女領主とその女中~Femme fatale~

あべかわきなこ

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悪魔祓いと女学院

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 ** *
「新しい用務員さんの話聞いた? ミセス・パールがぎっくり腰で療養に入った代わりにとっても若くて綺麗な人が来たって」
「私もマリっちも今朝見たよぉ~。今日はどこもかしこもその話題で持ち切りだね。ほら、あっちのグループもその話してる」

 昼休み。アンナと、その友人のマルガリータと共に中庭で昼食をとる間すらも、マリアはその話題に巻き込まれた。

「これは新聞部としても取材しに行かなくちゃかしら。突如学院に現れた謎の美人用務員! 果たしてその正体は……!? 久しぶりに腕がなるわー」

 新聞部に所属するマルガリータは、オールアップのポニーテールを揺らしながら、楽しげに言う。アンナもにこにこと笑っていた。

「それ皆絶対喜ぶよ。でもアルバ先生の許可下りる? 内容のチェック厳しいんでしょ?」
「先生は厳しいけど、生徒の自主性を大事にしてくださる方よ。きっと許可してくださるわ」

(……これでは悪魔についての聞き取りもままなりませんね)

 内心溜息をつきつつも、どこからどう話題を振っていこうかマリアが迷っている間に昼休憩の時間が半分ほど過ぎていく。
 というより、同年代の少女達のパワフルさを目の当たりにして、マリアは少し気後れしていた。

「ねえ、マリアさんはどうしてこんな時期にうちの学院へ? ご両親のお仕事の関係? すごく素敵な髪色ね。生まれはどこ?」

 新聞部というだけあって、マルガリータは好奇心が強いのか、やたらマリアのことを聞きたがったし

「もーリタ、あんまり質問攻めにしたらマリっちが困るでしょ! 放課後おやつでも食べながらお茶して親睦を深めようよ」
「もしかしてアン、先週配給されたおやつまだ隠し持ってるの?」
「かびてないから大丈夫よ! ね、マリっち、そうしよう! ついでに一緒に明日の予習も……」
「いやだアン、それが目的でしょ?」
「もう! そんなことないわよ!」

 相変わらずアンナは賑やかだった。
 マリアが流されるまま流されていると、マルガリータが時計を気にし始めた。

「ごめんふたりとも、私ちょっと約束があるから先行くね。また放課後」
「はいはーい」

 マルガリータは手早く手荷物を片づけて、学舎のほうへと走っていった。

「新聞部の活動でお忙しいのですね、マルガリータさん」
「んー、あれは新聞部っていうより……逢瀬かな」
「え?」

 突然の浮いた言葉にマリアは思わず聞き返した。
 アンナはフフ、と含み笑いをしながら、そっとマリアに耳打ちする。

「リタ、学院内に好い人がいるみたい。お相手は私も知らないんだけどね」

 マリアは目をしばたいた。

「それは……珍しいことでは、ないんでしょうか?」
「そうだねえ、皆年頃だし……。うちって全寮制じゃない? 閉鎖的だからさ、中で、ってことは結構あると思う。皆うまく隠してるけどね」

 マリアは目から鱗が落ちる思いだった。
 世俗から隔絶されたようなこの学院でも、そういった風土はあるらしい。

「マリっちももしかして興味ある? 前の学校で好きな人とかいなかったの?」
「い、いえ、私は、そういうのは、」
「ふふっ、赤くなってる。マリっちかわいー」

 わしゃわしゃと髪を撫でられて、マリアはさらに赤面する。

「そういうアンはどうなんですか!」
「私!? やだもう、私は秘密よ!」

 アンナはぶんぶんと手を振って立ち上がった。

「ちょっと早いけど次の教室移動しよっか。音楽室遠いしね」

 きっと彼女にも、想い人がいるのだろう。
 アンナの紅潮した頬を見て、マリアはそう思った。



 ** *
「ねーえ、いい加減リタの好い人教えてよ~、私達親友じゃない~~」

 放課後、スミレ寮の一室にて。
 アンナ、マルガリータ、マリアの3人は、お茶を飲みながら明日の授業の予習をするはずが、結局雑談に花を咲かせていた。

「だーめ。どうしても教えてほしいんだったらアンの好きな人も教えて? 私だけ教えるのは不公平でしょ」
「むー、リタは私が絶対秘密にするの分かっててそういうこと言うーー。面白くないーー」

 アンナは机の下で脚をじたばたさせた。
 アンナより少しお姉さん気質のマルガリータは、そんなアンナを嗜めるように言う。

「そういうこと言わない。私は相手にも申し訳ないから言いにくいの。アンはなんでそんなに頑ななの? アンはその人とお付き合いしてるわけじゃないんでしょう?」

 アンナは軽く眉をひそめ、きゅっと唇を結んだ。

「……そうだけど、さ。私は本気で好きだもん。この気持ちも、その人も、大事にしてるの。だから言わないの」

 そう呟いたアンナは、先刻までの子供っぽい表情よりも少し大人びていた。それ以上は立ち入らせない、そんな意思すら感じさせる。

「素敵ですね」

 マリアが思わずそうこぼすと、アンナはふふ、と嬉しそうに笑った。

「で、マリアさんはどんな人がタイプなの?」

 突然マルガリータに話を振られて、マリアは焦る。

「いえ、私……」

 マリアが何を言う間もなく、マルガリータはぱっと片手を伸ばした。

「待って! 当ててみせるわ! マリアさんて真面目そうだから、堅実そうな方がタイプ……と見せかけて、ちょい悪のワイルド系、もしくはちょっとだらしがなくて構ってさし上げたくなる人がタイプ! ……どう、当たってない?」
「…………」

 マリアは思わずある人物を思い浮かべ、口元を隠すように顔に手をやった。
 それを見逃さないアンナは、マリアの脇を肘で小突く。

「おっとぉ? これは図星ですかぁ? ですかぁ?」
「いえ、図星というか、」
「まさかまさかっ! 既にお付き合いされている方がいらっしゃるの!? 遠距離恋愛!? キャー!」

 テンションが上がると声が大きくなるのか、マルガリータが歓声を上げる。

「ちょっとリタ、あんまり大きい声出すと寮母さんに怒られちゃう! しーっ!」
「何よアン、貴女だって常に大きい声じゃないの」
「なんですってぇ?」
「あの、おふたりとも喧嘩は……」

 マリアがおずおずと仲裁に入ると、アンナとマルガリータはきゅっと肩を組んだ。

「なんてね!」
「喧嘩じゃないんだよマリっち、これが普段どおりの私たちなの」

 ふたりのあまりの息のぴったりさに、マリアは思わず吹き出した。

「ええ? そんなにおかしい?」
「いえ、おふたりは仲がよろしいんですね」

 マリアには、肩を組んで笑い合えるような友人はいない。
 作る余裕も、環境もなかった。
 教会でもマリアはとりわけ若く、同年代で同性の悪魔祓いといえば、あのエレン・テンダーぐらいしかいないだろう。

 するとアンナが微かに首を傾げ、マリアに微笑む。

「マリっちもこれから仲良くなるんだよ?」
「そうよ、そんな他人行儀にしないで」
「……」

 そんなふたりの温かい言葉に、マリアは一抹の罪悪感を覚えつつも、そんな言葉をもらえたことに嬉しさを覚えた。

「ありがとうございます」

 その日の夜。
 残念なことに別の被害者の存在が発覚した。
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