0歳からいきなり最強無双〜薔薇の騎士が紡ぐ英雄譚〜

なーさん

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第一章 ローズちゃん0歳。

ジークを助けよう


 「あ」――やべ。

 ローズちゃんは大事なことに気づいた。

 そんなことよりも、ジークをなんとかしなくては。
 もう間も無く死んでしまうところだ。
 生還を約束したのだよ。
 此処で死なせる訳にはいかない。

 小さな手のひらをサッと向けて、ストップのポーズを決めると。

「少々お待ちになってくださいまし。 
 一旦仕切り直しといきませんこと?」

 続いて、奥に見える、倒れてぐったりとしている女性、レヴィアタンを指で差し示し。

「そちらも、あの女性の手当てをした方がよろしいのではなくて?」

 早くしないと、アイツも滅びてしまうぞ。

「あーん?」

 グリュエルドはレヴィアタンに目を向けると、それもそうだなと頷き。

「アレが死んだら俺の仕事が増えるからな。
 どうせ、この中からは逃げられないだろうし、いいぜ、乗ってやるよ」

 逃げられない、その言葉にローズちゃんはほくそ笑む。

 フッフッフ。馬鹿め。
 こんなノミ虫が作った結界など、座標さえ把握してしまえば、自由自在に出入り出来るわ。
 乗っ取ることも容易いことよ。
 逃げるどころか、お前たちが逃げられないようにしてくれるわ。

 ローズちゃんはスカートをちょこんと摘んでお澄まし顔で礼をとる。

「ありがとう存じますわ」

 言って、気絶しているジークにスタスタと歩み寄り、傍らにあった大剣アクアアークをヨイショと拾い上げると、両の手でしっかりと握り締めた。
 ローズの横に等倍、縦には倍はあろうかというデカデカとした黄金の剣である。

 それを顔の前にして、なんとも苦い顔となるローズちゃん。

「これは、なんともはや、センスの悪い、無駄にデカいだけの剣ですわね。
 ジークも使いづらかったでしょうに。
 まぁ、ともあれ、早いところ解除しなくては」

 えーと、魔力を操作してー、この中にある姉様たちの魂が混じっている魔力みたいなモノを解くような感じでー。
 ぬ?
 んん?
 やたらとこんがらがってるな。
 知恵の輪か。
 あ、ジークの生命力が残り少ない。
 これはまずい。
 解くには時間が足りない。
 このままでさジークが死んでしまう。
 良し。
 もう面倒だ。
 このまま勢いで行くことにしよう。

 そう結論付けると、まん丸ほっぺをこの上なく膨らませて、一気に力んだ。

「ふんっ!」

 結果。

 見事に。
 二つに引っ剥がしてしまった。

「やった、成功しましたわ」

 喜色を浮かべるローズちゃんの右手には聖剣アクア、左手に聖剣アークと、二つに分かれた。

「なんとか間に合いましたわね、良かった」

 もうこの二本の剣は用無しなので。

「いらなーい」

 ポイっと放り捨て、ホッと息を吐いた束の間、ローズちゃんの頭の中に。

『ちょっとー!痛いじゃなーい!
 大事に扱いなさいよー!』

 水の女神アクアの苦情という名の神託が届けられ、ローズちゃんの眉間に皺が寄った。

「っ!」

 何だよ、うるせーな、と舌打ちしそうになるのをギリギリで堪えて、できる女の余裕を見せてやることにした。

「フッフッフ、お姉様。
 自分で解除することも叶わず、死ぬ事が前提になるという、そんなイカレタ機能を持つ聖剣アク何某なにがしとやら。
 そんなもの、不良品も良いところでしてよ」

『神力が足りないからしょうがないでしょー!』

 言い訳をするな、たわけ。

「あら、精進が足りないだけではなくて?」

『生意気な妹め』と、抑揚の無い声色で、闇の女神アークからも神託が届けられたが、無視だ。
 こっちはお前たちのお尻を拭いているのだ。
 頭を垂れて、ありがとうございますと礼を述べるべきだろう。
 まぁ、言ったところで、ぎゅあぎゃあ騒がれるだけだから今はスルーする。
 諸悪の根源である姉達への仕置きは死んだ後のお楽しみとする。
 問答無用の鉄拳制裁だ。
 二人がかりでも、十二天使総出で挑んでこようとも圧倒してボコボコにしてみせるわ。
 それが女神たちを統べる月の女神としての責務だ。
 まぁ、正直、余裕で勝利してしまうだろう。

 無事にジークの天使モードが解除され、上半身裸でズタボロの人の姿へと戻ったので、労いの言葉を送る事にした。
 頑張ったご褒美だ。ありがたく頂戴せよ。

「勇者ジークハルトよ、お疲れ様でした。
 勇者としての使命を立派に勤め上げましたわ。
 あとはわたくしに任せてゆっくりと眠りなさい」

 やれやれだ。
 大分、魂を消費してしまったようだ。
 まぁ頑張った結果か。
 とりあえずは、生きてて良かった。

「もう剣を握る事は出来ないだろうけど、普通に生活する分には問題ないでしょう。
 あの兄弟の分まで、アニエスを幸せにしてあげてくださいませ」

 さて、退避させておくか。
 普通の人間になっちゃったし、正直邪魔である。
 コリンナのいる結界の中へと移動させるか。
 私の結界の中ならば安全だ。
 コヤツら大悪魔ごときではびくともしない。

「さて」

 ローズちゃんは目の前の時空を、小さな両の手で外側に開くように。

「むん」

 なんとも雑に、無理矢理こじ開けてしまった。

 次いで、ジークの首根っこをヒョイと掴み上げて。

「可愛いい妹分がお待ちですよ」

 ポイっと外へと放り投げてしまう。

「っ!」

 その一部始終を横目で見ていたグリュエルドが、ギョッとして目を剥いた。

「おっおい!」

「あ、失礼。ちゃんと元に戻しておきますわ」

 言って、空いた穴に手を翳して魔力を込めると、時空の穴が元通りに。

「なんだと!」

 さらに大きく、目を剥き出しにして驚くグリュエルド。

 結界をこじ開けるという行為は、結界の主人の魔力を上回っている事を意味する。
 しかもこんなに雑に、一瞬で、ふざけたようにやってのけるなど前代未聞である。

「お前は、一体」

 言ったまま固まってしまうグリュエルド。
 その背後から低い女の声で独り言が聞こえてくる。

「いやはや、夢中になっていて覚えていないが、どうやら不覚をとったようじゃ」

 グリュエルドに魔力を分けて貰ったレヴィアタンが、フラフラとしながら立ち上がった。
 身体全体が薄汚れている。
 全快するまでの魔力は戻っていないのだ。
 フルパワーの十分の一にも満たないだろう。

「あらあら」

 そのなんとも弱々しい姿に、ローズちゃんは眉を八の字にした心配顔をわざとらしく見せて。

「そちらの方は、まだ万全ではないのでは?
 少々足下が覚束なくてよ」

 言って、手のひらで闇の魔力で黒玉をパパっと作ってしまうと、レヴィアタンに向けて放り投げた。

「っ!」

 それを慌ててお手玉のようにして受け取るレヴィアタン。

「お、お」

 玉はそのままするりと体内に吸収される。

「お、お、お」

 すると、薄汚れていた体が綺麗に元通りとなる。

「お、お、お、おお」

 両の手を見回すレヴィアタン。

「そんな、まさか」

 目を見開き、驚愕の貌で信じられないと呟く。

「わ、妾の魔力が、全快した、だと」

 ローズちゃんは肩を竦めて戯けるような仕草で言う。

「お待ちいただいた事への、ほんのお気持ちですのよ。
 大した魔力ではありませんわ」

 本当に大したものではない。
 一呼吸我慢するくらいで回復する量である。
 すー、はー、はい、これで終わりだ。
 元通りである。
 コイツらなど、この程度のものよ。

「なんだと?」

 ジロリと、グリュエルドがローズを睨みつけ。

「敵に塩を送るとは、どういうつもりだ」

 言われたローズちゃんは、心外だと、再度、戯けるように肩を竦めて、キッパリはっきりと言いきる。

「あらあら、わたくしは王者。
 強者として、弱者に施しを与えるのは当然ですわよ」

 ふふんと鼻で笑うその顔は、侮っているのがありありとしている。

「ほう。余裕だな」

 頬を引き攣らせながら強がり笑いをするグリュエルドに、ローズちゃんはニッコリと頷いてやる。

「ええ、余裕ですのよ、本当にね」

 本当の本当に余裕なんだよ。
 大悪魔如きノミ虫を万全にしたところで大差などないだろうが。
 やれやれだ。
 もう良いだろう。
 まだボス戦も控えているんだ。
 こちとらまだ0才なんだよ。
 早く帰って、乳吸った後、ヒゲとボインの狭間で幸せに寝たいのだよ。

「さぁ、そろそろ始めましょうか」

 ――超眠ーい。

 ローズちゃんは次から次へと込み上げてくる欠伸を堪えながら言った。
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