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第一章 ホラント独立戦争
第三十四話 トラキア開拓事業、フェリシア水道
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--帝国領トラキア 州都ツァンダレイ トラキア離宮
ジークは、この夜、閨に第三妃のフェリシアを呼んでいた。
「あっ・・・ああっ・・・はああっ!!」
ジークの男性器に秘所を貫かれる度、フェリシアの口から喘ぎ声が漏れる。
豪華な天蓋付きのベッドで一晩中、ジークに抱かれていたフェリシアは、胎内に子種を注がれると汗ばんで火照った身体をベッドに横たえる。
閨事を終えたジークが後ろからフェリシアを抱き、耳元で囁く。
「どうした? 浮かない顔をしているな。・・・痛かったか??」
ジークからの問いにフェリシアは恥ずかしそうに答える。
「いえ。・・・とても気持ち良かったです」
ジークはベッドに横たわったまま上半身を起こすと、汗で顔に張り付いたフェリシアの黒髪を指先で避け、微笑み掛ける。
「せっかく、フェリシアの故郷のトラキアに来たのだ。フェリシアの素敵な笑顔が見られると思っていたのだが」
ジークの言葉にフェリシアが表情を曇らせたのには理由があった。
フェリシアは、旧トラキア連邦に属するバラクレア王国の王女として生まれた。
男子禁制の修道院で育ち、神々に仕える巫女として学んでいたが、トラキア連邦の議長を務めていた父王が鼠人との戦いで戦死したため、フェリシアが父王からバラクレア王国の王位とトラキア連邦の議長職を引き継いだものの、その統治は困難を極めた。
先代の父王は、強大なバレンシュテット帝国を恐れるあまり、奴隷商人ヴォギノの甘言に乗って他の連邦諸侯に内密でダークエルフと取引し、トラキア連邦領内に『霊樹の森』の移設を認めた。
それが全ての国難の元凶であり、フェリシアがその国難を背負う事になった。
『霊樹の森』から現れた鼠人は、トラキア連邦内だけでなくバレンシュテット帝国の辺境まで暴れ回り、黒死病を蔓延させた。
鼠人による侵略に激怒したバレンシュテット帝国は、帝国東部方面軍二十万によるトラキア連邦へ武力侵攻を決め、『トラキア戦役』が勃発。
圧倒的な軍事力を誇る帝国東部方面軍は、虎の子の飛行艦隊と蒸気戦車を用いて鼠人を蹴散らし、常備軍三万のトラキア連邦の首都を急襲、トラキア連邦政府を降伏させた。
フェリシアは、帝国軍の捕虜として帝国軍の司令官であったジークと出会い、アレクの助命嘆願を聞き入れた皇帝ラインハルトの勅命によって、ジークの第三妃となることと引き換えに戦争犯罪人としての処刑を免れたのであった。
極左勢力のトラキア解放戦線は、連邦政府の降伏後もトラキア第二の都市カルロフカに立て籠もって帝国軍に抵抗していたが、皇帝ラインハルトは帝国四魔将のエリシス伯爵に命じ、『禁呪・隕石落とし』によってカルロフカ十万人の住民ごとトラキア解放戦線を消滅させた。
バレンシュテット帝国の圧倒的な力を見せつけられ、貧しい暮らしを続けるトラキアの人々の中には、帝国の皇太子であるジークの第三妃となって何不自由無く暮らしているフェリシアを快く思わない者達も数多く居り、フェリシアの心を重苦しいものにしていた。
フェリシアは、思い切って心の内をジークに打ち明ける。
想いを語るフェリシアの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。
涙ながらに想いを語るフェリシアに、ジークは右手の指先でフェリシアの頬を伝う涙をすくうと、頬に手を当てキスする。
ジークのエメラルドの瞳がフェリシアの黒い瞳を見詰める。
(自分の事よりも、トラキアの民の苦しみに心を痛めるとは。・・・フェリシア。お前は、やはり王族であり、巫女なのだな)
「言ったはずだ。『もう苦しまなくて良い』と」
「・・・はい」
「私はトラキアを緑の大地に変えてみせる。約束しよう」
「ありがとうございます」
-- 翌日。
ジークは三人の妃達を連れ、ハリッシュ夫妻と共にカルロフカ湖に行く。
かつて人口十万人が住んでいたトラキア第二の都市は、エリシス伯爵の禁呪『隕石落とし』によって消滅。
落下した隕石は都市を消滅させただけでなく、その地下の岩盤を貫き、一帯を巨大な湖に変えていた。
ジーク達六人は、揚陸艇でニーベルンゲンから湖畔に降り立つとカルロフカ湖を眺める。
カルロフカ湖が出来た経緯を知らないカリンは、湖を見て大喜びしながら嬉しそうにジークに告げる。
「綺麗な湖ですね! ジーク様!」
「ああ」
カリンに微笑み掛けるジークの傍らで、フェリシアは表情を曇らせていた。
一方、アストリッドは、カルロフカ湖が出来た経緯など、何も気にも掛けていない様子であった。
ジークが三人の妃達に告げる。
「私は、この湖から水を引く用水路を造って、トラキアの地を灌漑しようと思っている」
ジークの言葉にフェリシアが驚く。
「用水路を!?」
驚くフェリシアの顔を見たジークは、ハリッシュを呼ぶ。
「・・・ハリッシュ導師」
ジークの言葉にハリッシュは頷いて返すと、自分の傍らに居るクリシュナを呼ぶ。
「クリシュナ。始めて下さい」
「判ったわ。任せて」
上位召喚士のクリシュナは、地面に十二枚の呪符を置くと魔法を唱え、十二体のストーンゴーレムを召喚する。
クリシュナが命令を下すと十二メートル級の巨大なストーンゴーレム達は地面を掘り、カルロフカ湖から水を引く灌漑用水路を造り始める。
ストーンゴーレム達が掘削作業を始めたのを見届けたジークは、傍らのフェリシアに告げる。
「トラキアの地を潤す灌漑用水路の建設は、トラキア開拓事業の第一歩だ。私は、この水路を『フェリシア水道』と名付けようと思う。・・・良いだろう?」
トラキアでは、僅かな水源を巡って人々は争いを繰り返してきた。
灌漑用水路によって乾いたトラキアの地に水が行き渡れば、水源を巡ってトラキア人々が争う事は無くなる。
トラキアの地を緑豊かな土地に変えるであろう灌漑用水路に自分の名前が付けられる。
ジークの言葉にフェリシアは胸が一杯になる。
「・・・はい」
ジークのトラキア開拓事業は、第三妃フェリシアの名前を冠した灌漑用水路の建設によって、その第一歩を歩み始めた。
ジークは、この夜、閨に第三妃のフェリシアを呼んでいた。
「あっ・・・ああっ・・・はああっ!!」
ジークの男性器に秘所を貫かれる度、フェリシアの口から喘ぎ声が漏れる。
豪華な天蓋付きのベッドで一晩中、ジークに抱かれていたフェリシアは、胎内に子種を注がれると汗ばんで火照った身体をベッドに横たえる。
閨事を終えたジークが後ろからフェリシアを抱き、耳元で囁く。
「どうした? 浮かない顔をしているな。・・・痛かったか??」
ジークからの問いにフェリシアは恥ずかしそうに答える。
「いえ。・・・とても気持ち良かったです」
ジークはベッドに横たわったまま上半身を起こすと、汗で顔に張り付いたフェリシアの黒髪を指先で避け、微笑み掛ける。
「せっかく、フェリシアの故郷のトラキアに来たのだ。フェリシアの素敵な笑顔が見られると思っていたのだが」
ジークの言葉にフェリシアが表情を曇らせたのには理由があった。
フェリシアは、旧トラキア連邦に属するバラクレア王国の王女として生まれた。
男子禁制の修道院で育ち、神々に仕える巫女として学んでいたが、トラキア連邦の議長を務めていた父王が鼠人との戦いで戦死したため、フェリシアが父王からバラクレア王国の王位とトラキア連邦の議長職を引き継いだものの、その統治は困難を極めた。
先代の父王は、強大なバレンシュテット帝国を恐れるあまり、奴隷商人ヴォギノの甘言に乗って他の連邦諸侯に内密でダークエルフと取引し、トラキア連邦領内に『霊樹の森』の移設を認めた。
それが全ての国難の元凶であり、フェリシアがその国難を背負う事になった。
『霊樹の森』から現れた鼠人は、トラキア連邦内だけでなくバレンシュテット帝国の辺境まで暴れ回り、黒死病を蔓延させた。
鼠人による侵略に激怒したバレンシュテット帝国は、帝国東部方面軍二十万によるトラキア連邦へ武力侵攻を決め、『トラキア戦役』が勃発。
圧倒的な軍事力を誇る帝国東部方面軍は、虎の子の飛行艦隊と蒸気戦車を用いて鼠人を蹴散らし、常備軍三万のトラキア連邦の首都を急襲、トラキア連邦政府を降伏させた。
フェリシアは、帝国軍の捕虜として帝国軍の司令官であったジークと出会い、アレクの助命嘆願を聞き入れた皇帝ラインハルトの勅命によって、ジークの第三妃となることと引き換えに戦争犯罪人としての処刑を免れたのであった。
極左勢力のトラキア解放戦線は、連邦政府の降伏後もトラキア第二の都市カルロフカに立て籠もって帝国軍に抵抗していたが、皇帝ラインハルトは帝国四魔将のエリシス伯爵に命じ、『禁呪・隕石落とし』によってカルロフカ十万人の住民ごとトラキア解放戦線を消滅させた。
バレンシュテット帝国の圧倒的な力を見せつけられ、貧しい暮らしを続けるトラキアの人々の中には、帝国の皇太子であるジークの第三妃となって何不自由無く暮らしているフェリシアを快く思わない者達も数多く居り、フェリシアの心を重苦しいものにしていた。
フェリシアは、思い切って心の内をジークに打ち明ける。
想いを語るフェリシアの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。
涙ながらに想いを語るフェリシアに、ジークは右手の指先でフェリシアの頬を伝う涙をすくうと、頬に手を当てキスする。
ジークのエメラルドの瞳がフェリシアの黒い瞳を見詰める。
(自分の事よりも、トラキアの民の苦しみに心を痛めるとは。・・・フェリシア。お前は、やはり王族であり、巫女なのだな)
「言ったはずだ。『もう苦しまなくて良い』と」
「・・・はい」
「私はトラキアを緑の大地に変えてみせる。約束しよう」
「ありがとうございます」
-- 翌日。
ジークは三人の妃達を連れ、ハリッシュ夫妻と共にカルロフカ湖に行く。
かつて人口十万人が住んでいたトラキア第二の都市は、エリシス伯爵の禁呪『隕石落とし』によって消滅。
落下した隕石は都市を消滅させただけでなく、その地下の岩盤を貫き、一帯を巨大な湖に変えていた。
ジーク達六人は、揚陸艇でニーベルンゲンから湖畔に降り立つとカルロフカ湖を眺める。
カルロフカ湖が出来た経緯を知らないカリンは、湖を見て大喜びしながら嬉しそうにジークに告げる。
「綺麗な湖ですね! ジーク様!」
「ああ」
カリンに微笑み掛けるジークの傍らで、フェリシアは表情を曇らせていた。
一方、アストリッドは、カルロフカ湖が出来た経緯など、何も気にも掛けていない様子であった。
ジークが三人の妃達に告げる。
「私は、この湖から水を引く用水路を造って、トラキアの地を灌漑しようと思っている」
ジークの言葉にフェリシアが驚く。
「用水路を!?」
驚くフェリシアの顔を見たジークは、ハリッシュを呼ぶ。
「・・・ハリッシュ導師」
ジークの言葉にハリッシュは頷いて返すと、自分の傍らに居るクリシュナを呼ぶ。
「クリシュナ。始めて下さい」
「判ったわ。任せて」
上位召喚士のクリシュナは、地面に十二枚の呪符を置くと魔法を唱え、十二体のストーンゴーレムを召喚する。
クリシュナが命令を下すと十二メートル級の巨大なストーンゴーレム達は地面を掘り、カルロフカ湖から水を引く灌漑用水路を造り始める。
ストーンゴーレム達が掘削作業を始めたのを見届けたジークは、傍らのフェリシアに告げる。
「トラキアの地を潤す灌漑用水路の建設は、トラキア開拓事業の第一歩だ。私は、この水路を『フェリシア水道』と名付けようと思う。・・・良いだろう?」
トラキアでは、僅かな水源を巡って人々は争いを繰り返してきた。
灌漑用水路によって乾いたトラキアの地に水が行き渡れば、水源を巡ってトラキア人々が争う事は無くなる。
トラキアの地を緑豊かな土地に変えるであろう灌漑用水路に自分の名前が付けられる。
ジークの言葉にフェリシアは胸が一杯になる。
「・・・はい」
ジークのトラキア開拓事業は、第三妃フェリシアの名前を冠した灌漑用水路の建設によって、その第一歩を歩み始めた。
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