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悪魔祓いと魔女
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少女たちの霊の弔いを終えたふたりに、村の長が一夜の宿にと用意してくれたのは、木造の、非常に簡素な平屋建ての小屋だった。
元は物置なのか、小さな窓がひとつだけ。ベッドを含め、家具はひとつもなく、辛うじて先刻大急ぎで運び入れられたのであろう分厚い毛布が2つ、部屋の隅に畳んで積んである。
「客人を招くことがほとんどない村で、狭いところで申し訳ないです、修道女様」
「いえ、屋根があるだけで十分です。お気遣いありがとうございます」
マリアは白髪の老人に丁寧に会釈した。
夜食も用意すると申し出があったが、彼女はそれを断った。
「朝食に、コップ2杯の水とパンを2欠片だけいただけますか。我々への報酬はそれだけで結構です」
「……嗚呼、なんと。……こんなことなら、もっと早く教会に相談しておくべきでした。今回の件は、私の……、私の不徳のいたすところです……」
おもむろに涙を流し始めた村長が深々とマリアに首を垂れる。
「鬼の悪逆を受けてなお他に助けを求めなかったのは、この村の風土にも因りましょう。牧師の不審な行動に貴方が気付いたからこそ、次の犠牲者が――カトリーヌが死なずに済んだのです。辛いのなら、そのことをどうか思い返してください」
マリアの言葉に、老いた村長は何度も何度も頷いた。
村長が去ったあと、マリアの後ろで彫刻のように佇んでいたロアはようやく息を吐き、畳んである毛布の上にどさりと座り込んだ。
「……胸くそ悪い」
「ロア。なんて口の利き方ですか」
マリアはそう叱咤しながら、窮屈なウィンプルを脱いで、肩まである柔らかな栗色の髪をあらわにした。
「本当のこと言っただけだもん。マリアもあんな村長によそ行きの優しい顔して。大体、罪のない少女たちを鬼の生贄に捧げる時点で村長失格だからね、あの人」
ロアは不機嫌そうに足を組んで頬杖をつき、やるせないといった溜息を吐いた。
「気持ちはわかりますが、贄の件は村の総意だったと第三者も言っています。村長だけを責めるのは酷でしょう。悪魔祓いである我々は、村人を罰する権利を持たないのです。……罰することはできないのです」
言葉端に感情をにじませながらも、マリアの返答はあくまで教会の――国の悪魔祓いを統率する組織の、組織人的定型句だった。
「だから胸くそ悪いって言ったんだよ、怒りのやり場がなくってさ。あの牧師の魂の醜悪さはもう人間の範疇を超えてた。いっそこの手で息の根を止めてれば少しは溜飲も下がったのに」
「ロア、同じことを何度も言わせないで。そんな体たらくでは徳を積むどころか、より魔に近づきますよ」
マリアが再度、先刻より強い語気でロアを諫める。
結局、マリアがこうも社会的規則に沿おうとするのは、そのためなのだ。
生れついての悪魔憑きだったロアが、完全な悪魔になってしまったのは、半年前の春。
元が悪魔で今は人間のライア・ロビンソンの言葉を信じ、ふたりは『徳を積む』ことでロアの身体を人間のそれに戻そうと模索している最中だ。
教会所属の悪魔祓いであるマリアはこの秋から特に積極的に悪魔祓いの仕事を引き受けており、その内容も、以前請け負っていたものより重い。
ロアは最近になって初めて知ったのだが、教会の仕事には難易度や重要度に応じてランクがあるらしく、今までふたりが引き受けていた簡単な厄払いなどがDランクの仕事だとすると、今請け負っているのはBランクのそれになるという。
今回の案件もそうだが、やるせない仕事がここ最近続いていて、精神的に滅入ってきているというのが、ロアの正直なところだった。
「……マリアも座ったら? 疲れたでしょう」
この小屋には椅子もない。ロアがぽんぽんと誘うように毛布を軽く叩くので、マリアはそれに従い彼女の隣に座った。
途端、ロアがマリアの膝に倒れこんで、彼女の下腹から大腿にかけた柔らかな部分に顔を埋める。
「ちょっと、ロア、」
マリアがロアの肩を掴んで起こそうとする前に、ロアの手がマリアの腕を掴み、マリアの背は小屋の壁に押し付けられた。
板が音を立てて軋む。
ロアは上身を僅かに起こし、マリアを赤い瞳で見上げる。
ロアが彼女に向けるにしては、少し、冷ややかな視線だった。
「……ねえ、なんで私の機嫌がこんなに悪いかマリアは分かってる?」
いつもと違うロアの様子に、マリアは少し、息を呑む。
「……陰鬱な仕事だったから?」
「違う」
「小屋が簡素で狭いから?」
「違う」
「……夜食の提供を断ったから?」
「わざと言ってるの?」
怒ったようなロアの低い声色の奥底に、怒りとはまた別の、寂しさに似た感情を感じ取ったマリアは、困ったように視線を逸らす。
「……私が囮になる作戦が、貴女は気に入らなかったのでしょう」
マリアが観念したようにぽつりと呟くと、ロアは「そうだよ」と言って、彼女の胸元に無遠慮に顔を埋めた。
「! ロア、いい加減に」
「私がどれだけ我慢したか、マリアはきっと分かってない。あの薄汚い牧師がマリアと並んで歩くだけでも嫌だったのに、言葉まで交わして、」
マリアの叱咤にも動じず、ロアは彼女の腰に両腕を回す。
「あの男がもっと年若くて、力づくで君を組み伏せていたら? あの鬼がもっと成熟していて君の力で止められなかったら? そう考えただけでこんなにも怖い」
言葉だけではなく、ロアの指先が微かに震えているのをマリアは感じた。
マリアに縋りつき震える彼女のその様は、あの、嵐のような激しさで鬼を仕留めた悪魔とは思えないほど、随分とか弱く見えた。
マリアはロアの大地色の髪を、優しくなでる。
「ロア。たとえその状況下でも、貴女はきっと私を守っていたでしょう?」
「……当然だよ」
「なら何も、怖れることはないでしょう。これから先、どんなものと対峙しても、私は決して怖れません。貴女がいる限りは」
マリアのその言葉に、ロアはようやく顔を上げた。
先刻までその表情の中にあった険は抜けて、少し子供じみた、恨みがましい顔でマリアに言う。
「マリアはずるくなったね。そんなこと言われたらこれ以上言えないじゃない」
「褒め言葉として受け取っておきます。貴女をうまくなだめられるようになったと」
マリアは少し得意げに微笑んだ。
ロアはちぇ、と言わんばかりに顔を背ける。
丁度その時だった。
曇ったガラス窓の縁に、動くものが見えたのは。
「!」
ロアが急に立ち上がったので、マリアはびくりと肩を上げた。
「なんですか急に?」
「窓の外に誰かいた」
ロアがそろりとドアに近づく。
すると、数秒の沈黙ののち、遠慮がちなノックの音がした。
ロアがそっと、扉を開けると
「……あ、あのっ、おじい様が、おふたりにスープをお出しするようにと」
ロアの腰ほどぐらいまでの背丈の少女が、不自然なほどおどおどと視線を泳がせながら、お盆を抱えて立っていた。
――見られたかもしれないな、とロアは一瞬、気まずげに首を傾けたが、すぐに笑顔を取り繕い、
「ありがとう。頂くよ」
少女には重かったのだろう、ぷるぷると震えている彼女の手からスープが乗ったお盆を受け取り、マリアの前に置いた。
「村長さんのお孫さんですか?」
マリアの問いに、少女は強張った顔のままこくこくと頷く。
恐らくまだ七、八歳だろう。
「こんな夜遅くにごめんね。後片付けはいいから、君はもうお家に帰って寝ていなさい」
ロアが少女に視線を合わせてその黒髪を撫でると、少女は頬を朱に染めながら、非常に申し訳なさそうな目でロアを見た。
「……あの、ごめんなさい、お邪魔して。リーシャはすぐ寝ます」
リーシャというらしい少女に掛ける言葉が見つからず、ロアは頬をかいた。
見かねたマリアがふたりに近づく。
「温かい心遣い、ありがとうございます。貴女も鬼に怯えて怖かったでしょう。もう悪い鬼はいませんから、安心して眠ってくださいね」
マリアが「よそ行き」の顔で優しく言うと、リーシャは髪色と同じ、黒曜石のような瞳を輝かせて嬉しそうに頷いた。
「はい、聖女さま! アンジェラさまの言うとおりでした! 悪い鬼はきっと教会の聖女さまと、聖女さまのつかいまさまが退治してくださるって!」
マリアは目を丸くする。
ロアが悪魔であること――マリアの「使い魔」であることは、余計な混乱を避けるためにこの村の者には一切伝えていないはずだった。
「アンジェラ様って?」
ロアも同じことを思ったのか、リーシャに尋ねる。
「丘の向こうのお屋敷に住んでる魔女様。なんでもお見通しなの。あっ」
リーシャは慌てて自身の口をふさいだ。
「……魔女って言っちゃいけないんだった……。内緒にしててください」
「わかった。内緒にするね」
もう一度ロアがリーシャの頭を撫でると、彼女はほっとしたように顔を綻ばせ、おやすみなさいと言って小屋を出ていった。
ロアは肩をすくめてから、マリアの顔を覗う。
「……魔女だって。先生じゃあるまいし」
「予知能力のある占い師でしょうか。……少し気になります」
「明日会いに行ってみる?」
ロアの提案に、マリアは少しだけ躊躇した。
「良いんですか? 今日だって本当は泊まる予定ではなかったのに。あまり屋敷を空けるのもあれですから、貴女は先に帰っても……」
「それは絶対やだ! マリアの傍から離れない! 何かあったらどうするの!」
再びぴたりとマリアの腕にしがみつくロアに、マリアは辟易の溜息をついた。
「そんなことよりまた誰かに見られたらどうするんですか。子供みたいに甘えるなら屋敷に帰ってからにしてください」
するりと腕を解かれた上にぴしゃりと言われて、ロアはぐぬぬと唇を噛む。
「屋敷に帰ったらいっぱい甘えるからね!?」
「スープ、冷めてしまいますよ。お先にいただきます」
「甘えるからね!?」
「……はあ、美味しい。温まります」
「マリアの意地悪ーー!」
元は物置なのか、小さな窓がひとつだけ。ベッドを含め、家具はひとつもなく、辛うじて先刻大急ぎで運び入れられたのであろう分厚い毛布が2つ、部屋の隅に畳んで積んである。
「客人を招くことがほとんどない村で、狭いところで申し訳ないです、修道女様」
「いえ、屋根があるだけで十分です。お気遣いありがとうございます」
マリアは白髪の老人に丁寧に会釈した。
夜食も用意すると申し出があったが、彼女はそれを断った。
「朝食に、コップ2杯の水とパンを2欠片だけいただけますか。我々への報酬はそれだけで結構です」
「……嗚呼、なんと。……こんなことなら、もっと早く教会に相談しておくべきでした。今回の件は、私の……、私の不徳のいたすところです……」
おもむろに涙を流し始めた村長が深々とマリアに首を垂れる。
「鬼の悪逆を受けてなお他に助けを求めなかったのは、この村の風土にも因りましょう。牧師の不審な行動に貴方が気付いたからこそ、次の犠牲者が――カトリーヌが死なずに済んだのです。辛いのなら、そのことをどうか思い返してください」
マリアの言葉に、老いた村長は何度も何度も頷いた。
村長が去ったあと、マリアの後ろで彫刻のように佇んでいたロアはようやく息を吐き、畳んである毛布の上にどさりと座り込んだ。
「……胸くそ悪い」
「ロア。なんて口の利き方ですか」
マリアはそう叱咤しながら、窮屈なウィンプルを脱いで、肩まである柔らかな栗色の髪をあらわにした。
「本当のこと言っただけだもん。マリアもあんな村長によそ行きの優しい顔して。大体、罪のない少女たちを鬼の生贄に捧げる時点で村長失格だからね、あの人」
ロアは不機嫌そうに足を組んで頬杖をつき、やるせないといった溜息を吐いた。
「気持ちはわかりますが、贄の件は村の総意だったと第三者も言っています。村長だけを責めるのは酷でしょう。悪魔祓いである我々は、村人を罰する権利を持たないのです。……罰することはできないのです」
言葉端に感情をにじませながらも、マリアの返答はあくまで教会の――国の悪魔祓いを統率する組織の、組織人的定型句だった。
「だから胸くそ悪いって言ったんだよ、怒りのやり場がなくってさ。あの牧師の魂の醜悪さはもう人間の範疇を超えてた。いっそこの手で息の根を止めてれば少しは溜飲も下がったのに」
「ロア、同じことを何度も言わせないで。そんな体たらくでは徳を積むどころか、より魔に近づきますよ」
マリアが再度、先刻より強い語気でロアを諫める。
結局、マリアがこうも社会的規則に沿おうとするのは、そのためなのだ。
生れついての悪魔憑きだったロアが、完全な悪魔になってしまったのは、半年前の春。
元が悪魔で今は人間のライア・ロビンソンの言葉を信じ、ふたりは『徳を積む』ことでロアの身体を人間のそれに戻そうと模索している最中だ。
教会所属の悪魔祓いであるマリアはこの秋から特に積極的に悪魔祓いの仕事を引き受けており、その内容も、以前請け負っていたものより重い。
ロアは最近になって初めて知ったのだが、教会の仕事には難易度や重要度に応じてランクがあるらしく、今までふたりが引き受けていた簡単な厄払いなどがDランクの仕事だとすると、今請け負っているのはBランクのそれになるという。
今回の案件もそうだが、やるせない仕事がここ最近続いていて、精神的に滅入ってきているというのが、ロアの正直なところだった。
「……マリアも座ったら? 疲れたでしょう」
この小屋には椅子もない。ロアがぽんぽんと誘うように毛布を軽く叩くので、マリアはそれに従い彼女の隣に座った。
途端、ロアがマリアの膝に倒れこんで、彼女の下腹から大腿にかけた柔らかな部分に顔を埋める。
「ちょっと、ロア、」
マリアがロアの肩を掴んで起こそうとする前に、ロアの手がマリアの腕を掴み、マリアの背は小屋の壁に押し付けられた。
板が音を立てて軋む。
ロアは上身を僅かに起こし、マリアを赤い瞳で見上げる。
ロアが彼女に向けるにしては、少し、冷ややかな視線だった。
「……ねえ、なんで私の機嫌がこんなに悪いかマリアは分かってる?」
いつもと違うロアの様子に、マリアは少し、息を呑む。
「……陰鬱な仕事だったから?」
「違う」
「小屋が簡素で狭いから?」
「違う」
「……夜食の提供を断ったから?」
「わざと言ってるの?」
怒ったようなロアの低い声色の奥底に、怒りとはまた別の、寂しさに似た感情を感じ取ったマリアは、困ったように視線を逸らす。
「……私が囮になる作戦が、貴女は気に入らなかったのでしょう」
マリアが観念したようにぽつりと呟くと、ロアは「そうだよ」と言って、彼女の胸元に無遠慮に顔を埋めた。
「! ロア、いい加減に」
「私がどれだけ我慢したか、マリアはきっと分かってない。あの薄汚い牧師がマリアと並んで歩くだけでも嫌だったのに、言葉まで交わして、」
マリアの叱咤にも動じず、ロアは彼女の腰に両腕を回す。
「あの男がもっと年若くて、力づくで君を組み伏せていたら? あの鬼がもっと成熟していて君の力で止められなかったら? そう考えただけでこんなにも怖い」
言葉だけではなく、ロアの指先が微かに震えているのをマリアは感じた。
マリアに縋りつき震える彼女のその様は、あの、嵐のような激しさで鬼を仕留めた悪魔とは思えないほど、随分とか弱く見えた。
マリアはロアの大地色の髪を、優しくなでる。
「ロア。たとえその状況下でも、貴女はきっと私を守っていたでしょう?」
「……当然だよ」
「なら何も、怖れることはないでしょう。これから先、どんなものと対峙しても、私は決して怖れません。貴女がいる限りは」
マリアのその言葉に、ロアはようやく顔を上げた。
先刻までその表情の中にあった険は抜けて、少し子供じみた、恨みがましい顔でマリアに言う。
「マリアはずるくなったね。そんなこと言われたらこれ以上言えないじゃない」
「褒め言葉として受け取っておきます。貴女をうまくなだめられるようになったと」
マリアは少し得意げに微笑んだ。
ロアはちぇ、と言わんばかりに顔を背ける。
丁度その時だった。
曇ったガラス窓の縁に、動くものが見えたのは。
「!」
ロアが急に立ち上がったので、マリアはびくりと肩を上げた。
「なんですか急に?」
「窓の外に誰かいた」
ロアがそろりとドアに近づく。
すると、数秒の沈黙ののち、遠慮がちなノックの音がした。
ロアがそっと、扉を開けると
「……あ、あのっ、おじい様が、おふたりにスープをお出しするようにと」
ロアの腰ほどぐらいまでの背丈の少女が、不自然なほどおどおどと視線を泳がせながら、お盆を抱えて立っていた。
――見られたかもしれないな、とロアは一瞬、気まずげに首を傾けたが、すぐに笑顔を取り繕い、
「ありがとう。頂くよ」
少女には重かったのだろう、ぷるぷると震えている彼女の手からスープが乗ったお盆を受け取り、マリアの前に置いた。
「村長さんのお孫さんですか?」
マリアの問いに、少女は強張った顔のままこくこくと頷く。
恐らくまだ七、八歳だろう。
「こんな夜遅くにごめんね。後片付けはいいから、君はもうお家に帰って寝ていなさい」
ロアが少女に視線を合わせてその黒髪を撫でると、少女は頬を朱に染めながら、非常に申し訳なさそうな目でロアを見た。
「……あの、ごめんなさい、お邪魔して。リーシャはすぐ寝ます」
リーシャというらしい少女に掛ける言葉が見つからず、ロアは頬をかいた。
見かねたマリアがふたりに近づく。
「温かい心遣い、ありがとうございます。貴女も鬼に怯えて怖かったでしょう。もう悪い鬼はいませんから、安心して眠ってくださいね」
マリアが「よそ行き」の顔で優しく言うと、リーシャは髪色と同じ、黒曜石のような瞳を輝かせて嬉しそうに頷いた。
「はい、聖女さま! アンジェラさまの言うとおりでした! 悪い鬼はきっと教会の聖女さまと、聖女さまのつかいまさまが退治してくださるって!」
マリアは目を丸くする。
ロアが悪魔であること――マリアの「使い魔」であることは、余計な混乱を避けるためにこの村の者には一切伝えていないはずだった。
「アンジェラ様って?」
ロアも同じことを思ったのか、リーシャに尋ねる。
「丘の向こうのお屋敷に住んでる魔女様。なんでもお見通しなの。あっ」
リーシャは慌てて自身の口をふさいだ。
「……魔女って言っちゃいけないんだった……。内緒にしててください」
「わかった。内緒にするね」
もう一度ロアがリーシャの頭を撫でると、彼女はほっとしたように顔を綻ばせ、おやすみなさいと言って小屋を出ていった。
ロアは肩をすくめてから、マリアの顔を覗う。
「……魔女だって。先生じゃあるまいし」
「予知能力のある占い師でしょうか。……少し気になります」
「明日会いに行ってみる?」
ロアの提案に、マリアは少しだけ躊躇した。
「良いんですか? 今日だって本当は泊まる予定ではなかったのに。あまり屋敷を空けるのもあれですから、貴女は先に帰っても……」
「それは絶対やだ! マリアの傍から離れない! 何かあったらどうするの!」
再びぴたりとマリアの腕にしがみつくロアに、マリアは辟易の溜息をついた。
「そんなことよりまた誰かに見られたらどうするんですか。子供みたいに甘えるなら屋敷に帰ってからにしてください」
するりと腕を解かれた上にぴしゃりと言われて、ロアはぐぬぬと唇を噛む。
「屋敷に帰ったらいっぱい甘えるからね!?」
「スープ、冷めてしまいますよ。お先にいただきます」
「甘えるからね!?」
「……はあ、美味しい。温まります」
「マリアの意地悪ーー!」
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