アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅲ) 世界大戦

StarFox

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第一章 ホラント独立戦争

第三十六話 『人の領域』を越えた者、帰還

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 アレク達、ユニコーン小隊も教導大隊の他の小隊と同様に揚陸艇でユニコーンゼロに戻り、飛行甲板に降り立ったが、アレクとルイーゼは貴賓室に呼び出される。

 貴賓室ではナナシ伯爵からダークエルフとの戦闘の詳細について尋ねられ、二人は尋ねられた事を報告する。

 報告を終えた二人が貴賓室から通路に出ると、外では小隊の仲間がアレク達を待っていた。 

 アルが口を開く。

「お? 二人とも。終わったのか?」

 アレクが答える。

「うん」

 ナタリーが尋ねる。

「どうだった?」

 ルイーゼが答える。

「ただ、ダークエルフとの戦闘について聞かれただけよ」

 ナディアが口を開く。

「私、怖いわ。・・・あのナナシ伯爵」

 エルザが軽口を叩く。

「そう? ナナシ伯爵って、いつも真っ黒なローブ着てて、花柄のローブとか着替えとか持ってないのかしら? 普段何やってるのか知らないけど、他の帝国四魔将のアキックス伯爵やヒマジン伯爵、エリシス伯爵みたいに強いの??」
 
 そう言うエルザの後ろから重く低い声がする。

「・・・なら、試してみるか?」

 アレク達が声のした方を見ると、そこには帝国四魔将のナナシ伯爵が立っていた。

「「ナ、ナナシ伯爵!?」」

 驚くアレク達を他所に、ナナシ伯爵はエルザの前に歩み出る。

「え? い、いや。その・・・」

 正面から足音も無くゆっくりと近づいて来るナナシ伯爵に、エルザは気まずそうに通路の壁まで後退る。

 通路の壁を背にして逃げ場の無くなったエルザに、ナナシ伯爵は右腕を伸ばし、人差し指をエルザの額に当てる。

 光沢の無い漆黒の手甲に覆われたナナシ伯爵の右手の人差し指がエルザの額に当てられた瞬間、ナナシ伯爵は強烈な殺気と膨大な魔力を全身から放つ。

 ナナシ伯爵は、ゆっくりと自分の顔をエルザの顔に近づけていく。

 漆黒のローブを纏い、目深に被ったフードにより顔は見えないものの、ナナシ伯爵がエルザを睨んでいる事は明らかだった。

「ひっ・・・」

 恐怖によりエルザは壁を背にしたまますくみ上がる。

 ナナシ伯爵が重く低い声でエルザに告げる。

「・・・汝。悪魔の贄になるか?」

「イ、嫌ッ!」

 ナナシ伯爵に凄まれたエルザは、恐怖に目を見開いて顔をひきつらせたまま、涙目で必死に首を左右に振って拒絶する。






 アレク達の誰もがナナシ伯爵の放つ殺気と魔力に気圧され動けないでいる時、通路の奥から女の声が響く。

「そのあたりで許してあげたら?」

 ナナシ伯爵が口を開く。

「・・・エリシスか」

 アレク達とナナシ伯爵は女の声がした方を見ると、通路の奥から現れたのは帝国軍の軍服を着たエリシス伯爵と副官のリリーであった。

 エリシス伯爵がナナシ伯爵に告げる。

「陛下がお呼びよ。ダークエルフの件で」

「・・・フッ」

 ナナシ伯爵は鼻で笑うと、エルザの額から指を離してローブの中に右腕を仕舞い、エリシス伯爵の方へ歩いて行く。






 エリシス伯爵が並んで歩くナナシ伯爵に告げる。

「大人げ無いわよ? 『絶望のオーラ』なんか出して」

 ナナシ伯爵が答える。

「『帝国四魔将』がナメられる訳にはいかないだろう?」

「それはそうだけど」

 三人は連れ立って通路の奥へと去って行った。








「「はぁ~」」

 ナナシ伯爵が放っていた強烈な殺気と魔力から解放されたアレク達は、安堵して大きくため息を吐く。

 エルザは腰が抜けたように、そのまま床の上にへなへなとへたり込む。

 安心したエルザがアレクの腰にすがりついて泣き出す。

「ふぇえええ~ん! アレクゥ~。 エルザちゃん、怖かった! 怖かったよぉ~! 殺されると思った!! えぇえええ~ん!!」

 アレクが泣き出したエルザの頭を撫でてなだめているとアルがエルザに告げる。

「お前。ナナシ伯爵をおちょくるとか、相手が悪過ぎるだろ?」

 大粒の涙を流しながらエルザがアルに答える。

「だって! すぐ後ろに立ってるなんて思わなかったもん!!」 

 アルが続ける。

「しかし、スゲェな。帝国四魔将の迫力って。・・・オレも冷や汗ビッショリだぜ」

 アレクが答える。

「ああ」

 トゥルムも口を開く。

「私もだ。生きた心地がしなかった。『帝国四魔将』と呼ばれるだけはある」

 ドミトリーもトゥルムに続く。

「拙僧もだ。『蛇に睨まれた蛙』の気分だったぞ」

 ナタリーも口を開く。

「凄かったわ。・・・エリシス伯爵と同等か、それ以上の魔力なんて」

 ナディアも腰の水筒に目をやり、口を開く。

水の精霊ウンディーネ達も怯えて水筒から出たがらないわ」

 ルイーゼがナタリーに追従する。

「そうね。・・・あれは、もう『人の領域』を越えていると思うわ」

 アレクが呟く。

「『人の領域』を越えた者。『人外』か・・・」







 アレク達の乗る飛行空母ユニコーン・ゼロは、士官学校併設の飛行場に帰還した。
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