてた?ヘルメスって意地っぱりだから、ありがとうって言われても素直にうんって言わないでしょう?どうせアポロン様のご依頼だからとか、ゼウス王の御命令を遂行したまでですとか言ってなかった?」

「コレー、随分とヘルメスの事知ってるのね?実はアポロンとも仲が良かったりする?」

 あら? これもアポロンとヘルメスとは昔から実はよく遊んでいたって事も言ってなかったわね。今日は内緒がよくバレる日だわ。何月何日だったけ?


「えぇ、まぁそれなりには。何かと華やかなお二方ですから。」

「そう、じゃあ コレーは二人の事どう思ってるの?」


「えー なんだか嫌な予感がするんだけど。その感想はさっきの結婚相手の話に繋がったりするの?
だったら、まーったくそんな感じではないわよ。お母様、もうほっといて欲しいわ」


そうお返事すると、

「そう?そうなのね。それならば仕方ないわ。それに、なんか今日は私も色々とびっくりする事が多くて。母さま疲れてしまったわ。もう休ませてもらうけど、コレーも早めに休んでね。じゃあ、おやすみなさい」


お母様はそう言って、なんだかふらふらと部屋を出ていった。



「私、そんなまずい事言ったかしら?メンテ、後でお母様のご様子見てあげてね。ところでお母様が、私に何か用事で部屋に訪ねたのではないのかしら?」

そう言うと、メンテが

「コレー様のお部屋の植木鉢の事をお聞きになりたかったようですよ。お帰りになられた時に私にお聞きになられましたから。」

「そうなのね。植木鉢が割れた事はお母様にお話した?」

「はい、『花を持ってどこかにお出かけになり、先程お帰りになられたご様子で、今はお部屋にいらっしゃいます』と、デーメテール様に申し上げて ここまでご一緒しましたから。」

「そうなのね。私が植え替えるならここの庭か、あのお気に入りの丘だとお母様も思ったでしょうね。まぁいいわ。
後でお母様に良く眠れる様なお茶でも持っていってあげてね。
じゃあ、私はお昼にサボった分 もう一仕事してきます。行ってきます!夕方には帰るわ~」



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