アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅱ) 北方動乱

StarFox

文字の大きさ
55 / 89
北方動乱

第五十五話 教導大隊vs魔獣大隊(一)

しおりを挟む
 前進するアレク達の目前にカスパニア軍魔獣大隊の後背部隊の姿が迫る。

 ドミトリーが前衛メンバーに支援魔法を掛ける。

筋力レッサー・強化ストレングス! 装甲フォース・強化アーマー!!」

 ナタリーも自分に強化魔法を掛ける。

「「詠唱加速スピード・キャスト!!」」

「「魔力マナ・魔法マジックシールド!!」

 アレクは、騎士盾を背中に背負うと、ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの刀身に左手で触れながら心の中で呟く。

(父上。力を貸して下さい。・・・力無き者達を守るために!!)

 アレクの精神状態に反応するように、ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの刀身は、淡い青白い光の輝きを増していく。




 意を決したアレクが叫ぶ。

「今だ! ナタリー! やれ!!」

「了解!!」

 アレクの指示を受けたナタリーは、カスパニア軍に向けて手をかざし、魔法を唱える。

火炎フレイム・爆裂バースト!!」

 ナタリーの掌の先に魔法陣が三つ現れると、魔法陣から現れた爆炎がカスパニア軍に向かって一直線に進んで行き、カスパニア軍の後背部隊を爆炎で包む。

「ぐぁああああ!!」

 ナタリーの魔法で火達磨になったカスパニア兵達が、地面を転がり回り、背後から攻撃を受けたカスパニア軍の兵士達に動揺が走る。

「敵襲!! 後ろからだ!!」

「敵だ! 背後に敵軍が現れたぞ!!」

「どこから??」





 カスパニア兵の一人が叫びながら先頭のアレクに斬り掛かって来る。

 アレクは、カスパニア兵の斬撃を屈んでかわすと、ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを水平に振るう。

 淡く青白く輝く魔力が込められた刀身は、鎧を着込んだカスパニア兵の胴体を容易く一刀両断する。

 アレクは改めてゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの切れ味に驚く。 

(凄い! 鎧を着た人間の胴体も一刀両断できる!!) 

 そのままアレクは、二人目、三人目、四人目と、次々とカスパニア兵を斬り伏せ、魔獣大隊の中へ斬り込んで行く。

 ユニコーン小隊の前衛のエルザ、トゥルム、アルもカスパニア兵を斬り伏せていくが、中堅職の他のメンバーより、上級職の上級騎士パラディンであるアレクがカスパニア兵を圧倒して突出する。

 アルは、アレクと同時にカスパニア軍と戦闘を開始したにもかかわらず、アレクに引き離され焦り出す。

(アレクの奴、速い! 速過ぎる! あれが上級騎士パラディンの力か!!)

 カスパニア軍に斬り込んでいくアレクにアルが叫ぶ。

「アレク! 前に出過ぎだ! 陣形が崩れてる!!」

(しまった!!)

 アルの言葉を受けて、ハッとしてアレクは立ち止まる。





 立ち止まるアレクの前にカスパニア軍の兵士達の中から、二体の食人鬼オーガが現れる。

 目の前に現れた棍棒を持った大きな食人鬼オーガを間近に見て、アレクは息を飲む。

 食人鬼オーガは、自分より小さなアレクを見て、鼻で笑う。

 アレクは、食人鬼オーガを観察する。

(図体はデカいが、動きはニブそうだ。腕力での勝負は・・・、止めておくか)

 アレクは、食人鬼オーガが手にしている棍棒に目を止める。

(武器は、こっちが上か!!)




 アレクは、ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの切先を低く下げると、刀身を自分の身体の脇に構え、正面に来た食人鬼オーガに対峙する。

 そのアレクの背後には、ぴったりとルイーゼが寄り添う。

 アルは、アレクに追い付こうと必死にカスパニア軍兵士達を斬り伏せて前へと進む。

 アルの左斜め後方にトゥルムとエルザが続く。

 立ち止まって食人鬼オーガに対峙するアレクを見て、アルが叫ぶ。

「アレク! ルイーゼと二人で食人鬼オーガる気か!? 無茶だ!!」

 食人鬼オーガは、アレクに向かって棍棒を振り上げると、横殴りに棍棒を振るう。

 アレクも雄叫びを上げながらゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを振り上げる。

「ウォオオオオ!!」

 アレクのゾーリンゲン・ツヴァイハンダーが食人鬼オーガの棍棒の握りから先を斬り飛ばし、棍棒の先があらぬ方向へ飛んで行く。

「フゴッ??」

 突然、棍棒の握りから先が無くなったため、食人鬼オーガは手に持っている棍棒の握りを眺めて小首を傾げる。

(今だ! 斬り返し!!)

 アレクはゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを斬り返すと、食人鬼オーガの右脇腹を切り裂く。

「ゴァアアアアア!!」

 食人鬼オーガは叫びを上げると、切り裂かれた右の脇腹を両手で押さえて屈む。

 アレクの後ろに付いていたルイーゼは、高く飛び上がって食人鬼オーガの顔に取り付くと、左右の手に持った短刀を食人鬼オーガの両目に突き立てる。 

 短刀で両目を潰された食人鬼オーガは、叫びながら右手で自分の顔を押さえると、左手でルイーゼを捕まえようとする。

 ルイーゼは、食人鬼オーガの左手を避けて、再びアレクの背後に飛び退く。

 アレクは大上段に構えると、ノの字に食人鬼オーガを斬り付ける。

 魔力を帯びたゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの鋭利な刀身は、食人鬼オーガの分厚い筋肉を物ともせず左肩から腰の右側まで切り裂いていく。

 絶命した食人鬼オーガは、前のめりに崩れ落ちる。




 アレクとルイーゼが食人鬼オーガを倒した様子を目の当たりにしたアルは驚く。

(まさか! 二人で食人鬼オーガを殺るなんて!!)





 もう一体の食人鬼オーガがアル達の前に現れる。

 食人鬼オーガはアル達に向けて棍棒を振り上げると、横殴りに薙ぎ払う。

 アルとエルザは後ろに飛び退いて食人鬼オーガの棍棒の一撃をかわす。

「うぉっ!?」

「きゃっ!!」

 しかし、トゥルムは手に持っていた大盾タワーシールド食人鬼オーガの棍棒の一撃を受ける。

「ぐうぅっ!!」

 トゥルムは、大盾タワーシールドで棍棒の一撃を防いだものの、鈍い金属音と共にそのまま五メートルほど吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 吹き飛ばされたトゥルムは、右肘を立てて上体を起こすと激しく咳き込む。

「カハッ! カハッ!!」

 ドミトリーがトゥルムの元に駆け寄る。

「トゥルム! 食人鬼オーガと力比べをするなど、自殺行為だぞ!?」

 トゥルムは苦笑いしながら答える。

「ああ。次からは、避ける事にする」

 ドミトリーは、トゥルムに向けて両手をかざすと回復魔法を唱える。

治癒ヒール!!」 

 トゥルムの身体が淡い緑色の光に包まれ、傷を癒していく。





 エルザは両手剣を八相に構えると、食人鬼オーガに斬り掛かる。

「おりゃあああ!!」

 食人鬼オーガは左腕を上げ、エルザの斬撃を左の前腕で受け止める。

 分厚い食人鬼オーガの筋肉にエルザの両手剣の刃が食い込む。

 次の瞬間、エルザに目掛けて食人鬼オーガの棍棒が振り下ろされる。

 エルザは、両手剣を引き抜いて素早く後ろに飛び退き、振り下ろされた棍棒の一撃を避けると、自分の背後に駆け寄って来たナディアに話し掛ける。

「ちょっと! なんでアイツに私の攻撃が効いて無いワケ!?」

 ナディアは、したり顔でエルザに答える。

「ちゃんと効いてるわよ? 単純に食人鬼オーガの筋肉が分厚くて、桁違いにタフなだけ」

 食人鬼オーガはエルザに狙いを定めると、数回、棍棒を振り下ろすが、軽装のエルザは身軽であり、全て素早く飛び退いて避ける。

 食人鬼オーガに狙われていたエルザが涙目でナディアに不満を告げる。

「あーん。もぅ! なんで私には、あんなのが迫って来るの!?」

 ナディアは、エルザをからかうように答える。

「モテモテね~! 羨ましいわ!!」

 エルザが愚痴をこぼす。

「私は、筋肉ダルママッチョはキライなの!!」

 ナディアは食人鬼オーガに向けて手をかざすと召喚魔法を唱える。

戦乙女のヴァルキリーズ・戦槍ジャベリン!!」

 ナディアの手の先に三つの光の球体が現れると、それは三本の光の矢に形を変えて食人鬼オーガへ目掛けて飛んでいき、その胸を貫く。

 食人鬼オーガは雄叫びを上げながらナディアに向けて棍棒を振るうが、ナディアは後ろに飛び退いて棍棒の一撃をかわす。

 今度は、ナディアがエルザに愚痴をこぼす。

戦乙女のヴァルキリーズ・戦槍ジャベリンが刺さっているのに死なないなんて! ・・・あの化物、本当にタフね!!」

 アルは、エルザとナディアの前に歩み出てエルザを追い回していた食人鬼オーガに対峙すると、右腕に持った斧槍ハルバードを水平に構え、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。

(いくぜ! いちせん!!)

 アルの渾身の力を込めた斧槍ハルバードの一撃が剛腕から放たれる。

 アルの斧槍ハルバード食人鬼オーガの左脇腹を捕らえ、分厚い筋肉を切り裂いて深々と食い込む。

「ガァアアアア!!」

 食人鬼オーガは、苦痛に叫びながら自分の脇腹に食い込んだアルの斧槍ハルバードを左手で掴む。

 アルは心の中で呟く。

(そう来たか!!)

 アルは、素早く斧槍ハルバードを手放して腰の鞘から海賊剣カトラスを抜き、食人鬼オーガの懐に踏み込むと、食人鬼オーガの喉を斬り払う。

 絶命した食人鬼オーガは天を仰ぐように後ろに倒れ、崩れ落ちる。

(やったぜ!!)





 食人鬼オーガを倒したアルは、斧槍ハルバードを引き抜き、得意気に自分の後ろに居るナタリーの方を向いて目配せする。

 アルの背後に食人鬼オーガの影に隠れていたものが姿を現してくる。

 ナタリーは、アルの背後に現れたものを見て驚いて叫ぶ。

「アル! 後ろ!!」





 ナタリーの叫びを聞いたアルが後ろを振り返ると、そこに現れたのは、蛇のような尻尾と蝙蝠のような翼を持った大きな雄鶏の化物。

 鶏蛇コカトリスであった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...