アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅲ) 世界大戦

StarFox

文字の大きさ
34 / 149
第一章 ホラント独立戦争

第三十四話 トラキア開拓事業、フェリシア水道

しおりを挟む
--帝国領トラキア 州都ツァンダレイ トラキア離宮

 ジークは、この夜、ねやに第三妃のフェリシアを呼んでいた。

「あっ・・・ああっ・・・はああっ!!」

 ジークの男性器に秘所を貫かれる度、フェリシアの口から喘ぎ声が漏れる。

 豪華な天蓋付きのベッドで一晩中、ジークに抱かれていたフェリシアは、胎内に子種を注がれると汗ばんで火照った身体をベッドに横たえる。

 閨事ねやごとを終えたジークが後ろからフェリシアを抱き、耳元で囁く。

「どうした? 浮かない顔をしているな。・・・痛かったか??」

 ジークからの問いにフェリシアは恥ずかしそうに答える。

「いえ。・・・とても気持ち良かったです」

 ジークはベッドに横たわったまま上半身を起こすと、汗で顔に張り付いたフェリシアの黒髪を指先で避け、微笑み掛ける。

「せっかく、フェリシアの故郷のトラキアに来たのだ。フェリシアの素敵な笑顔が見られると思っていたのだが」




 ジークの言葉にフェリシアが表情を曇らせたのには理由があった。

 フェリシアは、旧トラキア連邦に属するバラクレア王国の王女として生まれた。

 男子禁制の修道院で育ち、神々に仕える巫女として学んでいたが、トラキア連邦の議長を務めていた父王が鼠人スケーブンとの戦いで戦死したため、フェリシアが父王からバラクレア王国の王位とトラキア連邦の議長職を引き継いだものの、その統治は困難を極めた。

 先代の父王は、強大なバレンシュテット帝国を恐れるあまり、奴隷商人ヴォギノの甘言に乗って他の連邦諸侯に内密でダークエルフと取引し、トラキア連邦領内に『霊樹の森』の移設を認めた。

 それが全ての国難の元凶であり、フェリシアがその国難を背負う事になった。

 『霊樹の森』から現れた鼠人スケーブンは、トラキア連邦内だけでなくバレンシュテット帝国の辺境まで暴れ回り、黒死病ペストを蔓延させた。

 鼠人スケーブンによる侵略に激怒したバレンシュテット帝国は、帝国東部方面軍二十万によるトラキア連邦へ武力侵攻を決め、『トラキア戦役』が勃発。

 圧倒的な軍事力を誇る帝国東部方面軍は、虎の子の飛行艦隊と蒸気戦車スチームタンクを用いて鼠人スケーブンを蹴散らし、常備軍三万のトラキア連邦の首都を急襲、トラキア連邦政府を降伏させた。

 フェリシアは、帝国軍の捕虜として帝国軍の司令官であったジークと出会い、アレクの助命嘆願を聞き入れた皇帝ラインハルトの勅命によって、ジークの第三妃となることと引き換えに戦争犯罪人としての処刑を免れたのであった。

 極左勢力のトラキア解放戦線は、連邦政府の降伏後もトラキア第二の都市カルロフカに立て籠もって帝国軍に抵抗していたが、皇帝ラインハルトは帝国四魔将のエリシス伯爵に命じ、『禁呪・隕石落としメテオ・ストライク』によってカルロフカ十万人の住民ごとトラキア解放戦線を消滅させた。

 バレンシュテット帝国の圧倒的な力を見せつけられ、貧しい暮らしを続けるトラキアの人々の中には、帝国の皇太子であるジークの第三妃となって何不自由無く暮らしているフェリシアを快く思わない者達も数多く居り、フェリシアの心を重苦しいものにしていた。





 フェリシアは、思い切って心の内をジークに打ち明ける。

 想いを語るフェリシアの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。

 涙ながらに想いを語るフェリシアに、ジークは右手の指先でフェリシアの頬を伝う涙をすくうと、頬に手を当てキスする。

 ジークのエメラルドの瞳がフェリシアの黒い瞳を見詰める。

(自分の事よりも、トラキアの民の苦しみに心を痛めるとは。・・・フェリシア。お前は、やはり王族であり、巫女なのだな)

「言ったはずだ。『もう苦しまなくて良い』と」

「・・・はい」

「私はトラキアを緑の大地に変えてみせる。約束しよう」

「ありがとうございます」







-- 翌日。

 ジークは三人の妃達を連れ、ハリッシュ夫妻と共にカルロフカ湖に行く。

 かつて人口十万人が住んでいたトラキア第二の都市は、エリシス伯爵の禁呪『隕石落としメテオ・ストライク』によって消滅。

 落下した隕石は都市を消滅させただけでなく、その地下の岩盤を貫き、一帯を巨大な湖に変えていた。

 ジーク達六人は、揚陸艇でニーベルンゲンから湖畔に降り立つとカルロフカ湖を眺める。

 カルロフカ湖が出来た経緯を知らないカリンは、湖を見て大喜びしながら嬉しそうにジークに告げる。

「綺麗な湖ですね! ジーク様!」

「ああ」

 カリンに微笑み掛けるジークの傍らで、フェリシアは表情を曇らせていた。

 一方、アストリッドは、カルロフカ湖が出来た経緯など、何も気にも掛けていない様子であった。
 
 ジークが三人の妃達に告げる。

「私は、この湖から水を引く用水路を造って、トラキアの地を灌漑しようと思っている」

 ジークの言葉にフェリシアが驚く。

「用水路を!?」

 驚くフェリシアの顔を見たジークは、ハリッシュを呼ぶ。

「・・・ハリッシュ導師」

 ジークの言葉にハリッシュは頷いて返すと、自分の傍らに居るクリシュナを呼ぶ。

「クリシュナ。始めて下さい」

「判ったわ。任せて」

 上位召喚士ハイ・サモナーのクリシュナは、地面に十二枚の呪符を置くと魔法を唱え、十二体のストーンゴーレムを召喚する。

 クリシュナが命令を下すと十二メートル級の巨大なストーンゴーレム達は地面を掘り、カルロフカ湖から水を引く灌漑用水路を造り始める。

 ストーンゴーレム達が掘削作業を始めたのを見届けたジークは、傍らのフェリシアに告げる。

「トラキアの地を潤す灌漑用水路の建設は、トラキア開拓事業の第一歩だ。私は、この水路を『フェリシア水道』と名付けようと思う。・・・良いだろう?」






 トラキアでは、僅かな水源を巡って人々は争いを繰り返してきた。

 灌漑用水路によって乾いたトラキアの地に水が行き渡れば、水源を巡ってトラキア人々が争う事は無くなる。

 トラキアの地を緑豊かな土地に変えるであろう灌漑用水路に自分の名前が付けられる。





 ジークの言葉にフェリシアは胸が一杯になる。

「・・・はい」

 ジークのトラキア開拓事業は、第三妃フェリシアの名前を冠した灌漑用水路の建設によって、その第一歩を歩み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...