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北方動乱
第五十六話 教導大隊vs魔獣大隊(二)
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アルが後ろを振り返ると、そこに居たのは鶏蛇であった。
鶏蛇もアルの存在に気付き、アルの方を向くと大きく息を吸い込む。
鶏蛇が大きく息を吸い込む姿を見たアルの背中に戦慄が走る。
(石化息! やられる!!)
次の瞬間、ナタリーの魔法が炸裂する。
「地獄業火障壁!!」
ナタリーの足元に一つ、そして頭上に一定間隔で巨大な魔法陣が七個現れると、アルと鶏蛇の間の地面から爆炎が噴き上げ、障壁になる。
鶏蛇が吐いた石化息は、ナタリーの魔法で出現した爆炎の障壁によって阻まれ、アルには届かなかった。
爆炎の障壁は瞬く間に高くなっていき、十二メートルほどの高さになると、左右に一直線に伸びていく。
アルは、みるみるうちに広がっていく爆炎の障壁から地面を転がりながら遠ざかり、飲み込まれないように逃れる。
「うおおっ!? アチチチチ!!」
逃げ遅れた鶏蛇は、爆炎の中で断末魔の悲鳴を上げる。
やがて巨大な爆炎の障壁は、戦場を二分するほどの規模まで大きくなっていく。
前をゴズフレズ軍、後ろを教導大隊に挟まれていたカスパニア軍が、ナタリーの魔法によって前後に分断される。
ナタリーがアルの元に駆け寄る。
「アル! 大丈夫!?」
アルは、ナタリーが放った第七位階魔法地獄業火障壁から地面を転がって逃れたものの、至近距離で魔法が炸裂したため、身体のあちこちに火傷を負っていた。
アルは、上体を起こすとナタリーの呼びかけに答える。
「あんまり大丈夫って感じじゃないけど。・・・助かったよ。ナタリー、ありがとう」
ナタリーがアルを抱き起すと、アルはナタリーの肩を借りながら立ち上がり、噴き上がる爆炎の中で焼け焦げていく鶏蛇の姿を見ながら悪態を突く。
「へっ・・・。焼き鳥になりやがれ!」
アルとナタリーの元に他の小隊メンバーが集まって来る。
ドミトリーが口を開く。
「危うく鶏蛇と一緒に、お主も焼き鳥になるところだったぞ? ・・・ほれ、火傷を見せてみろ」
ドミトリーは、アルの火傷の状態を確認すると アルに向けて両手をかざして回復魔法を唱える。
「治癒!!」
アルの身体が淡い緑色の光に包まれ、火傷を癒していく。
上空から揚陸艇で全体の戦況を見守っていたジカイラとヒナの目にも、ナタリーの頭上の空中に現れた七つの大きな魔法陣と、戦場を一直線に二分して噴き上げる巨大な爆炎の障壁は、ハッキリと視認することが出来た。
ジカイラが口を開く。
「魔法陣が七つ!?」
ヒナが答える。
「まさか! ナタリーが第七位階魔法を!?」
ジカイラが感嘆しながらヒナに告げる。
「その、『まさか』だろう。・・・戦場を二分するほどの爆炎の障壁を作り上げるとは。まさに天賦の才だ。・・・さすがハリッシュとクリシュナの娘だな」
突然、戦場に現れた爆炎の障壁に教導大隊もゴズフレズ軍もカスパニア軍も驚いていた。
戦場にアレクの声が響き渡る。
「敵は分断されたぞ! 今だ! 殲滅しろ!!」
アレクの声に戦場にいる教導大隊から歓声が沸く。
「「おおっ!!」
教導大隊は勢い付き、分断されたカスパニア軍を圧倒する。
しかし、ナタリーの地獄業火障壁も半時ほどで消滅していく。
魔法による爆炎の障壁が無くなった後、ナディアとエルザの前にカスパニア軍の猛獣使いが現れる。
猛獣使いは、光沢のある黒い革で出来たピチピチの服を着て、上半身は半裸の中年のむさ苦しい熊髭の男であった。
ナディアとエルザを見た猛獣使いは、下卑た笑みを浮かべながら二人に告げる。
「おおっと。こんなところに上玉が居るとはな。・・・へへへ。大人しく、二人とも、オレに飼われな!」
猛獣使いの姿を見たナディアが口を開く。
「ダメ! 私、ああいうの、ダメ! ・・・男で、色白で、太ってて、脂ぎっていて、髭面で、ハァハァいってて、黒革のピチピチの服を着ているとか。・・・ダメ!! うー、蕁麻疹が出る!!」
ナディアは生理的嫌悪感を隠さずにそう言うと、両手で自分の二の腕を摩りながらエルザの後ろに行き、エルザの背中を押して猛獣使いの方へ押しやる。
エルザは、ナディアに背中を押されて猛獣使いの方へ追いやられ、涙目でナディアに抗議する。
「ちょっと! 私に押し付けないでよ!!」
エルザは両手剣を構えると、目の前の猛獣使いを観察する。
「嫌ぁああああ! 脂ぎって、テカってる! 一週間は、お風呂に入って無さそう! 無理、無理、無理! 私、無理! 絶対、無理!!」
涙目でエルザがそう叫ぶと、露骨に生理的嫌悪感を示して獣耳と尻尾の毛が逆立ち、肌には鳥肌が立つ。
自分を見た二人の態度に猛獣使いは怒り出す。
「あ? ナメてんのか!? テメェら!!」
額に青筋を浮かべて猛獣使いが腰から鞭を取り出すと、二人の目の前で鞭を両手で引っ張って見せる。
エルザの影に隠れながらナディアが口を開く。
「私、そっち系の趣味は無いのよ。・・・ということで。エルザ! 頑張って!!」
ナディアはそう言うと、再びエルザの背中を押す。
背中を押されたエルザは、涙目で猛烈に抗議する。
「嫌よ! 私だって、鞭で打たれて喜ぶ変態趣味なんて無いわ!」
自分の目の前で寸劇のようなやり取りを繰り広げる二人に、猛獣使いは怒りを堪えながら告げる。
「亜人が。二人ともカスパニアに連れて帰って、見世物小屋で公開自慰させてやる! きっと、良い金になるだろう。 ・・・じっくりと調教してやる!!」
下卑た笑みを浮かべる猛獣使いの前に、ユニコーン小隊のメンバーが集まる。
アレクが口を開く。
「ナディア、エルザ。・・・二人とも、どうしたんだ?」
ナディアは無言のまま、鼻先で猛獣使いの方を指す。
涙目のエルザが救いを求めるようにアレクに答える。
「あぁ~ん、アレク! 変態よ! 変態!!」
エルザの答えを聞いたアルは目が点になって呟く。
「・・・変態??」
ユニコーン小隊のメンバー達の視線が猛獣使いに集まると、猛獣使いは、不敵な笑みを浮かべながらアレク達に告げる。
「人間四人に亜人が四人か。亜人共に首輪と鎖を着けていないところを見ると、奴隷では無さそうだ。『放し飼い』にしているのか?」
バレンシュテット帝国では、帝国に帰属するエルフやドワーフ、蜥蜴人や獣人といった亜人達にも人間と同等の人権が与えられていた。
しかし、カスパニア王国では、亜人は人として扱われておらず、犬や猫と同様の扱いであった。
猛獣使いの言葉にアルがいきり立つ。
「何だと、テメェ!!」
いきり立つアルを制して、トゥルムが前に出る。
驚いたアルが呟く。
「トゥルム・・・?」
トゥルムが口を開く。
「亜人が、どうしたって?」
人間より二回りは体格が大きい蜥蜴人のトゥルムが現れ、猛獣使いはビビり出す。
「くっ・・・。来い! ベティ!!」
猛獣使いは、右手の親指と人差し指で輪を作って口に運んで口笛を吹き、使役している魔獣を呼び寄せようとする。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
魔獣は現れなかった。
アレク達は、互いに顔を見合わせる。
「どうした!? 早く来い! ベティ!!」
焦りながら猛獣使いは再び口笛を吹くが、魔獣は現れなかった。
アルが呆れ顔で猛獣使いに尋ねる。
「なぁ・・・。ひょっとして、お前の『ベティ』って、この鶏蛇か??」
そう言うと、アルはナタリーの魔法で焼け死んだ鶏蛇の黒焦げの死体を指差す。
猛獣使いはアルが指し示す先を見て驚愕する。
「オレのベティが!?」
トゥルムは三叉槍を構えると、思い切り三叉槍の穂先の背で猛獣使いの顔面を殴り付ける。
「ヒデブッ!?」
三叉槍が顔面に炸裂する鈍い音と共に、嗚咽を上げながら猛獣使いは後ろに吹き飛んで倒れた。
鶏蛇もアルの存在に気付き、アルの方を向くと大きく息を吸い込む。
鶏蛇が大きく息を吸い込む姿を見たアルの背中に戦慄が走る。
(石化息! やられる!!)
次の瞬間、ナタリーの魔法が炸裂する。
「地獄業火障壁!!」
ナタリーの足元に一つ、そして頭上に一定間隔で巨大な魔法陣が七個現れると、アルと鶏蛇の間の地面から爆炎が噴き上げ、障壁になる。
鶏蛇が吐いた石化息は、ナタリーの魔法で出現した爆炎の障壁によって阻まれ、アルには届かなかった。
爆炎の障壁は瞬く間に高くなっていき、十二メートルほどの高さになると、左右に一直線に伸びていく。
アルは、みるみるうちに広がっていく爆炎の障壁から地面を転がりながら遠ざかり、飲み込まれないように逃れる。
「うおおっ!? アチチチチ!!」
逃げ遅れた鶏蛇は、爆炎の中で断末魔の悲鳴を上げる。
やがて巨大な爆炎の障壁は、戦場を二分するほどの規模まで大きくなっていく。
前をゴズフレズ軍、後ろを教導大隊に挟まれていたカスパニア軍が、ナタリーの魔法によって前後に分断される。
ナタリーがアルの元に駆け寄る。
「アル! 大丈夫!?」
アルは、ナタリーが放った第七位階魔法地獄業火障壁から地面を転がって逃れたものの、至近距離で魔法が炸裂したため、身体のあちこちに火傷を負っていた。
アルは、上体を起こすとナタリーの呼びかけに答える。
「あんまり大丈夫って感じじゃないけど。・・・助かったよ。ナタリー、ありがとう」
ナタリーがアルを抱き起すと、アルはナタリーの肩を借りながら立ち上がり、噴き上がる爆炎の中で焼け焦げていく鶏蛇の姿を見ながら悪態を突く。
「へっ・・・。焼き鳥になりやがれ!」
アルとナタリーの元に他の小隊メンバーが集まって来る。
ドミトリーが口を開く。
「危うく鶏蛇と一緒に、お主も焼き鳥になるところだったぞ? ・・・ほれ、火傷を見せてみろ」
ドミトリーは、アルの火傷の状態を確認すると アルに向けて両手をかざして回復魔法を唱える。
「治癒!!」
アルの身体が淡い緑色の光に包まれ、火傷を癒していく。
上空から揚陸艇で全体の戦況を見守っていたジカイラとヒナの目にも、ナタリーの頭上の空中に現れた七つの大きな魔法陣と、戦場を一直線に二分して噴き上げる巨大な爆炎の障壁は、ハッキリと視認することが出来た。
ジカイラが口を開く。
「魔法陣が七つ!?」
ヒナが答える。
「まさか! ナタリーが第七位階魔法を!?」
ジカイラが感嘆しながらヒナに告げる。
「その、『まさか』だろう。・・・戦場を二分するほどの爆炎の障壁を作り上げるとは。まさに天賦の才だ。・・・さすがハリッシュとクリシュナの娘だな」
突然、戦場に現れた爆炎の障壁に教導大隊もゴズフレズ軍もカスパニア軍も驚いていた。
戦場にアレクの声が響き渡る。
「敵は分断されたぞ! 今だ! 殲滅しろ!!」
アレクの声に戦場にいる教導大隊から歓声が沸く。
「「おおっ!!」
教導大隊は勢い付き、分断されたカスパニア軍を圧倒する。
しかし、ナタリーの地獄業火障壁も半時ほどで消滅していく。
魔法による爆炎の障壁が無くなった後、ナディアとエルザの前にカスパニア軍の猛獣使いが現れる。
猛獣使いは、光沢のある黒い革で出来たピチピチの服を着て、上半身は半裸の中年のむさ苦しい熊髭の男であった。
ナディアとエルザを見た猛獣使いは、下卑た笑みを浮かべながら二人に告げる。
「おおっと。こんなところに上玉が居るとはな。・・・へへへ。大人しく、二人とも、オレに飼われな!」
猛獣使いの姿を見たナディアが口を開く。
「ダメ! 私、ああいうの、ダメ! ・・・男で、色白で、太ってて、脂ぎっていて、髭面で、ハァハァいってて、黒革のピチピチの服を着ているとか。・・・ダメ!! うー、蕁麻疹が出る!!」
ナディアは生理的嫌悪感を隠さずにそう言うと、両手で自分の二の腕を摩りながらエルザの後ろに行き、エルザの背中を押して猛獣使いの方へ押しやる。
エルザは、ナディアに背中を押されて猛獣使いの方へ追いやられ、涙目でナディアに抗議する。
「ちょっと! 私に押し付けないでよ!!」
エルザは両手剣を構えると、目の前の猛獣使いを観察する。
「嫌ぁああああ! 脂ぎって、テカってる! 一週間は、お風呂に入って無さそう! 無理、無理、無理! 私、無理! 絶対、無理!!」
涙目でエルザがそう叫ぶと、露骨に生理的嫌悪感を示して獣耳と尻尾の毛が逆立ち、肌には鳥肌が立つ。
自分を見た二人の態度に猛獣使いは怒り出す。
「あ? ナメてんのか!? テメェら!!」
額に青筋を浮かべて猛獣使いが腰から鞭を取り出すと、二人の目の前で鞭を両手で引っ張って見せる。
エルザの影に隠れながらナディアが口を開く。
「私、そっち系の趣味は無いのよ。・・・ということで。エルザ! 頑張って!!」
ナディアはそう言うと、再びエルザの背中を押す。
背中を押されたエルザは、涙目で猛烈に抗議する。
「嫌よ! 私だって、鞭で打たれて喜ぶ変態趣味なんて無いわ!」
自分の目の前で寸劇のようなやり取りを繰り広げる二人に、猛獣使いは怒りを堪えながら告げる。
「亜人が。二人ともカスパニアに連れて帰って、見世物小屋で公開自慰させてやる! きっと、良い金になるだろう。 ・・・じっくりと調教してやる!!」
下卑た笑みを浮かべる猛獣使いの前に、ユニコーン小隊のメンバーが集まる。
アレクが口を開く。
「ナディア、エルザ。・・・二人とも、どうしたんだ?」
ナディアは無言のまま、鼻先で猛獣使いの方を指す。
涙目のエルザが救いを求めるようにアレクに答える。
「あぁ~ん、アレク! 変態よ! 変態!!」
エルザの答えを聞いたアルは目が点になって呟く。
「・・・変態??」
ユニコーン小隊のメンバー達の視線が猛獣使いに集まると、猛獣使いは、不敵な笑みを浮かべながらアレク達に告げる。
「人間四人に亜人が四人か。亜人共に首輪と鎖を着けていないところを見ると、奴隷では無さそうだ。『放し飼い』にしているのか?」
バレンシュテット帝国では、帝国に帰属するエルフやドワーフ、蜥蜴人や獣人といった亜人達にも人間と同等の人権が与えられていた。
しかし、カスパニア王国では、亜人は人として扱われておらず、犬や猫と同様の扱いであった。
猛獣使いの言葉にアルがいきり立つ。
「何だと、テメェ!!」
いきり立つアルを制して、トゥルムが前に出る。
驚いたアルが呟く。
「トゥルム・・・?」
トゥルムが口を開く。
「亜人が、どうしたって?」
人間より二回りは体格が大きい蜥蜴人のトゥルムが現れ、猛獣使いはビビり出す。
「くっ・・・。来い! ベティ!!」
猛獣使いは、右手の親指と人差し指で輪を作って口に運んで口笛を吹き、使役している魔獣を呼び寄せようとする。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
魔獣は現れなかった。
アレク達は、互いに顔を見合わせる。
「どうした!? 早く来い! ベティ!!」
焦りながら猛獣使いは再び口笛を吹くが、魔獣は現れなかった。
アルが呆れ顔で猛獣使いに尋ねる。
「なぁ・・・。ひょっとして、お前の『ベティ』って、この鶏蛇か??」
そう言うと、アルはナタリーの魔法で焼け死んだ鶏蛇の黒焦げの死体を指差す。
猛獣使いはアルが指し示す先を見て驚愕する。
「オレのベティが!?」
トゥルムは三叉槍を構えると、思い切り三叉槍の穂先の背で猛獣使いの顔面を殴り付ける。
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