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第一章 ローズちゃん0歳。
ドキドキしながら反応を待ったところ、居た堪れなくなってしまったのでイケメンをお持ち帰りした。
しおりを挟む大聖女の命の危機にかろうじて間に合ったローズちゃんは安堵の息を吐いた。
「ふう、どうやら間に合ったようですわね。
間一髪でしたわ」
神眼で見た大聖女の悲壮な表情から只事ではないと察知し、神眼のレベルを上げて内情を覗いた結果、アイツら双子に魂を捧げようとしている事が判明した。
やれやれだ。
魂を神力に変換する事は可能だが、精々数分が良いところだ。
焼け石に水である。
「命を粗末にしてはいけませんわよ」
大聖女は驚きの表情で私に問いかけてくる。
「あ、貴女が銀髪の神の御子様なのでしょうか?」
おお、こんなちびスケにも敬語とは。
出来た大人だな。
コレが大聖女か。
良い歳した壮年のはずだが、しかし若いお姉さんにしか見えない美貌のボインだ。
完璧なスタイルに目を奪われてしまう。
ピッタリとした聖女服がエロエロである。
これも女神の魔力による恩恵か。
アイツら美に関してだけは優秀だからな。
其処だけは認めてやろう。
そしてコレは、強い。
人族の中では群を抜いている。
身体中に巡らせている魔力が洗練されていて、常日頃から身体強化を施しているようだ。
常在戦場の模範的な心意気よ。
流石は武を尊ぶ神聖国のトップか。
「あの可愛いのが救世主様?」
「え?マジ?」
「食べちゃいたい」
「手品師みたいなメガネだね」
周りの興味津々にコチラをガン見してる四人の聖女たち。
ふざけた様子だが、コレらも、お強い。
間違いなく人族最高レベルだろう。
うむ。
聖騎士たちは上空の堕天使を警戒して、必死に大楯を構えているから小さな私に気づいていない。
マジメか!
しかしイケメン揃いだな。
まぁ、コイツらは防御力だけだな。硬いだけの正しく壁よ。
まぁとりあえず、名乗りの時、三度来たる、だ。
スンと、お澄まし顔となり、スカートをちょこんと摘んだカーテシーの礼を取って、いざ名乗りをあげる。
「皆様。初めまして。
わたくしの名前は怪盗ロー……おっと、失礼」
危ない。いきなりやらかすところだった。
「え?怪盗?」
いかんいかん。仕切り直しだ。
同じ轍は踏まぬ。
「コホン。えーー、改めさせていただきますわ」
胸の薔薇に手を添えて、再びの名乗りを。
「わたくしの名前は、怪盗テレスティんんっ!!
ゴホンゴホン!」
安直に母上様の名前にしようかと思ったが、胸に家紋が入っている事に気づいて、慌てて取りやめた。
あ、危なかった。
母上様は超有名人だからな。
この家紋を我が騎士団のマークにしている訳だし。
こんなの関係者だとバレバレ、たちまち身バレしてしまうだろう。
「え?」
「怪盗?」
「テレスティ?」
「えーと」
もう、何でもいいか。
「失礼、わたくしの事は、ただの怪盗、でお願い致しますわ」
もう面倒くさくなったので、ただの怪盗にした。
捻ったところで、此処でしか使わないし。
コレで良いのだ。
しかし。
しかし。
だがしかし。
次の聖女の一人から問われる言葉に、やや投げやり気味になったローズちゃんは衝撃を受ける事となる。
「え?何?泥棒さんなの?」
聖女の一人がキョトンした顔で、そう問うた。
瞬間、ローズちゃんの脳裏に電撃が走る。
「っ!」
――な、なんですとーーーっ!!!
怪盗さんの首がグリンと勢いよく回り、その聖女の方を向く。
凄い勢いでガン見だ。圧が凄い。
仮面でわかりにくいが、どこまでも真剣な眼差しである。
これにはその場にいる全員が息を呑んだ。
――これは来た。千載一遇のチャンス到来である。
ローズちゃんには数多の英傑たちの記憶が宿っている。
その中には様々な名台詞があるのだ。
その中の一つ、ローズちゃんの言ってみたいセリフがやってきたのである。
ただの怪盗さんは、ちょっと震えながら仮面メガネをクイっと掛け直し。
「そ、そうですわ」
コクリと緊張しながら頷くと。
「わたくしが泥棒さんですわ、フッフッフ」
ニヒルな笑みで勿体つけた後。
胸の薔薇に手を添えて。
漲る情熱を。
万感の想いを込めて。
生えある名台詞を此処ぞとばかりに告げる。
「貴女の心を盗みに参りました」
フッと口端を持ち上げて、素敵な笑顔の残心をピタリと決めた。
思わずポッと頬を赤らめてしまうことだろう。
あっはっは、そんな馬鹿なと突っ込んでくれても良い。
さぁさぁどうする?
恋が始まるのか?
はたまた。
笑いの渦が巻き起こってしまうのか?
ローズちゃんはドキドキと、そしてワクワクしながら反応を待った。
…………
…………
…………
え、そんな、馬鹿な。
まさか、まさかの。
誰も反応せず。
瞬きすらもしてくれない。
時が止まってしまったのかとローズちゃんは思った。
序章に戻ってしまったのかと思った。
またやり直さなければならないのかと思いつつも、もう少しだけ待つことにする。
笑うのを溜めていて、一気にドカンと来るかもしれない、そんな予感がしないでもないし。
或いは、恋に落ちた衝撃でフリーズしているのかもしれないのだから。
…………
しかし。
待てども待てども。
時が動く事はなかった。
コレは気まずい。
――い、息が苦しーい!
これには鋼のメンタルを持つローズちゃんでも流石に居た堪れなくなり、この冷えた場からの緊急脱出を試みることとする。
「とおっ!」
ジャンプ一番、ビューンっと逃げるように、上空まで一っ飛び。
「くっそ~、アザゼルめ。おまえのせいだ」
このなんともやるせない思い、八つ当たりはあのイケメン堕天使にしてやろう。
薔薇薔薇拳でバラバラにしてやるぜ!
◇◇◇◇◇
場面は上空五十メートル。
八つ当たりが迫り来るアザゼル周辺へと移る。
「やれやれ、ようやく消えたか。アバズレ天使め」
無事に邪魔者が消えたので、地上の聖女たちに目を向けて殺気を放った、その瞬間。
「ごきげんよう」
突然。
「っ!」
鼻が擦れるくらいの超至近距離にローズちゃんが現れ、ギョッとしてクールな美丈夫顔が崩れた。
「あらあら、ビックリさせてしまいましたわね」
ほう、これは、また、凄いな。
びっくり顔でも、此処までのイケメンとは。
私が思春期だったら惚れていたかも知れんほどの美丈夫よ。
どれ、ここは一つ、最高の誘い文句を決めてやるとしよう。
パチンと天使のウインクを落としつつ。
「わたくしの世界へと誘いますわよ、イケメン殿」
チュッと桜色の唇を窄めて投げキッスするのと同時に、固まるアザゼルの胸ぐらをガッと掴み、空いている方の手で時空をこじ開けると、その中へと強引に引きずり込んだ。
初ナンパだ。イケメンのお持ち帰りに成功する。
「え?消えた」
残された人々の時は、ようやく動き出した。
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