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第四章 聖戦
第百六話 修羅場、バレンシュテット帝国軍集結
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--昼過ぎ。
ジークが率いるトラキア兵団は、日の出と共に行動を開始し、ヴェネト共和国領内を北上して再びライラ川を渡ってメフメト王国領を通り、国境に差し掛かっていた。
トラキア兵団は、ソユット軍が行軍する街道を避け、荒野を駆け抜ける。
ジーク達がバレンシュテット帝国とメフメト王国の国境を越えて間もなく、トラキア兵団の東側の空に黒煙が立ち上っているのがジークの目に入る。
ジークがアストリッドに尋ねる。
「あれは・・・?」
アストリッドが答える。
「ザミンウードの街です。住民は、昨夜のうちに避難しており、街は無人です。恐らくソユット軍が放火したのでしょう」
ジークが呟く。
「無人とはいえ、敵軍に自国の街を焼かれるのは、良い気分ではないな」
自国であるトラキアの街をソユット軍に焼かれて苛立つジークを他所に、アストリッドは街の事など、気にも掛けていなかった。
アストリッドにとって最優先事項は、『夫であるジークが、無事にトラキア離宮に帰還すること』であり、他の事はどうでもよかった。
アストリッドが答える。
「ジーク様。ツァンダレイまで、あと二日ほど掛かります。急ぎましょう」
国境を越えてトラキアに戻ったトラキア兵団は、荒野を北上し、州都ツァンダレイに向かう。
--
教導大隊を乗せた飛行空母ユニコーン・ゼロと帝国南部方面軍を乗せた大型輸送飛空艇の艦隊は、トラキアの州都ツァンダレイに到着する。
トラキア離宮に併設された飛行場にユニコーン・ゼロを始め、大型輸送飛空艇の艦隊が続々と着陸していく。
ジカイラは、着陸したユニコーン・ゼロの艦橋の窓から見える、豪華な白亜の宮殿であるトラキア離宮を眺めながら、安堵の息を着く。
「どうやら、間に合ったな」
艦長がジカイラに告げる。
「大佐。定刻通りツァンダレイに到着しました。これより本艦は、補給整備に入ります」
「艦長、御苦労だった。オレ達は、地上に降りる。後は頼むぞ」
「了解しました」
ジカイラは艦長にそう告げると艦橋を後にする。
教導大隊と南部方面軍のツァンダレイ到着に続き、帝国竜騎兵団、帝国魔界兵団、東部方面軍の飛行戦艦四隻と飛行空母四隻がツァンダレイ上空に現れ、順次、トラキア離宮に併設されている飛行場に着陸していく。
その様子を見たジカイラが呟く。
「さすが帝国軍。時間どおりの到着だな」
トラキアの州都ツァンダレイに到着した教導大隊は、補給整備に入った飛行空母ユニコーン・ゼロから飛行場に降りる。
ジカイラやヒナ、アレク達がユニコーン・ゼロのタラップから飛行場に降りると、帝国竜騎兵団のアキックス伯爵とソフィア、帝国魔界兵団のナナシ伯爵もジカイラ達の元に集まってくる。
アキックス伯爵が笑顔でジカイラ達に挨拶する。
「久しぶりだな。黒い剣士殿、氷の魔女殿」
続いてナナシ伯爵もジカイラ達を労う。
「遠征ご苦労だった。皆、息災なようで何よりだ」
ジカイラは、帝国四魔将相手に恐縮しながら答える。
「お久しぶりです。アキックス伯爵。ナナシ伯爵」
飛行場脇にツァンダレイに集結したバレンシュテット帝国軍の指揮官達が集まっていると、ジークの代理として皇太子第三妃のフェリシアがジカイラ達を出迎える。
フェリシアがジカイラに告げる。
「教導大隊のジカイラ大佐ですね? 今回は、南大洋を越えた遠征と伺っております。遠路はるばる御苦労様でした。どうぞ、こちらでお寛ぎ下さい」
ジカイラがフェリシアに尋ねる。
「御妃が出迎えとは・・・。ジーク、いや、皇太子殿下は?」
フェリシアがジカイラに答える。
「ジーク様は、アストリッド様と共に、御自らトラキア諸侯達の軍勢を率いて出撃されました。・・・それで第三妃の私が、この離宮を預かっております」
フェリシアの答えを聞いたジカイラの顔色が変わる。
「なんだと!? ジークの奴、オレ達の到着を待たずに出撃したってのか!?」
「はい」
アレクもフェリシアの言葉を聞いて不安が頭をよぎる。
(兄上がトラキアの軍勢だけで出撃したなんて・・・)
(トラキアの軍勢は、質的に二級。それに兵力も少ない)
(いくら兄上が上級騎士でも、列強の大軍相手に無茶だ・・・)
ジカイラ達がジークの出撃を知って血相を変えていると、大型輸送飛空艇から降りてきたエリシス達がやってくる。
エリシスが口を開く。
「何やら、穏やかじゃないわね? 大佐」
ジカイラがエリシスに答える。
「ええ。皇太子殿下がトラキアの兵を率いて出撃したと・・・」
ジークが帝国軍の集結と到着を待たずに出撃したという事を知り、エリシスとリリー、アキックスやソフィア、ナナシも血相を変える。
右手の指で伊達メガネの縁に触れながら、リリーが口を開く。
「まずいですね。トラキアの兵なんて、たかが知れていますよ? ・・・いくら殿下が上級騎士だからといっても、一人で十万人は斬れませんよ!?」
リリーの言葉を聞いたフェリシアは、同じトラキア人の兵士達を蔑まれ、少しムッとしながら答える。
「ジーク様なら、大丈夫です」
フェリシアの答えを聞いたソフィアが激昂してフェリシアの着ている巫女服の首元に掴み掛かる。
「その保証がどこにある!? おのれぇ! 謀ったな! トラキア女!!」
鬼の形相でフェリシアに掴み掛かるソフィアを、アキックスとリリー、ジカイラが三人掛かりで押さえてフェリシアから引き剥がすと、ナナシが二人の間に割って入り、フェリシアを自分の背中に庇う。
アキックスが口を開く。
「落ち着け! ソフィア!!」
ジカイラも口を開く。
「落ち着いて下さい!!」
リリーも口を開く。
「どうか! 気を確かに! 落ち着いて!!」
ナナシは振り向くと、自分の背に庇うフェリシアを気遣う。
「御妃。大丈夫か?」
エリシスもフェリシアの傍らに来て、フェリシアを気遣う。
「大丈夫? 怪我は無い??」
ソフィアの激昂に、フェリシアは動揺しながら二人に答える。
「え、ええ・・・。大丈夫です」
激昂して怒り狂うソフィアは、三人掛かりで押さえられていたが、尚もフェリシアを指差しながら叫ぶ。
「あの人を亡き者にして、お前が此処の主になる腹だろう! あの人に何かあったらぁ! 真っ先に殺してやる!! ドラゴンの炎でトラキアなど焼き払って! 皆殺しにしてくれるわぁ!!」
ソフィアの怒号が飛行場脇に響き渡る。
ユニコーン・ゼロの隣に座っていた古代竜王シュタインベルガーがソフィアの怒号を聞き、その顔をソフィアの方へ向けると、縦に割れている瞳孔の目を細める。
ヒナやアレク達は、激昂したソフィアの鬼の形相と迫力に圧倒され、呆然と立ち尽くしていた。
飛行場脇で繰り広げられている修羅場の真っ最中に転移門が現れると、その転移門を通って皇帝ラインハルトと皇妃ナナイ、二人を迎えに行っていたハリッシュとクリシュナが現れる。
現れた皇帝ラインハルトと皇妃ナナイの姿を見て、ソフィアは落ち着き、冷静さを取り戻す。
周囲にいる者達は、皇帝ラインハルトと皇妃ナナイの二人に最敬礼を取る。
ラインハルトは、その場の尋常ではなかった雰囲気を察すると、周囲を見回して呟く。
「・・・何事だ?」
ヒナがラインハルトに答える。
「その・・・帝国軍の到着を待たずに、皇太子殿下がトラキアの兵を率いて出撃されたと・・・」
ラインハルトが穏やかに告げる。
「ふむ。ジークから上申があり、私が出撃を許可した」
ラインハルトの言葉を聞いたソフィアが目に涙を浮かべながら訴える。
「そんな! 陛下!!」
ラインハルトは、涙ながらに自分に訴えるソフィアの肩に手を置くと、穏やかになだめながら諭す。
「ソフィア。そう心配するな。ジークは勝算があって出撃したのだ。あれは無謀な突撃をするタイプではない。その事は、正妃のお前も良く知っているだろう?」
穏やかに諭すラインハルトの言葉をソフィアは大人しく聞き入れる。
「・・・はい」
「自分の夫、ジークを信じろ。それに暴れたりしたら、お前のお腹にいる子も、さぞ驚いただろう。・・・離宮の貴賓室で休むと良い」
「・・・判りました」
ソフィアを諭したラインハルトが、傍らのナナイに告げる。
「ナナイ。ソフィアを貴賓室に」
「はい。・・・ソフィア。行きましょう。・・・妊娠していると、心身共に不安定になるのよ」
「皇妃様・・・」
ナナイはソフィアの手を取ると、離宮の貴賓室へとソフィアを連れて行った。
ナナイとソフィアを見送ったラインハルトが口を開く。
「皆、会議室へ行くぞ。ジカイラ達は、後ほど。・・・少し休むと良い」
「「はっ」」
離宮の会議室へと向かうラインハルトの後に、帝国四魔将とハリッシュ夫妻が続く。
ラインハルトは、自分に対して最敬礼を取るフェリシアを、歩きながらその冷たいアイスブルーの瞳で一瞥するが、フェリシアに声を掛ける事は無く、その前を通り過ぎて行った。
皇帝や皇妃、帝国四魔将といったバレンシュテット帝国の指導層が居なくなったことで、その場に居る者達は、皆、立ち上がり、場の緊張感が解ける。
ジカイラが大きく息を吐く。
「はぁ・・・。一時はどうなる事かと思ったぜ」
ヒナがフェリシアを労わる。
「大丈夫ですか? 思いっきり掴まれて引っ張られていたようですが・・・」
フェリシアが答える。
「・・・大丈夫です」
アレク達もフェリシアの元に集まる。
アレクが口を開く。
「・・・フェリシアさん。苦労されているのですね」
フェリシアは、寂しげに微笑みながら答える。
「結婚すると、色々とあるのです。一夫多妻ですから。・・・アレク大尉も結婚すると判りますよ?」
フェリシアの言葉を聞いた、アレクとルイーゼ、ナディアとエルザの四人の目が合う。
ルイーゼは、両手を広げて否定しながら告げる。
「わ、私は、あんな事、しないわ!!」
ナディアも口を開く。
「私も! 私は、エルザをしばいたり、しないわよ!!」
エルザも口を開く。
「私も! ・・・って、なんで私がナディアにしばかれるの!?」
エルザの言葉に周囲に居る者達が笑い出す。
アルが軽口を叩く。
「ま、オレは、ナタリーだけだから。ああいう修羅場には縁が無いな」
「もぅ・・・アルったら!」
ナタリーは照れながらアルと腕を組む。
トゥルムが口を開く。
「皆、盛り上がっているところで悪いが、そろそろ離宮で休ませて貰おう」
ドミトリーもトゥルムに続く。
「うむ。拙僧も同感だ」
フェリシアは、ジカイラ達を離宮へと案内する。
「皆さん。どうぞ、こちらでお寛ぎ下さい」
フィリシアの案内でジカイラ達は、トラキア離宮へと歩いて行く。
ジークが率いるトラキア兵団は、日の出と共に行動を開始し、ヴェネト共和国領内を北上して再びライラ川を渡ってメフメト王国領を通り、国境に差し掛かっていた。
トラキア兵団は、ソユット軍が行軍する街道を避け、荒野を駆け抜ける。
ジーク達がバレンシュテット帝国とメフメト王国の国境を越えて間もなく、トラキア兵団の東側の空に黒煙が立ち上っているのがジークの目に入る。
ジークがアストリッドに尋ねる。
「あれは・・・?」
アストリッドが答える。
「ザミンウードの街です。住民は、昨夜のうちに避難しており、街は無人です。恐らくソユット軍が放火したのでしょう」
ジークが呟く。
「無人とはいえ、敵軍に自国の街を焼かれるのは、良い気分ではないな」
自国であるトラキアの街をソユット軍に焼かれて苛立つジークを他所に、アストリッドは街の事など、気にも掛けていなかった。
アストリッドにとって最優先事項は、『夫であるジークが、無事にトラキア離宮に帰還すること』であり、他の事はどうでもよかった。
アストリッドが答える。
「ジーク様。ツァンダレイまで、あと二日ほど掛かります。急ぎましょう」
国境を越えてトラキアに戻ったトラキア兵団は、荒野を北上し、州都ツァンダレイに向かう。
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教導大隊を乗せた飛行空母ユニコーン・ゼロと帝国南部方面軍を乗せた大型輸送飛空艇の艦隊は、トラキアの州都ツァンダレイに到着する。
トラキア離宮に併設された飛行場にユニコーン・ゼロを始め、大型輸送飛空艇の艦隊が続々と着陸していく。
ジカイラは、着陸したユニコーン・ゼロの艦橋の窓から見える、豪華な白亜の宮殿であるトラキア離宮を眺めながら、安堵の息を着く。
「どうやら、間に合ったな」
艦長がジカイラに告げる。
「大佐。定刻通りツァンダレイに到着しました。これより本艦は、補給整備に入ります」
「艦長、御苦労だった。オレ達は、地上に降りる。後は頼むぞ」
「了解しました」
ジカイラは艦長にそう告げると艦橋を後にする。
教導大隊と南部方面軍のツァンダレイ到着に続き、帝国竜騎兵団、帝国魔界兵団、東部方面軍の飛行戦艦四隻と飛行空母四隻がツァンダレイ上空に現れ、順次、トラキア離宮に併設されている飛行場に着陸していく。
その様子を見たジカイラが呟く。
「さすが帝国軍。時間どおりの到着だな」
トラキアの州都ツァンダレイに到着した教導大隊は、補給整備に入った飛行空母ユニコーン・ゼロから飛行場に降りる。
ジカイラやヒナ、アレク達がユニコーン・ゼロのタラップから飛行場に降りると、帝国竜騎兵団のアキックス伯爵とソフィア、帝国魔界兵団のナナシ伯爵もジカイラ達の元に集まってくる。
アキックス伯爵が笑顔でジカイラ達に挨拶する。
「久しぶりだな。黒い剣士殿、氷の魔女殿」
続いてナナシ伯爵もジカイラ達を労う。
「遠征ご苦労だった。皆、息災なようで何よりだ」
ジカイラは、帝国四魔将相手に恐縮しながら答える。
「お久しぶりです。アキックス伯爵。ナナシ伯爵」
飛行場脇にツァンダレイに集結したバレンシュテット帝国軍の指揮官達が集まっていると、ジークの代理として皇太子第三妃のフェリシアがジカイラ達を出迎える。
フェリシアがジカイラに告げる。
「教導大隊のジカイラ大佐ですね? 今回は、南大洋を越えた遠征と伺っております。遠路はるばる御苦労様でした。どうぞ、こちらでお寛ぎ下さい」
ジカイラがフェリシアに尋ねる。
「御妃が出迎えとは・・・。ジーク、いや、皇太子殿下は?」
フェリシアがジカイラに答える。
「ジーク様は、アストリッド様と共に、御自らトラキア諸侯達の軍勢を率いて出撃されました。・・・それで第三妃の私が、この離宮を預かっております」
フェリシアの答えを聞いたジカイラの顔色が変わる。
「なんだと!? ジークの奴、オレ達の到着を待たずに出撃したってのか!?」
「はい」
アレクもフェリシアの言葉を聞いて不安が頭をよぎる。
(兄上がトラキアの軍勢だけで出撃したなんて・・・)
(トラキアの軍勢は、質的に二級。それに兵力も少ない)
(いくら兄上が上級騎士でも、列強の大軍相手に無茶だ・・・)
ジカイラ達がジークの出撃を知って血相を変えていると、大型輸送飛空艇から降りてきたエリシス達がやってくる。
エリシスが口を開く。
「何やら、穏やかじゃないわね? 大佐」
ジカイラがエリシスに答える。
「ええ。皇太子殿下がトラキアの兵を率いて出撃したと・・・」
ジークが帝国軍の集結と到着を待たずに出撃したという事を知り、エリシスとリリー、アキックスやソフィア、ナナシも血相を変える。
右手の指で伊達メガネの縁に触れながら、リリーが口を開く。
「まずいですね。トラキアの兵なんて、たかが知れていますよ? ・・・いくら殿下が上級騎士だからといっても、一人で十万人は斬れませんよ!?」
リリーの言葉を聞いたフェリシアは、同じトラキア人の兵士達を蔑まれ、少しムッとしながら答える。
「ジーク様なら、大丈夫です」
フェリシアの答えを聞いたソフィアが激昂してフェリシアの着ている巫女服の首元に掴み掛かる。
「その保証がどこにある!? おのれぇ! 謀ったな! トラキア女!!」
鬼の形相でフェリシアに掴み掛かるソフィアを、アキックスとリリー、ジカイラが三人掛かりで押さえてフェリシアから引き剥がすと、ナナシが二人の間に割って入り、フェリシアを自分の背中に庇う。
アキックスが口を開く。
「落ち着け! ソフィア!!」
ジカイラも口を開く。
「落ち着いて下さい!!」
リリーも口を開く。
「どうか! 気を確かに! 落ち着いて!!」
ナナシは振り向くと、自分の背に庇うフェリシアを気遣う。
「御妃。大丈夫か?」
エリシスもフェリシアの傍らに来て、フェリシアを気遣う。
「大丈夫? 怪我は無い??」
ソフィアの激昂に、フェリシアは動揺しながら二人に答える。
「え、ええ・・・。大丈夫です」
激昂して怒り狂うソフィアは、三人掛かりで押さえられていたが、尚もフェリシアを指差しながら叫ぶ。
「あの人を亡き者にして、お前が此処の主になる腹だろう! あの人に何かあったらぁ! 真っ先に殺してやる!! ドラゴンの炎でトラキアなど焼き払って! 皆殺しにしてくれるわぁ!!」
ソフィアの怒号が飛行場脇に響き渡る。
ユニコーン・ゼロの隣に座っていた古代竜王シュタインベルガーがソフィアの怒号を聞き、その顔をソフィアの方へ向けると、縦に割れている瞳孔の目を細める。
ヒナやアレク達は、激昂したソフィアの鬼の形相と迫力に圧倒され、呆然と立ち尽くしていた。
飛行場脇で繰り広げられている修羅場の真っ最中に転移門が現れると、その転移門を通って皇帝ラインハルトと皇妃ナナイ、二人を迎えに行っていたハリッシュとクリシュナが現れる。
現れた皇帝ラインハルトと皇妃ナナイの姿を見て、ソフィアは落ち着き、冷静さを取り戻す。
周囲にいる者達は、皇帝ラインハルトと皇妃ナナイの二人に最敬礼を取る。
ラインハルトは、その場の尋常ではなかった雰囲気を察すると、周囲を見回して呟く。
「・・・何事だ?」
ヒナがラインハルトに答える。
「その・・・帝国軍の到着を待たずに、皇太子殿下がトラキアの兵を率いて出撃されたと・・・」
ラインハルトが穏やかに告げる。
「ふむ。ジークから上申があり、私が出撃を許可した」
ラインハルトの言葉を聞いたソフィアが目に涙を浮かべながら訴える。
「そんな! 陛下!!」
ラインハルトは、涙ながらに自分に訴えるソフィアの肩に手を置くと、穏やかになだめながら諭す。
「ソフィア。そう心配するな。ジークは勝算があって出撃したのだ。あれは無謀な突撃をするタイプではない。その事は、正妃のお前も良く知っているだろう?」
穏やかに諭すラインハルトの言葉をソフィアは大人しく聞き入れる。
「・・・はい」
「自分の夫、ジークを信じろ。それに暴れたりしたら、お前のお腹にいる子も、さぞ驚いただろう。・・・離宮の貴賓室で休むと良い」
「・・・判りました」
ソフィアを諭したラインハルトが、傍らのナナイに告げる。
「ナナイ。ソフィアを貴賓室に」
「はい。・・・ソフィア。行きましょう。・・・妊娠していると、心身共に不安定になるのよ」
「皇妃様・・・」
ナナイはソフィアの手を取ると、離宮の貴賓室へとソフィアを連れて行った。
ナナイとソフィアを見送ったラインハルトが口を開く。
「皆、会議室へ行くぞ。ジカイラ達は、後ほど。・・・少し休むと良い」
「「はっ」」
離宮の会議室へと向かうラインハルトの後に、帝国四魔将とハリッシュ夫妻が続く。
ラインハルトは、自分に対して最敬礼を取るフェリシアを、歩きながらその冷たいアイスブルーの瞳で一瞥するが、フェリシアに声を掛ける事は無く、その前を通り過ぎて行った。
皇帝や皇妃、帝国四魔将といったバレンシュテット帝国の指導層が居なくなったことで、その場に居る者達は、皆、立ち上がり、場の緊張感が解ける。
ジカイラが大きく息を吐く。
「はぁ・・・。一時はどうなる事かと思ったぜ」
ヒナがフェリシアを労わる。
「大丈夫ですか? 思いっきり掴まれて引っ張られていたようですが・・・」
フェリシアが答える。
「・・・大丈夫です」
アレク達もフェリシアの元に集まる。
アレクが口を開く。
「・・・フェリシアさん。苦労されているのですね」
フェリシアは、寂しげに微笑みながら答える。
「結婚すると、色々とあるのです。一夫多妻ですから。・・・アレク大尉も結婚すると判りますよ?」
フェリシアの言葉を聞いた、アレクとルイーゼ、ナディアとエルザの四人の目が合う。
ルイーゼは、両手を広げて否定しながら告げる。
「わ、私は、あんな事、しないわ!!」
ナディアも口を開く。
「私も! 私は、エルザをしばいたり、しないわよ!!」
エルザも口を開く。
「私も! ・・・って、なんで私がナディアにしばかれるの!?」
エルザの言葉に周囲に居る者達が笑い出す。
アルが軽口を叩く。
「ま、オレは、ナタリーだけだから。ああいう修羅場には縁が無いな」
「もぅ・・・アルったら!」
ナタリーは照れながらアルと腕を組む。
トゥルムが口を開く。
「皆、盛り上がっているところで悪いが、そろそろ離宮で休ませて貰おう」
ドミトリーもトゥルムに続く。
「うむ。拙僧も同感だ」
フェリシアは、ジカイラ達を離宮へと案内する。
「皆さん。どうぞ、こちらでお寛ぎ下さい」
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