22 / 35
領主と女中と満月の夜3
しおりを挟む
ベッドに横になる前から、ロアの妙な緊張をマリアもひしひしと肌で感じていた。
吸血行為自体は以前から、もう何度も行っている。
今夜はたまたま、こういう体勢になっただけで、すること自体は今までと、決して変わるわけではないのに。
今夜はやはり、違った。
ロアの舌遣いと牙の立て方はいつもより少し荒く、それでいて血を吸い上げる唇は執拗なほど優しい。
身体の距離もいつもより近く、吸血に夢中になっているロアの右手はいつの間にかマリアの腰をしっかりと抱いていた。左手はあろうことか彼女の胸の膨らみの下部に、半分手がかかっている。少し動けば寝間着から胸があらわになってしまうだろう。
それが気になって妙な羞恥心も芽生えていき、かといって下手にも動けず、もどかしい思いを我慢できずに息を漏らせば、自分でも驚くほど艶のある声が出た。
「……っ」
それが余計に恥ずかしくて、マリアはきゅっと、ロアのシャツの胸元を握る。
するとロアは一度肌から唇を離して、熱に浮かされたような紅い瞳でマリアの顔を覗った。
「……痛い?」
マリアは真っ赤な顔でふるふると首を振る。
「……手の所在がなくて」
それを聞いたロアは、頬を上気させたまま軽く微笑む。
「背中に回してくれると嬉しいな」
「……、こう?」
マリアがおずおずと、両手をロアの背に回す。
それによってさらに二人の距離が縮まったような気がした。
「……もう少しだけ、我慢して。でも」
声は我慢しなくていいよ、と。
ロアはマリアの耳元で囁いた。
マリアが真っ赤な顔をさらに赤くして抗議する前に、ロアは再度彼女の胸に吸い付いた。
「んっ……」
首筋を噛まれる時は、マリアからは決して見えなかったロアの表情が、今夜だけは垣間見える。
目を細めて、時には瞼を閉じながら、とても愛おしそうにロアはマリアの肌を吸う。その表情はいつにも増して色っぽくて、同時に何故か庇護欲を掻き立てられる幼さも感じられた。
こんなにも求められているのだという感慨に、胸の奥がじんと疼いて熱くなる。
同時に、マリアは少しだけ怖くなった。
今は血を吸われているのだということを――その現実を忘れてしまいそうなほど、この状況に酔ってしまっていることに。
マリアの胸にかかっていたロアの左手が少し動いて、またも変な声が零れそうになった唇をマリアは必死に結ぶ。自然とロアの背中に回した指先に力がこもった。
すると今度はロアの身体が一瞬強張る。
痛かったのかもしれないと、マリアは慌てて謝罪した。
「ごめんなさ……」
「ううん、もっとぎゅってして」
「、」
マリアは少し躊躇いながらも、腕に力を込めてロアを抱擁する。
すると、激しかったロアの舌遣いは次第に穏やかなものになっていき、終盤には、この時間が終わるのを惜しんでいるかのような、そんな緩慢な動きに変わっていた。
そうして、血も吸い終えたと思われた頃。
「……ねえ、ロア」
マリアはまるで子供を寝かしつけるかのような手つきで、ロアの髪を撫でながら呟く。ロアは微かに首をもたげ、耳を傾けた。
「やっぱり胸は駄目ですね」
「……ッ」
ロアはガバリと顔を上げ、泣きそうな眼でマリアを見た。
「ごめん、やっぱり痛かった? それとも気持ち悪かった? 胸触ってた?」
触るどころか最後揉んでましたよ、と言いたいのをぐっと我慢して、マリアは苦笑いを浮かべる。
「逆です。貴女に血を提供する行為にしては、なんというか、けじめがないというか、」
つまり『ふしだら』、ということだろう。ロアはまさしくその通りでございますと言わんばかりの暗い顔をして目を伏せた。
(でも『逆』って、どういう意味……)
ロアが思いを巡らせる前に、マリアはロアの身体を押し退けるようにぐっと上体を起こして、逃げるようにベッドから立ち上がった。
ロアに背中を向ける形で、マリアは消え入りそうな、ごくごく小さな声で呟く。
「だから、胸を噛むのも、腕を回すのも、それ以外のときでお願いします」
さっきまで血の気が引いていた顔に、急に血が上ってくるのをロアは感じた。
「マリア、それって、」
マリアはそれ以上言わせず、どこに隠し持っていたのか突然手裏剣をちらつかせた。
「早く出て行ってください、今から消毒とか着替えとか、いろいろありますから」
「えっ、あっ、はい」
ロアは慌てて、逃げるように部屋の外に出た。
扉が閉まるのを確認してから、マリアはふうと、息を吐く。
姿見には、真っ赤な顔の自分が映っていて、はだけた寝間着から覗く胸元には、しっかりと赤い痕が残っていた。
「……これはまた、長い時間残ってしまいそうですね」
そうこぼしたマリアの口元が綻んでいたこと、そして自室に戻ろうと廊下を歩いていたロアが動揺のあまり柱にぶつかったことを見ていたのは、窓から覗く大きな満月だけだった。
吸血行為自体は以前から、もう何度も行っている。
今夜はたまたま、こういう体勢になっただけで、すること自体は今までと、決して変わるわけではないのに。
今夜はやはり、違った。
ロアの舌遣いと牙の立て方はいつもより少し荒く、それでいて血を吸い上げる唇は執拗なほど優しい。
身体の距離もいつもより近く、吸血に夢中になっているロアの右手はいつの間にかマリアの腰をしっかりと抱いていた。左手はあろうことか彼女の胸の膨らみの下部に、半分手がかかっている。少し動けば寝間着から胸があらわになってしまうだろう。
それが気になって妙な羞恥心も芽生えていき、かといって下手にも動けず、もどかしい思いを我慢できずに息を漏らせば、自分でも驚くほど艶のある声が出た。
「……っ」
それが余計に恥ずかしくて、マリアはきゅっと、ロアのシャツの胸元を握る。
するとロアは一度肌から唇を離して、熱に浮かされたような紅い瞳でマリアの顔を覗った。
「……痛い?」
マリアは真っ赤な顔でふるふると首を振る。
「……手の所在がなくて」
それを聞いたロアは、頬を上気させたまま軽く微笑む。
「背中に回してくれると嬉しいな」
「……、こう?」
マリアがおずおずと、両手をロアの背に回す。
それによってさらに二人の距離が縮まったような気がした。
「……もう少しだけ、我慢して。でも」
声は我慢しなくていいよ、と。
ロアはマリアの耳元で囁いた。
マリアが真っ赤な顔をさらに赤くして抗議する前に、ロアは再度彼女の胸に吸い付いた。
「んっ……」
首筋を噛まれる時は、マリアからは決して見えなかったロアの表情が、今夜だけは垣間見える。
目を細めて、時には瞼を閉じながら、とても愛おしそうにロアはマリアの肌を吸う。その表情はいつにも増して色っぽくて、同時に何故か庇護欲を掻き立てられる幼さも感じられた。
こんなにも求められているのだという感慨に、胸の奥がじんと疼いて熱くなる。
同時に、マリアは少しだけ怖くなった。
今は血を吸われているのだということを――その現実を忘れてしまいそうなほど、この状況に酔ってしまっていることに。
マリアの胸にかかっていたロアの左手が少し動いて、またも変な声が零れそうになった唇をマリアは必死に結ぶ。自然とロアの背中に回した指先に力がこもった。
すると今度はロアの身体が一瞬強張る。
痛かったのかもしれないと、マリアは慌てて謝罪した。
「ごめんなさ……」
「ううん、もっとぎゅってして」
「、」
マリアは少し躊躇いながらも、腕に力を込めてロアを抱擁する。
すると、激しかったロアの舌遣いは次第に穏やかなものになっていき、終盤には、この時間が終わるのを惜しんでいるかのような、そんな緩慢な動きに変わっていた。
そうして、血も吸い終えたと思われた頃。
「……ねえ、ロア」
マリアはまるで子供を寝かしつけるかのような手つきで、ロアの髪を撫でながら呟く。ロアは微かに首をもたげ、耳を傾けた。
「やっぱり胸は駄目ですね」
「……ッ」
ロアはガバリと顔を上げ、泣きそうな眼でマリアを見た。
「ごめん、やっぱり痛かった? それとも気持ち悪かった? 胸触ってた?」
触るどころか最後揉んでましたよ、と言いたいのをぐっと我慢して、マリアは苦笑いを浮かべる。
「逆です。貴女に血を提供する行為にしては、なんというか、けじめがないというか、」
つまり『ふしだら』、ということだろう。ロアはまさしくその通りでございますと言わんばかりの暗い顔をして目を伏せた。
(でも『逆』って、どういう意味……)
ロアが思いを巡らせる前に、マリアはロアの身体を押し退けるようにぐっと上体を起こして、逃げるようにベッドから立ち上がった。
ロアに背中を向ける形で、マリアは消え入りそうな、ごくごく小さな声で呟く。
「だから、胸を噛むのも、腕を回すのも、それ以外のときでお願いします」
さっきまで血の気が引いていた顔に、急に血が上ってくるのをロアは感じた。
「マリア、それって、」
マリアはそれ以上言わせず、どこに隠し持っていたのか突然手裏剣をちらつかせた。
「早く出て行ってください、今から消毒とか着替えとか、いろいろありますから」
「えっ、あっ、はい」
ロアは慌てて、逃げるように部屋の外に出た。
扉が閉まるのを確認してから、マリアはふうと、息を吐く。
姿見には、真っ赤な顔の自分が映っていて、はだけた寝間着から覗く胸元には、しっかりと赤い痕が残っていた。
「……これはまた、長い時間残ってしまいそうですね」
そうこぼしたマリアの口元が綻んでいたこと、そして自室に戻ろうと廊下を歩いていたロアが動揺のあまり柱にぶつかったことを見ていたのは、窓から覗く大きな満月だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ハナノカオリ
桜庭かなめ
恋愛
女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。
そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。
しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。
絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。
女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。
※全話公開しました(2020.12.21)
※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。
※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。
※お気に入り登録や感想お待ちしています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる