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第三章 中核都市エームスハーヴェン
第四十六話 苦悩
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ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、ヒナ、エリシス、リリーの六人は、ティナの部屋に居た。
穏やかな寝息を立てて眠るティナの傍らに座り、その頭を撫でながらラインハルトが皆に告げる。
「すまない。私とナナイとティナの三人にしてくれないか?」
ラインハルトの言葉に他の者は、ティナの部屋を出て一階の食堂へ向かう。
部屋の扉が閉められ、ティナの部屋には、ラインハルトとナナイ、ティナの三人だけになる。
ラインハルトは悩んでいた。
額冠の呪いによって、食事も取らず自慰を続けていれば、ティナは衰弱していく一方である。
幼い頃から兄妹として一緒に育ったティナは、可愛い妹であり、何としても呪いから救ってやりたい。
それには自分がティナを女として抱かねばならない。
ティナ自身がそれを望んでいても、それは同時に愛する妻であるナナイへの裏切りになる。
初恋の相手であり、今は良き妻として皇妃として、息子を産み育ててくれている、自分を支えてくれているナナイを傷つけたくはない。
もし、逆の立場だったら?
仮に、皇妃であるナナイの父親が呪われて、ナナイを女として抱かないと解けない呪いだったら?
ナナイなら、肉親であっても、ためらいなく自分の父親を切り捨てるだろう。
ナナイには、肉親の情に絆されない『強さ』がある。
『最強の騎士王』などと称されていても、愛と情に囚われている自分は『弱い』と自覚せざるを得ない。
重苦しい空気の中、沈黙の時間が流れる。
ベッドに腰掛け俯いたままラインハルトが口を開く。
「ナナイ、私は・・・」
ナナイがラインハルトの言葉を遮る。
「いいの。気にしないで。私は平気だから。ティナを助けてあげて」
ナナイを見上げ、ラインハルトが答える。
「しかし、・・・」
言い掛けたラインハルトの口をナナイが人差し指で塞ぎ、ラインハルトの言葉を遮る。
「貴方が何人、私以外の女を抱いたとしても、貴方の妻は、世界に唯一人。私だけよ」
そう言ってナナイは、ラインハルトに微笑む。
ラインハルトが呟く。
「ナナイ・・・」
ナナイは、ラインハルトの呟きには答えず、そのまま部屋の扉へと歩いていき、扉を開けるとラインハルトのほうを振り向いて告げる。
「ティナを助けてあげて。必ず。約束よ」
そう言うとナナイは、ティナの部屋から出ていき、扉を締めて、宿屋の一階へと降りていった。
宿屋の一階の食堂には、ジカイラ、ヒナ、ケニー、ルナ、ハリッシュ、エリシス、リリーが、長机のテーブルを囲んで座っていた。
ナナイが二階から一階へ階段を降りてくることにジカイラが気付く。
ジカイラがナナイに尋ねる。
「ナナイ! ラインハルトはどうした!?」
階段を降りたナナイが答える。
「ティナの部屋よ。彼は、必ずティナを助けるわ」
ヒナも口を開く。
「『助ける』って・・・。ナナイは平気なの?」
ナナイはキッパリと言い切る。
「平気よ」
ナナイの答えを聞いて唖然とするヒナを尻目に、ナナイはエリシスに話し掛ける。
「エリシス。私は先に皇宮に帰っているわ。転移門をお願い」
「畏まりました」
そう答えるとエリシスは立ち上がり、転移門を開く。
ナナイは、エリシスが作った転移門を通り、皇宮に帰って行った。
宿屋の一階の食堂に、ジカイラ、ヒナ、ケニー、ルナ、ハリッシュ、エリシス、リリーが残る。
ナナイの立ち振る舞いを見たジカイラが口を開く。
「何か・・・意外だな。あのナナイが、『ラインハルトが他の女を抱く事』をアッサリ受け入れるなんて。絶対、ひと悶着起きると思ったんだが」
ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後で口を開く。
「まぁ、『流石、皇妃様』といったところでしょうか」
エリシスはグラスを傾け、微笑みながら口を開く。
「強くて聡明ね。彼女」
リリーも口を開く。
「『ルードシュタットの戦乙女』と呼ばれていただけのことはありますね」
両手で持つグラスを見つめながら、ヒナも口を開く。
「私は・・・。私には、できない・・・。あんな風に」
目の前の現実を受け入れ、動じること無く毅然として皇妃として振る舞い、颯爽と立ち去る。
ナナイの立ち振る舞いを見たヒナは、ナナイと自分との『歴然とした差』を見せつけられた気がした。
ケニーとルナも、ヒナとハリッシュから、額冠によってティナに掛けられた呪いと、呪いを解く方法について教えられていたが、口にすることは無かった。
一人、皇宮に帰ったナナイは、皇帝の私室に入ると、部屋着である白いワンピースに着替える。
息子の子守をメイドから引き継ぐ。
「後は、私が」
ナナイが子守をしていたメイドに声を掛けると、メイドはナナイに一礼して皇帝の私室を後にした。
ナナイは、ゆりかごを覗き込むと、すやすやと眠る息子の額にキスする。
眠っている息子にナナイは微笑み掛ける。
そして、ナナイは部屋の明かりを消すと、皇帝夫妻のベッドにうつ伏せに倒れ込むように横になる。
真っ暗な部屋の中、ラインハルトの居ない、一人には大きすぎるベッドに横たわると、ナナイは枕に顔を押し付け、ラインハルトの事を考える。
ラインハルトがティナを抱かなければ、ティナを呪いから救うことはできない。
帝国軍要塞「死の山」で、ラインハルトは自分を守るため、ゾンビとなった母親を斬り捨てた。
この上、ラインハルトに義妹のティナまで斬り捨てさせるのか。
それはできない。
これ以上、自分が愛する人を傷つけたくない。苦しめたくない。
ラインハルトが他の女を抱く。
自分が我慢すれば良い。
それだけだ。
頭では、理屈では判っているつもりでも、心が付いていかない。
ナナイの美しいエメラルドの瞳から、大粒の涙が溢れる。
ナナイは、声を押し殺して、一人、泣いていた。
穏やかな寝息を立てて眠るティナの傍らに座り、その頭を撫でながらラインハルトが皆に告げる。
「すまない。私とナナイとティナの三人にしてくれないか?」
ラインハルトの言葉に他の者は、ティナの部屋を出て一階の食堂へ向かう。
部屋の扉が閉められ、ティナの部屋には、ラインハルトとナナイ、ティナの三人だけになる。
ラインハルトは悩んでいた。
額冠の呪いによって、食事も取らず自慰を続けていれば、ティナは衰弱していく一方である。
幼い頃から兄妹として一緒に育ったティナは、可愛い妹であり、何としても呪いから救ってやりたい。
それには自分がティナを女として抱かねばならない。
ティナ自身がそれを望んでいても、それは同時に愛する妻であるナナイへの裏切りになる。
初恋の相手であり、今は良き妻として皇妃として、息子を産み育ててくれている、自分を支えてくれているナナイを傷つけたくはない。
もし、逆の立場だったら?
仮に、皇妃であるナナイの父親が呪われて、ナナイを女として抱かないと解けない呪いだったら?
ナナイなら、肉親であっても、ためらいなく自分の父親を切り捨てるだろう。
ナナイには、肉親の情に絆されない『強さ』がある。
『最強の騎士王』などと称されていても、愛と情に囚われている自分は『弱い』と自覚せざるを得ない。
重苦しい空気の中、沈黙の時間が流れる。
ベッドに腰掛け俯いたままラインハルトが口を開く。
「ナナイ、私は・・・」
ナナイがラインハルトの言葉を遮る。
「いいの。気にしないで。私は平気だから。ティナを助けてあげて」
ナナイを見上げ、ラインハルトが答える。
「しかし、・・・」
言い掛けたラインハルトの口をナナイが人差し指で塞ぎ、ラインハルトの言葉を遮る。
「貴方が何人、私以外の女を抱いたとしても、貴方の妻は、世界に唯一人。私だけよ」
そう言ってナナイは、ラインハルトに微笑む。
ラインハルトが呟く。
「ナナイ・・・」
ナナイは、ラインハルトの呟きには答えず、そのまま部屋の扉へと歩いていき、扉を開けるとラインハルトのほうを振り向いて告げる。
「ティナを助けてあげて。必ず。約束よ」
そう言うとナナイは、ティナの部屋から出ていき、扉を締めて、宿屋の一階へと降りていった。
宿屋の一階の食堂には、ジカイラ、ヒナ、ケニー、ルナ、ハリッシュ、エリシス、リリーが、長机のテーブルを囲んで座っていた。
ナナイが二階から一階へ階段を降りてくることにジカイラが気付く。
ジカイラがナナイに尋ねる。
「ナナイ! ラインハルトはどうした!?」
階段を降りたナナイが答える。
「ティナの部屋よ。彼は、必ずティナを助けるわ」
ヒナも口を開く。
「『助ける』って・・・。ナナイは平気なの?」
ナナイはキッパリと言い切る。
「平気よ」
ナナイの答えを聞いて唖然とするヒナを尻目に、ナナイはエリシスに話し掛ける。
「エリシス。私は先に皇宮に帰っているわ。転移門をお願い」
「畏まりました」
そう答えるとエリシスは立ち上がり、転移門を開く。
ナナイは、エリシスが作った転移門を通り、皇宮に帰って行った。
宿屋の一階の食堂に、ジカイラ、ヒナ、ケニー、ルナ、ハリッシュ、エリシス、リリーが残る。
ナナイの立ち振る舞いを見たジカイラが口を開く。
「何か・・・意外だな。あのナナイが、『ラインハルトが他の女を抱く事』をアッサリ受け入れるなんて。絶対、ひと悶着起きると思ったんだが」
ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後で口を開く。
「まぁ、『流石、皇妃様』といったところでしょうか」
エリシスはグラスを傾け、微笑みながら口を開く。
「強くて聡明ね。彼女」
リリーも口を開く。
「『ルードシュタットの戦乙女』と呼ばれていただけのことはありますね」
両手で持つグラスを見つめながら、ヒナも口を開く。
「私は・・・。私には、できない・・・。あんな風に」
目の前の現実を受け入れ、動じること無く毅然として皇妃として振る舞い、颯爽と立ち去る。
ナナイの立ち振る舞いを見たヒナは、ナナイと自分との『歴然とした差』を見せつけられた気がした。
ケニーとルナも、ヒナとハリッシュから、額冠によってティナに掛けられた呪いと、呪いを解く方法について教えられていたが、口にすることは無かった。
一人、皇宮に帰ったナナイは、皇帝の私室に入ると、部屋着である白いワンピースに着替える。
息子の子守をメイドから引き継ぐ。
「後は、私が」
ナナイが子守をしていたメイドに声を掛けると、メイドはナナイに一礼して皇帝の私室を後にした。
ナナイは、ゆりかごを覗き込むと、すやすやと眠る息子の額にキスする。
眠っている息子にナナイは微笑み掛ける。
そして、ナナイは部屋の明かりを消すと、皇帝夫妻のベッドにうつ伏せに倒れ込むように横になる。
真っ暗な部屋の中、ラインハルトの居ない、一人には大きすぎるベッドに横たわると、ナナイは枕に顔を押し付け、ラインハルトの事を考える。
ラインハルトがティナを抱かなければ、ティナを呪いから救うことはできない。
帝国軍要塞「死の山」で、ラインハルトは自分を守るため、ゾンビとなった母親を斬り捨てた。
この上、ラインハルトに義妹のティナまで斬り捨てさせるのか。
それはできない。
これ以上、自分が愛する人を傷つけたくない。苦しめたくない。
ラインハルトが他の女を抱く。
自分が我慢すれば良い。
それだけだ。
頭では、理屈では判っているつもりでも、心が付いていかない。
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ナナイは、声を押し殺して、一人、泣いていた。
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