女領主とその女中~Femme fatale~

あべかわきなこ

文字の大きさ
3 / 47
悪魔祓いと魔女

2

しおりを挟む
 * * *
 オイルランプの灯が揺れる。
 眠れぬ夜が続いていた。
 夜な夜な、紅茶を淹れてはひとりでそれを啜る日々だ。
 こうして居間で座っていると、今はもう戻らない昔を思い出す。

『紅茶をどうぞ、ご主人様』

 黒髪を器用に結い上げた彼女。
 どこで手に入れたのか、本物のメイドのような衣装を着て、彼女は嬉しそうにティーカップを差し出した。

『良い香り。素敵ね』
『紅茶が? それとも私が?』
『どちらもよ』

 私が言うと、「さすがお姉ちゃん、分かる人はちがうわ」と妹は笑い、上機嫌にくるりと舞った。

『昔よくやったよね、お姫様とメイドごっこ』

 窓から差す暖かな日の光に踊る白いエプロンの裾が、とても可憐だったのを今でも覚えている。

 幼い頃から、ずっと一緒だった妹。
 自由奔放で、しかし才女で、頭の固い私では彼女が何を考えているのか分からないことも多かった。
 両親が亡くなって、家のしがらみがなくなっても、彼女は決して屋敷を出ていくことはなく、ずっと私の傍にいてくれた。

『貴女の才能なら、もっと都会に出てもやっていけるでしょうに』

 私がそう言うと、妹はぷうと頬を膨らませて怒った。

『お姉ちゃんは私がいなくなっても寂しくないの!』
『寂しいわよ』

 即答すると、彼女は照れ臭そうに笑った。

『恥ずかしげもなく言えちゃうお姉ちゃんのそういうとこ、私大好き』

 妹はそう言ってじゃれついてきた。
 それもいつものこと。
 それがいつもの風景だった。
 ともすれば、一生こんな時間が続くのではないだろうかとすら思っていた。
 しかし。
 形あるものがいつか壊れるように、そんな他愛もない陽だまりの時間は突然黒く塗りつぶされてしまった。

 閉ざされていく扉。
 自らの手足を椅子に縛り付けて、彼女はただ真っ直ぐに私を見ていた。

 あのときの、妹の黒い瞳が瞼の裏に焼き付いている。
 目を閉じても、決して薄れることはない。

 熱い紅茶が喉にしみた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」 王立学院の舞踏会。 全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。 努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。 だが、カロスタークは折れなかった。 「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」 怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。 舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。 差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける! これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。 誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!

義妹のギャルに初恋を奪われた話

白藍まこと
恋愛
 水野澪(みずのみお)は、先輩で生徒会長の青崎梨乃(あおざきりの)を尊敬していた。  その憧れの感情から自身も生徒会に入ってしまうくらいに。  しかし、その生徒会では度々だが素行不良の生徒として白花ハル(しらはなはる)の名前が挙がっていた。  白花を一言で表すならギャルであり、その生活態度を改められないかと問題になっていたのだ。  水野は頭を悩ませる、その問題児の白花が義妹だったからだ。  生徒会と義姉としての立場で板挟みになり、生徒会を優先したい水野にとって白花は悩みの種でしかなかった。  しかし一緒に生活を共にしていく中で、その気持ちに変化が生じていく。  ※他サイトでも掲載中です。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...