52 / 149
第三章 空中都市
第四十八話 ヴェネト・カルテル
しおりを挟む
空中都市イル・ラヴァーリの海上部分に侵攻したヴェネト共和国軍は、軌道昇降機の近郊まで攻め込んだものの、その防御の固さに攻めあぐねていた。
空中都市イル・ラヴァーリの海上部分は、幾つもの艀を鉄鎖で繋いで陸地に見立てられているものの、ヴェネト共和国軍は艀の上に重量のある大口径の大砲を船から揚陸させることができず、持ち運びが容易な小口径の火砲と簡易投石器、弓矢などでイル・ラヴァーリの治安警察部隊と戦っていた。
ヴェネト共和国軍を率いているのは、酸化鉄のような赤い将官服に身を包んだ金髪の女、アノーテ・デ・ザンテであった。
アノーテが前線を歩きながらヴェネト共和国軍の士官達に指示を出す。
「銭だ! 銭にならないモノに要は無い! お前達! 捕らえた住民は奴隷商人に売るから、殺すんじゃないよ!!」
ヴェネト共和国は、通常の国家とは異なる有力商会の集合体であり、有力商会の商会長が集まって国家の運営を行っていた。
ヴェネト共和国が『ヴェネト・カルテル』と諸外国から揶揄される由縁でもあった。
アノーテ・デ・ザンテ自身も、有力商会のひとつであるアノーテ珍品堂の商会長である。
アノーテが自軍の前線士官の肩越しに、イル・ラヴァーリの治安警察部隊が立て籠もる防御陣地を眺めると、前線士官がアノーテに報告する。
「あの防御陣地の防壁は非常に硬く、大砲でも破壊できません。砲弾も弾かれます。・・・何なんですか??」
報告を受けたアノーテは、防壁を睨んで考える。
防御陣地の防壁は、軌道昇降機の外壁と同じ物質でできているようであった。
ヴェネト共和国軍は、小口径の大砲を治安警察部隊が立て籠もる防御陣地に向けて多数撃ち込んでいたが、撃ち込んだ砲弾は防御陣地の防壁によって鈍い金属音を立てて弾かれていた。
(なんだ? あの防壁は? 魔法が掛けられているのか?? ・・・いや、違うな。・・・金属ではない。・・・かと言って、陶器でもなさそうだ)
アノーテは考えを改め、士官達に指示を出す。
「判らない事は、考えなくていい! 壊せない防壁を壊す事を考えるより、陣地に肉迫して斬り込んで奪取しろ!! くれぐれも、艀を燃やすなよ? 私らの足場まで無くなる!!」
「「了解!!」」
アノーテは自軍の本陣のテントへ戻ると、海上の艀で略奪して集められた戦利品を検分する。
戦利品は、銅貨、安物の家具、鉄や青銅でできた金属製品などであった。
集められた銅貨を手に取って数えながら、アノーテは顔を引きつらせて短く舌打ちする。
「チッ! シケてんなぁ・・・。銀食器、一つ無ぇ・・・。海上の艀の奴らは、貧乏人ばかりか。・・・ま、捕虜を奴隷商人に売れば、少しは銭になるか」
アノーテは、周囲に居る士官達に檄を飛ばす。
「お前達! 砲弾だって無料じゃないんだ! このままじゃ、赤字だよ! 気合い入れな!!」
-- アレク達に出撃命令が出される前日。 バレンシュテット帝国 皇宮 皇帝の私室
皇帝ラインハルトとジカイラは、皇帝の私室に居た。
ラインハルトは、空中都市イル・ラヴァーリの特使が携えてきた羊皮紙の親書に目を通しながら、窓際のテラスの席に座るジカイラに話し掛ける。
「空中都市イル・ラヴァーリがヴェネト共和国軍に攻められているらしい。帝国への従属と朝貢。それと引き換えに帝国に救援を求めてきた」
ジカイラが苦笑いしながら答える。
「おいおい。空中都市イル・ラヴァーリって、はるか南大洋に浮かぶ辺境の自治都市だろ? わざわざ、そんなところを助けるのか??」
ラインハルトがしたり顔で告げる。
「ヴェネト共和国の強欲さは、帝国まで届いている。奴等のやっている事は『中立侵犯』だ。それに・・・」
ジカイラが聞き返す。
「それに??」
ラインハルトが続ける。
「帝国の周辺で、奴隷貿易や麻薬取引を許すつもりは無い」
ラインハルトの言葉を聞いたジカイラは、諦めたように答える。
「なるほどな。・・・それで、南の、あんな辺境まで帝国軍が出向くと?」
ラインハルトは微笑みながらジカイラに告げる。
「そうだ」
ジカイラは、悪びれた素振りも見せずラインハルトに告げる。
「オレ達、教導大隊が空中都市に出向くのは構わないが、出向く先までの距離と相手との兵力差が問題だ。ユニコーン・ゼロと他の帝国軍部隊が必要だ」
ラインハルトが答える。
「確かに。南大洋へ行くには、飛行空母が必要だろう。ユニコーン・ゼロは使って貰って構わない。それに、教導大隊に帝国南部方面軍を付ける。帝国南部方面軍の輸送には、東部方面軍の飛行艦隊にやらせるつもりだ」
ジカイラが顔を引きつらせて聞き返す。
「帝国南部方面軍って、たしかエリシス伯爵が率いる不死者の軍団だよな?」
ラインハルトは、何事でも無さそうに答える。
「そうだ」
ラインハルトの答えを聞いたジカイラは、天井を見上げながら考える。
(二人とも、美女と言えば美女なんだが、あの二人が傍に居ると、オレは生きた心地がしないんだよな・・・)
ジカイラは、不死王のエリシス伯爵と、その副官である真祖吸血鬼のリリーが苦手であった。
空中都市イル・ラヴァーリの海上部分は、幾つもの艀を鉄鎖で繋いで陸地に見立てられているものの、ヴェネト共和国軍は艀の上に重量のある大口径の大砲を船から揚陸させることができず、持ち運びが容易な小口径の火砲と簡易投石器、弓矢などでイル・ラヴァーリの治安警察部隊と戦っていた。
ヴェネト共和国軍を率いているのは、酸化鉄のような赤い将官服に身を包んだ金髪の女、アノーテ・デ・ザンテであった。
アノーテが前線を歩きながらヴェネト共和国軍の士官達に指示を出す。
「銭だ! 銭にならないモノに要は無い! お前達! 捕らえた住民は奴隷商人に売るから、殺すんじゃないよ!!」
ヴェネト共和国は、通常の国家とは異なる有力商会の集合体であり、有力商会の商会長が集まって国家の運営を行っていた。
ヴェネト共和国が『ヴェネト・カルテル』と諸外国から揶揄される由縁でもあった。
アノーテ・デ・ザンテ自身も、有力商会のひとつであるアノーテ珍品堂の商会長である。
アノーテが自軍の前線士官の肩越しに、イル・ラヴァーリの治安警察部隊が立て籠もる防御陣地を眺めると、前線士官がアノーテに報告する。
「あの防御陣地の防壁は非常に硬く、大砲でも破壊できません。砲弾も弾かれます。・・・何なんですか??」
報告を受けたアノーテは、防壁を睨んで考える。
防御陣地の防壁は、軌道昇降機の外壁と同じ物質でできているようであった。
ヴェネト共和国軍は、小口径の大砲を治安警察部隊が立て籠もる防御陣地に向けて多数撃ち込んでいたが、撃ち込んだ砲弾は防御陣地の防壁によって鈍い金属音を立てて弾かれていた。
(なんだ? あの防壁は? 魔法が掛けられているのか?? ・・・いや、違うな。・・・金属ではない。・・・かと言って、陶器でもなさそうだ)
アノーテは考えを改め、士官達に指示を出す。
「判らない事は、考えなくていい! 壊せない防壁を壊す事を考えるより、陣地に肉迫して斬り込んで奪取しろ!! くれぐれも、艀を燃やすなよ? 私らの足場まで無くなる!!」
「「了解!!」」
アノーテは自軍の本陣のテントへ戻ると、海上の艀で略奪して集められた戦利品を検分する。
戦利品は、銅貨、安物の家具、鉄や青銅でできた金属製品などであった。
集められた銅貨を手に取って数えながら、アノーテは顔を引きつらせて短く舌打ちする。
「チッ! シケてんなぁ・・・。銀食器、一つ無ぇ・・・。海上の艀の奴らは、貧乏人ばかりか。・・・ま、捕虜を奴隷商人に売れば、少しは銭になるか」
アノーテは、周囲に居る士官達に檄を飛ばす。
「お前達! 砲弾だって無料じゃないんだ! このままじゃ、赤字だよ! 気合い入れな!!」
-- アレク達に出撃命令が出される前日。 バレンシュテット帝国 皇宮 皇帝の私室
皇帝ラインハルトとジカイラは、皇帝の私室に居た。
ラインハルトは、空中都市イル・ラヴァーリの特使が携えてきた羊皮紙の親書に目を通しながら、窓際のテラスの席に座るジカイラに話し掛ける。
「空中都市イル・ラヴァーリがヴェネト共和国軍に攻められているらしい。帝国への従属と朝貢。それと引き換えに帝国に救援を求めてきた」
ジカイラが苦笑いしながら答える。
「おいおい。空中都市イル・ラヴァーリって、はるか南大洋に浮かぶ辺境の自治都市だろ? わざわざ、そんなところを助けるのか??」
ラインハルトがしたり顔で告げる。
「ヴェネト共和国の強欲さは、帝国まで届いている。奴等のやっている事は『中立侵犯』だ。それに・・・」
ジカイラが聞き返す。
「それに??」
ラインハルトが続ける。
「帝国の周辺で、奴隷貿易や麻薬取引を許すつもりは無い」
ラインハルトの言葉を聞いたジカイラは、諦めたように答える。
「なるほどな。・・・それで、南の、あんな辺境まで帝国軍が出向くと?」
ラインハルトは微笑みながらジカイラに告げる。
「そうだ」
ジカイラは、悪びれた素振りも見せずラインハルトに告げる。
「オレ達、教導大隊が空中都市に出向くのは構わないが、出向く先までの距離と相手との兵力差が問題だ。ユニコーン・ゼロと他の帝国軍部隊が必要だ」
ラインハルトが答える。
「確かに。南大洋へ行くには、飛行空母が必要だろう。ユニコーン・ゼロは使って貰って構わない。それに、教導大隊に帝国南部方面軍を付ける。帝国南部方面軍の輸送には、東部方面軍の飛行艦隊にやらせるつもりだ」
ジカイラが顔を引きつらせて聞き返す。
「帝国南部方面軍って、たしかエリシス伯爵が率いる不死者の軍団だよな?」
ラインハルトは、何事でも無さそうに答える。
「そうだ」
ラインハルトの答えを聞いたジカイラは、天井を見上げながら考える。
(二人とも、美女と言えば美女なんだが、あの二人が傍に居ると、オレは生きた心地がしないんだよな・・・)
ジカイラは、不死王のエリシス伯爵と、その副官である真祖吸血鬼のリリーが苦手であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる