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第五章 野営訓練
第百三十七話 野営訓練(十一)
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アレクとルイーゼは、二人で小高い岬の上に来ていた。
岬の上から周囲の景色を見渡すと絶景が広がっていた。
眼下に広がる澄んだ海。
見渡す限り続く水平線。
広がる青空に浮かぶ白い綿雲。
白い砂浜に引いては寄せる穏やかなさざ波。
景色を目にしたルイーゼが呟く。
「素敵ね・・・」
アレクが砂浜を見下ろすと、仲間達の様子が伺えた。
昼食の残りで酒盛りをしながら語らうトゥルムとドミトリー。
二人揃って寝転がって日光浴をするナディアとエルザ。
アルとナタリーは、両親であるジカイラとヒナと語り合っているようであった。
アレクが傍らのルイーゼに目を向けると、頬を撫でる潮風に結い上げた髪の毛先を揺らしながら、ルイーゼは岬から眺める絶景に感嘆して魅入っていた。
アレクは、景色に魅入るルイーゼの横顔に見惚れる。
アレクにとって何度も見ており見慣れているはずのルイーゼの横顔であったが、胸の前で両手を合わせて組んだまま、景色に魅入るルイーゼの横顔は、一際美しく愛らしく思えた。
アレクにとって、ルイーゼは幼馴染であり、『特別な存在』であった。
ルイーゼは、準貴族である貧しい騎士爵家の娘に生まれ、口減らしのために幼い頃に帝室にメイドとして奉公に出されていた。
アレクの母である皇妃ナナイは、同い年のアレクと一緒に幼いルイーゼを可愛がった。
成長したルイーゼは皇宮のメイドとなったが、アレクにとって『特別な存在』であることは変わらなかった。
アレクの父、皇帝ラインハルトは、皇妃ナナイの実家であるルードシュタット侯爵家と帝国四魔将を重用する一方で、暴力革命以前から存在する旧来の上流貴族達には皇宮への出入りこそ許していたものの、政権運営から遠ざけて重用する事は無かった。
それだけに旧来の上流貴族達は、こぞって令嬢達や夫人達を着飾らせて皇宮へ差し向け、自分達の家や派閥の権威、権力の強化のため、皇帝夫妻や帝室の皇子皇女達に取り入ろうとしていた。
無論、皇帝ラインハルトや皇妃ナナイ、皇太子ジークは、旧来の上流貴族達のそんな下心など見抜いており、上流貴族達は適当にあしらわれていた。
それはアレクも同様で、旧来の上流貴族達の令嬢達に好意を持つ事は出来なかったし、皇太子である兄ジークに媚びる下級貴族出身のメイド達には性的な悪戯こそしたものの、好意を持つ事は出来なかった。
ルイーゼは、そういった上流貴族達の思惑や下級貴族達の事情とは全く無縁であり、献身的にアレクに尽くしてくれる事も全て無償の愛情からであった。
アレクはルイーゼの横顔に見惚れながら、改めてルイーゼに対する自分の気持ちを再認識する。
(ルイーゼ。・・・オレは君を守りたいと思う)
(遠くを見つめるその瞳も、潮風に揺れる髪も、全てを)
ルイーゼが自分の横顔を見詰めるアレクに気が付く。
「どうしたの?」
「可愛いルイーゼに見惚れていたのさ」
アレクの言葉にルイーゼは照れる。
「もぅ・・・。毎晩、抱いている私を口説いているの?」
ルイーゼはそう告げるとアレクの手を握り、傍らに並び立つ。
士官学校の野営訓練ではあったが、旅行先で想い人のアレクと一緒に眺める絶景は格別であった。
「私、思い出を作る時は、アレクと一緒が良い」
アレクはルイーゼに微笑み掛けると、冗談交じりにルイーゼに告げる。
「あと半年で士官学校を卒業するけど、また来年、卒業してからもここに来ようか?」
「良いわね」
「卒業して大人になったら、何か変わるのかな?」
「アレクはアレクのまま、変わらないけど、帝国第二皇子に戻れるわね」
「戻れるかな?」
「戻れるわよ。きっと」
ルイーゼは、ラインハルトからの懲罰が解けて、アレクが帝国第二皇子に戻れると確信していた。
岬の上に並び立つ二人の顔を吹き抜ける潮風が優しく撫でる。
寄せては返すさざ波の音と、空を飛ぶ海猫の鳴き声が日常の喧噪を忘れさせてくれていた。
岬の上から周囲の景色を見渡すと絶景が広がっていた。
眼下に広がる澄んだ海。
見渡す限り続く水平線。
広がる青空に浮かぶ白い綿雲。
白い砂浜に引いては寄せる穏やかなさざ波。
景色を目にしたルイーゼが呟く。
「素敵ね・・・」
アレクが砂浜を見下ろすと、仲間達の様子が伺えた。
昼食の残りで酒盛りをしながら語らうトゥルムとドミトリー。
二人揃って寝転がって日光浴をするナディアとエルザ。
アルとナタリーは、両親であるジカイラとヒナと語り合っているようであった。
アレクが傍らのルイーゼに目を向けると、頬を撫でる潮風に結い上げた髪の毛先を揺らしながら、ルイーゼは岬から眺める絶景に感嘆して魅入っていた。
アレクは、景色に魅入るルイーゼの横顔に見惚れる。
アレクにとって何度も見ており見慣れているはずのルイーゼの横顔であったが、胸の前で両手を合わせて組んだまま、景色に魅入るルイーゼの横顔は、一際美しく愛らしく思えた。
アレクにとって、ルイーゼは幼馴染であり、『特別な存在』であった。
ルイーゼは、準貴族である貧しい騎士爵家の娘に生まれ、口減らしのために幼い頃に帝室にメイドとして奉公に出されていた。
アレクの母である皇妃ナナイは、同い年のアレクと一緒に幼いルイーゼを可愛がった。
成長したルイーゼは皇宮のメイドとなったが、アレクにとって『特別な存在』であることは変わらなかった。
アレクの父、皇帝ラインハルトは、皇妃ナナイの実家であるルードシュタット侯爵家と帝国四魔将を重用する一方で、暴力革命以前から存在する旧来の上流貴族達には皇宮への出入りこそ許していたものの、政権運営から遠ざけて重用する事は無かった。
それだけに旧来の上流貴族達は、こぞって令嬢達や夫人達を着飾らせて皇宮へ差し向け、自分達の家や派閥の権威、権力の強化のため、皇帝夫妻や帝室の皇子皇女達に取り入ろうとしていた。
無論、皇帝ラインハルトや皇妃ナナイ、皇太子ジークは、旧来の上流貴族達のそんな下心など見抜いており、上流貴族達は適当にあしらわれていた。
それはアレクも同様で、旧来の上流貴族達の令嬢達に好意を持つ事は出来なかったし、皇太子である兄ジークに媚びる下級貴族出身のメイド達には性的な悪戯こそしたものの、好意を持つ事は出来なかった。
ルイーゼは、そういった上流貴族達の思惑や下級貴族達の事情とは全く無縁であり、献身的にアレクに尽くしてくれる事も全て無償の愛情からであった。
アレクはルイーゼの横顔に見惚れながら、改めてルイーゼに対する自分の気持ちを再認識する。
(ルイーゼ。・・・オレは君を守りたいと思う)
(遠くを見つめるその瞳も、潮風に揺れる髪も、全てを)
ルイーゼが自分の横顔を見詰めるアレクに気が付く。
「どうしたの?」
「可愛いルイーゼに見惚れていたのさ」
アレクの言葉にルイーゼは照れる。
「もぅ・・・。毎晩、抱いている私を口説いているの?」
ルイーゼはそう告げるとアレクの手を握り、傍らに並び立つ。
士官学校の野営訓練ではあったが、旅行先で想い人のアレクと一緒に眺める絶景は格別であった。
「私、思い出を作る時は、アレクと一緒が良い」
アレクはルイーゼに微笑み掛けると、冗談交じりにルイーゼに告げる。
「あと半年で士官学校を卒業するけど、また来年、卒業してからもここに来ようか?」
「良いわね」
「卒業して大人になったら、何か変わるのかな?」
「アレクはアレクのまま、変わらないけど、帝国第二皇子に戻れるわね」
「戻れるかな?」
「戻れるわよ。きっと」
ルイーゼは、ラインハルトからの懲罰が解けて、アレクが帝国第二皇子に戻れると確信していた。
岬の上に並び立つ二人の顔を吹き抜ける潮風が優しく撫でる。
寄せては返すさざ波の音と、空を飛ぶ海猫の鳴き声が日常の喧噪を忘れさせてくれていた。
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