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第一章 ローズちゃん0歳。
ちょっと煽ってやったら、簡単にブチ切れやがった。
しおりを挟む大魔王サタンは、悪役に相応しいムシケラを見るような見下した目で、ラスボスみたいなことを言ってのける。
「脆弱なる人間風情が!塵芥にしてくれるわ!」
絶対に負け犬となるだろうセリフとの会敵に、思わずにやけてしまいそうになる。
しかし緊張感を保つ為にお澄まし顔は続行だ。
さあ見せてみよ、抗ってみせよ、大魔王サタンよ。
お前の敗北一直線への私のシナリオから逃れてみせるがいい。
今のところアドリブのセリフを合わせると百点満点中、二百点の出来、完璧過ぎて感無量である。
初手の奇襲で私を殺しかけたところから始まり、そんなスーパーヒーローが絶対絶命を命からがら逃れ、そしてパワーアップしてリベンジを果たすという完璧過ぎる流れだ。
これ以上に考えられない見事なラスボスぶりよ。
お捻りを弾みたいくらいだ。
あとはアヤツが滅びるというラストのみ。
私はもう既に、お前が逃走を選択し、その逃げ道を防ぐ策までを講じている。
その運命を断ち切ることが出来るかな?
そんなことをニヤニヤと考えていたら、サタンが口端を上げて告げる。
「先ずは小手調べに一発だ」
宣言通りに一発の弾丸が発射された。
シュン、と。
それは瞬く間に、私を守る神の手を突き破り、我が眉間に迫り来る。
「おっと」
それを、ビシッと虫を払うようかのように手の甲で払いのけ、チラリと弾いた先に目を向ける。
よしよし、目論見通りだと安堵する。
それはともかく、さすがの大魔王だ。
ノミ虫のグリュエルドとは格が違う。
私の魔力障壁を問題無く突き破る絶妙な強さだった。
人族の肉体は脆い。
急所に当たれば即死もあり得るし、傷を負うだけで動きが鈍る。
それを可能とする致命の弾丸だった。
ならば良し。計算通りである。
それだけの威力を秘めた魔弾を雨霰と撃てば、それだけのエネルギーを消費するという事よ。
まったくもって狙い通り。
二倍差ある魔力を削り、最終的にはこのサタンの領域に干渉出来るまで頑張る所存だ。
この領域はアヤツの力を十倍にまで高めている。
それが覆った時の阿呆づらが今から楽しみである。
十倍に高めて私の二倍だぞ。それが私の方が五倍になってしまうんだぞ。
唯一上回っていた圧倒的な魔力だ。
コイツの心の拠り所だろうに。
それさえもが圧倒的な差をつけられてしまうのだ。
全てにおいて、私が上回ってしまうのだ。
グリュエルドと同じノミ虫の存在になってしまうのだ。
もう勝ち筋が完全に途絶えてしまうのだぞ。
わっはっはっはっはっは!
早く大きな声で笑ってやりたい。
そんな大笑いをこらえながら、チラリと腕組みをしてコチラを見守っている夜叉猿に目配りをする。
よしよし。
夜叉猿がニヤリと口端を上げるのを確認した。
どうやら、私の意図が伝わったようだ。
「クックック。
弾丸はちゃんとお前の肉まで届き得るようだな。
人族の娘、覚悟は良いか?
今更命乞いをしても、もう遅い。
此処からも絶対に逃さぬ、そして必ず殺す」
「む」
もう既に勝ちを確信したのか、サタンが見せたドヤ顔にイラっとしたので煽ってやる事にした。
ローズさんは冷めた目つきで淡々と言う。
「御託はもう結構ですのよ。
正々堂々、真っ向から受けてやりますわ。
そして、アッサリと跳ね返してあげます」
此処で、親指で鼻頭をビッとカッコ良く擦り、クイっと手招きをしてから、低く、とてもカッコいい声色で堂々と言い放つ。
「つべこべ言わずにかかってこい。
この、大海を知らぬ痴れ者が」
「こ、小娘がああああああああああああああ!」
「わわわ」
びっくりするくらいに激昂したよ。
サタンのブチ切れを合図に、左右の魔法陣からの一斉射撃が始まる。
毎秒十かける四となる絶え間なく降り注ぐ、致命の弾丸による土砂降りの雨だ。
まったく、びっくりさせるなよ。煽り耐性が低過ぎるだろ、アイツ。
まぁ、でも、それにしてもと感心する。
勢いだけのグリュエルドと違って正確な射撃である。
全ての弾丸が、ちゃんと私まで到達している。
無駄玉もない。
私を殺し得る絶妙な威力とコントロールだ。
一発でも喰らえば、そこから綻びが生じて、たちまち蜂の巣になり得る。
ま、喰らえばのおはなしなんだがな。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
雨霰と絶え間なく降り注ぐ黒い弾丸を、私は氣を纏わせた左右の手で拳で腕で肘で、撃ち、弾き、払い、滑らせて、或いは脚技でまとめて薙ぎ払ってやる。
「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
ただひたすらに、淡々と、真摯に、打ち払い続ける。
前受け、外受け、揚げ受け、下段払い、肘外受け、膝払い、などなどの鉄壁の防御術。
その数々の演舞を恐ろしい速度で繋ぎ、それをひたすらに繰り返す。
正直こんな短調な攻撃など、いくら続けても無駄というものだ。
何処から飛んで来るのかも明白なモノを、それもまったく同じ速度。
せめて隠蔽をかけるとか緩急をつけるとかで工夫してくれよ。
ただの作業過ぎて、眠たくなってきたぞ。
特にミスもなく、やがては慣れが生じて、十分が経過したところで、思わず欠伸が出そうになる。
本当に眠いのだ。こちとら赤子だよ。結構な活動限界である。
そこで、此処は一つと、眠気覚ましに気合いを入れることとする。
両の脇をキュッと締め、息を吸いこむ。
勢いよく「ヒュオッ」と一息に。
お目目がパッチリとして、スッキリと目が覚めた。
【息吹き】という呼吸術である。
本来はトドメとか、ここぞというところで使うものだ。
瞬間、爆発的に身体能力が向上するというものだが、景気付けにもなる。
「良し、リフレッシュ完了ですわ」
元気溌剌となり、引き続き作業に終始する。
カツカツと弾く音を鳴らし続ける。
ひたすらに演舞を舞うように。
何度かウトウトとしながらも、しっかりと舞い続け、全ての弾丸のシャットアウトを続ける。
無心だ。
もう何も考えなくとも勝手に身体が動いている。
居眠りしても大丈夫なのでは?なんて思い始めた三十分が過ぎたあたり。
「あら、終わったのかしら?」
ピタリと、黒い雨が止んだ。
「はーはっはっはっは!馬鹿め!」
射撃タイムが終わった途端、サタンがいきなり笑い始めた。
「見事な防御術だ。褒めて遣わすぞ、人間。
いくら撃ったところで無駄になりそうだな。
だが、それもこれで終わりよ。
受け流せないほどの圧倒的なパワーを放てば良いのだ!」
サタンの背後には。
闇より黒い、漆黒が広がっている。
「おお。真っ黒ですわ。陰気くさいですわね」
正体は五つ目の魔法陣だ。
唯一、弾丸を吐いていなかったその魔法陣のエネルギーチャージが完了したのである。
「む」と、神眼を凝らして鑑定してみる。
ふむふむ。
まぁ確かに受け流すにはちょっと難しそうなエネルギーではあるな。
視界全面、見渡す限りの闇が広がる圧倒的な質量だ。
頑張ったところで、そのまま飲まれて消えてなくなってしまいそうではある。
しかし、だ。
「アイツは何故にわざわざ口に出したのだろうか。
有無を言わずに放てば良いのに。
それに、あれだけ派手なエネルギーを秘めた魔法陣だ。
気づかない方が難しいのだが。
アイツの真後ろで広がっていることだしな」
ローズさんは思わずお嬢様口調を忘れるほどに呆れかえってしまった。
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