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第三章 空中都市
第四十六話 空中都市イル・ラヴァーリ
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--バレンシュテット帝国から遥か南東の南大洋
アスカニア大陸の南東には、広大な海が広がる。
その海の上に浮かぶ空中都市イル・ラヴァーリには、裕福な商人達が居住しており、普段は閑静な官庁街と広い敷地の住宅が広がっていた。
昨日まで閑静であった空中都市は、今日、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
郊外の広い邸宅から家財道具を持ち出して荷馬車に山積みにし、空中港にある自家用飛行船を目指して家族で疎開しようという人々や、着の身着のままで空中港の旅客飛行船に乗ろうとする人々が街の通りに溢れていた。
イル・ラヴァーリの都市部中心に位置する自治庁のある建物に、伝令の者が駆け込んで来る。
伝令は、自治庁の会議室のドアの前まで走り、ドアの前で深呼吸してノックすると、返事を待たずに会議室に入る。
伝令は会議室の中に入ると大声で叫ぶ。
「緊急の伝令です! 共和国軍が海上の昇降機の入口に迫りつつあります! 突破されるのは時間の問題です!!」
会議室で長円のテーブルには、恰幅の良い裕福そうな商人然とした者達が席を連ねていた。
上座の席に座る者が答える。
「そんな事は判っておる! 何としても防げ! 軌道昇降機を守れ! あれが奴等の手に落ちたら、ここに奴等が攻め込んで来るだろうが! 持ちこたえろ!!」
即座に伝令が反論する。
「閣下! とても無理ですよ! 我々は、治安維持のための警察部隊です! 大砲まで持っている正規の軍隊を相手にできる戦力も装備もありません!!」
閣下と呼ばれた者は、悔しそうに呟く。
「くそっ。 我々は中立なのだぞ。 我々は、北部同盟にも西方協商にも加担しておらん。・・・それを軍隊で攻撃してくるとは! ※ヴェネト・カルテルの奴等め! 中立侵犯だ! 国際法に反する戦争犯罪だ!!」
(※ヴェネト・カルテル:アスカニアの世界で、強欲な事で知られるヴェネト共和国への蔑称。『カルテル』とは、企業の独占形態の一つ。同種の生産にしたがう企業家が、企業の独立性を保ちながら連合するもの。自由競争をさけ、市場を独占して価格を維持し、利益の増進をはかる。企業(家)連合を指す)
伝令は、呆れたように尋ねる。
「それで、如何いたしましょうか?」
長円のテーブルの席に座る商人然とした一人が口を開く。
「閣下。我々を攻撃した来たのは、西方協商に属するヴェネト共和国軍です。彼等と敵対している北部同盟に助けを求めては如何でしょう?」
閣下と呼ばれた者は、猛然と反対する。
「北部同盟など西方協商と変わらん禿鷹ではないか! 仮に北部同盟軍が共和国軍を追い払っても、今度は北部同盟軍がここに居座り、我々は奴等に身ぐるみを剥がれるだろう!!」
長円のテーブルの席に座る、別の商人然とした一人が口を開く。
「閣下。それならば、我々と同じ中立宣言をしているバレンシュテット帝国に助けを求めては? 彼のラインハルト皇帝陛下は聡明な人物と聞き及びます。きっと援軍を寄越してくれるでしょう」
閣下と呼ばれた者は、きょとんとした顔で答える。
「それは名案だ! 帝国は我々より金を持っている。我々の金を狙う事も無いだろうし、我々から略奪したり、法外な請求をしてくることも無いだろう。・・・よし! 私の名義ですぐに救援要請を出せ!!」
伝令が答える。
「畏まりました」
空中都市イル・ラヴァーリ
いつの時代に、誰が、何のために造ったのかは、今も定かではない。
遥か古代に造られたその都市は、浮遊水晶の岩盤に、魔力水晶を共振させて増幅した魔力を流し込んで得た浮力で空中に浮遊していた。
唯、空中を浮遊しているだけでは都市は風に流されてしまうので、都市の中心下部から円筒状の柱を海底まで伸ばして都市の位置を現在の位置に固定していた。
円筒状の柱の中は空洞になっており、浮遊水晶を利用した昇降機が敷設されていて、空中都市、海上、海底への移動は、円筒状の柱の中の昇降機を利用することで可能であった。
柱の周囲の海上には幾つもの艀が浮かび、それらは互いに鎖で繋がれて陸地のようになっており、集落のように人が住んでいるだけでは無く、海上を航行する大型帆船が接舷する事も出来た。
浮遊水晶を用いる技術は、遥か古代に創造されたものでありながら、アスカニアの世界において、現在もその技術を継承しているのは、バレンシュテット帝国だけであり、かつて帝国軍要塞『死の山』を同様の方法で浮かべていた。
古代に造られた空中都市は、主と住人の居なくなった数百年間、無人の古代遺跡となっていたが、南東洋で交易を行う商人たちにとって交易中継地として絶好の位置に存在したため、商人達が住み付いていき、古代遺跡に寄生するように都市を築いていった。
空中都市に定住する人間が増えて発展するに従い、自治を行うようになり、いずれの国家にも属さない『空中都市イル・ラヴァーリ』として存在するようになっていた。
都市運営の自治は行っているものの貧富の差は歴然と存在し、虚空に浮かぶ上層の空中都市には、富裕な商人達が居住し、海上にある下層の艀には、港湾荷受などを生業とする貧困層が居住していた。
空中都市イル・ラヴァーリは、世界大戦が勃発してからも、北部同盟、西方協商のどちらの陣営にも属せず、中立を宣言していた。
しかし、どちらの陣営にも属せず、世界大戦による戦争を避けて、どちらの陣営にも自分達の利益を追求する空中都市イル・ラヴァーリは、どちらの陣営からも快くは思われていなかった。
世界大戦という未曽有の大戦争で儲ける空中都市イル・ラヴァーリは、西方協商に属しイル・ラヴァーリと同じ南大洋を交易圏とするヴェネト共和国に目を付けられる。
ヴェネト共和国は、空中都市イル・ラヴァーリの制圧を決め、海上の艀に無数のガレー船からなる艦隊を接舷させて共和国軍を上陸させたのであった。
アスカニア大陸の南東には、広大な海が広がる。
その海の上に浮かぶ空中都市イル・ラヴァーリには、裕福な商人達が居住しており、普段は閑静な官庁街と広い敷地の住宅が広がっていた。
昨日まで閑静であった空中都市は、今日、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
郊外の広い邸宅から家財道具を持ち出して荷馬車に山積みにし、空中港にある自家用飛行船を目指して家族で疎開しようという人々や、着の身着のままで空中港の旅客飛行船に乗ろうとする人々が街の通りに溢れていた。
イル・ラヴァーリの都市部中心に位置する自治庁のある建物に、伝令の者が駆け込んで来る。
伝令は、自治庁の会議室のドアの前まで走り、ドアの前で深呼吸してノックすると、返事を待たずに会議室に入る。
伝令は会議室の中に入ると大声で叫ぶ。
「緊急の伝令です! 共和国軍が海上の昇降機の入口に迫りつつあります! 突破されるのは時間の問題です!!」
会議室で長円のテーブルには、恰幅の良い裕福そうな商人然とした者達が席を連ねていた。
上座の席に座る者が答える。
「そんな事は判っておる! 何としても防げ! 軌道昇降機を守れ! あれが奴等の手に落ちたら、ここに奴等が攻め込んで来るだろうが! 持ちこたえろ!!」
即座に伝令が反論する。
「閣下! とても無理ですよ! 我々は、治安維持のための警察部隊です! 大砲まで持っている正規の軍隊を相手にできる戦力も装備もありません!!」
閣下と呼ばれた者は、悔しそうに呟く。
「くそっ。 我々は中立なのだぞ。 我々は、北部同盟にも西方協商にも加担しておらん。・・・それを軍隊で攻撃してくるとは! ※ヴェネト・カルテルの奴等め! 中立侵犯だ! 国際法に反する戦争犯罪だ!!」
(※ヴェネト・カルテル:アスカニアの世界で、強欲な事で知られるヴェネト共和国への蔑称。『カルテル』とは、企業の独占形態の一つ。同種の生産にしたがう企業家が、企業の独立性を保ちながら連合するもの。自由競争をさけ、市場を独占して価格を維持し、利益の増進をはかる。企業(家)連合を指す)
伝令は、呆れたように尋ねる。
「それで、如何いたしましょうか?」
長円のテーブルの席に座る商人然とした一人が口を開く。
「閣下。我々を攻撃した来たのは、西方協商に属するヴェネト共和国軍です。彼等と敵対している北部同盟に助けを求めては如何でしょう?」
閣下と呼ばれた者は、猛然と反対する。
「北部同盟など西方協商と変わらん禿鷹ではないか! 仮に北部同盟軍が共和国軍を追い払っても、今度は北部同盟軍がここに居座り、我々は奴等に身ぐるみを剥がれるだろう!!」
長円のテーブルの席に座る、別の商人然とした一人が口を開く。
「閣下。それならば、我々と同じ中立宣言をしているバレンシュテット帝国に助けを求めては? 彼のラインハルト皇帝陛下は聡明な人物と聞き及びます。きっと援軍を寄越してくれるでしょう」
閣下と呼ばれた者は、きょとんとした顔で答える。
「それは名案だ! 帝国は我々より金を持っている。我々の金を狙う事も無いだろうし、我々から略奪したり、法外な請求をしてくることも無いだろう。・・・よし! 私の名義ですぐに救援要請を出せ!!」
伝令が答える。
「畏まりました」
空中都市イル・ラヴァーリ
いつの時代に、誰が、何のために造ったのかは、今も定かではない。
遥か古代に造られたその都市は、浮遊水晶の岩盤に、魔力水晶を共振させて増幅した魔力を流し込んで得た浮力で空中に浮遊していた。
唯、空中を浮遊しているだけでは都市は風に流されてしまうので、都市の中心下部から円筒状の柱を海底まで伸ばして都市の位置を現在の位置に固定していた。
円筒状の柱の中は空洞になっており、浮遊水晶を利用した昇降機が敷設されていて、空中都市、海上、海底への移動は、円筒状の柱の中の昇降機を利用することで可能であった。
柱の周囲の海上には幾つもの艀が浮かび、それらは互いに鎖で繋がれて陸地のようになっており、集落のように人が住んでいるだけでは無く、海上を航行する大型帆船が接舷する事も出来た。
浮遊水晶を用いる技術は、遥か古代に創造されたものでありながら、アスカニアの世界において、現在もその技術を継承しているのは、バレンシュテット帝国だけであり、かつて帝国軍要塞『死の山』を同様の方法で浮かべていた。
古代に造られた空中都市は、主と住人の居なくなった数百年間、無人の古代遺跡となっていたが、南東洋で交易を行う商人たちにとって交易中継地として絶好の位置に存在したため、商人達が住み付いていき、古代遺跡に寄生するように都市を築いていった。
空中都市に定住する人間が増えて発展するに従い、自治を行うようになり、いずれの国家にも属さない『空中都市イル・ラヴァーリ』として存在するようになっていた。
都市運営の自治は行っているものの貧富の差は歴然と存在し、虚空に浮かぶ上層の空中都市には、富裕な商人達が居住し、海上にある下層の艀には、港湾荷受などを生業とする貧困層が居住していた。
空中都市イル・ラヴァーリは、世界大戦が勃発してからも、北部同盟、西方協商のどちらの陣営にも属せず、中立を宣言していた。
しかし、どちらの陣営にも属せず、世界大戦による戦争を避けて、どちらの陣営にも自分達の利益を追求する空中都市イル・ラヴァーリは、どちらの陣営からも快くは思われていなかった。
世界大戦という未曽有の大戦争で儲ける空中都市イル・ラヴァーリは、西方協商に属しイル・ラヴァーリと同じ南大洋を交易圏とするヴェネト共和国に目を付けられる。
ヴェネト共和国は、空中都市イル・ラヴァーリの制圧を決め、海上の艀に無数のガレー船からなる艦隊を接舷させて共和国軍を上陸させたのであった。
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