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第1話 親友は勇者 オレは巻き込まれモブ
今の自分の状況を一言で説明すると……『勇者召喚に巻き込まれたモブ』だ。
負けず嫌いなオレ――志水千隼は今、人生最大の敗北を味わっている。
今まで何でも競い合ってきた親友に、これでもかと格の違いを見せつけられているようだ。
白地に黄金の装飾が施された豪華な壁と柱、水晶がふんだんに使われたまばゆいシャンデリア。
赤い絨毯が敷かれていて、天蓋がある壇上には金のゴテゴテした玉座。
そこには、恰幅のいいひげ面の王様が座っている。
コスプレ? セット? と戸惑ったが、どうやらここは本当に異世界で、ふざけているわけではないらしい。
王様の近くには、姫であり聖女だという女性――ローゼンセ・アウローラが立っている。
高校生のオレと同年代だと思うが、腰まである波打つ豊かなストロベリーブロンドが華やかだ。
凛々しい表情、背丈も172センチあるオレと同じくらいで、迫力のある美女だと思う。
彼女は、オレの親友の剣崎京平を「勇者様」と歓迎してくっついている。
京平は身長185センチで体もたくましい。
欧州生まれの父を持つハーフなので明るい茶髪に青い目で、海外のモデルみたいな容姿だから、美男美女で似合っているが……オレの疎外感がすごい。
何も説明して貰えないまま、オマケとしてここに連れてこられて放置されているオレは置物のようだ。
黒髪黒目だから、日本人形として飾られているのか?
高校の授業が終わり、制服のままバッティングセンターに行こうとしていたオレと京平は、気がついたら知らない森にいた。
呆然としているところに現れた騎士たちに保護され、すぐに城に連れて来られた。
わけも分からないうちに持ち合わせている能力——スキルの鑑定をされていたらしく、京平は勇者認定された。
なんでも、『物理貫通攻撃』とか『全属性ブースト』とか『エクスプロージョン』とか『アブソリュートゼロ』とかサンダーなんたらなど、説明がなくてもすごいと分かるスキルがてんこ盛りだったそうだ。……厨二かな?
「我が魔法国アウローラでは、数百年感覚で『宿根塔』と呼ばれている魔物が巣くう塔が出現する。先日、それが出現する兆候が確認されたのだ。勇者様には、塔が出現したら最上階にいる魔王を倒して貰いたい。そうすれば塔は再び眠りにつく」
王様が玉座から偉そうに話を始めている。
対面している京平は、王様に負けないくらい偉そうな顔だ。
いつも愛想がないしクールな奴だが、異世界に来てもブレないな。
「倒しても塔はまた現れる――。枯れても根は残って何度も咲く『宿根草』みたいだから『宿根塔』か。倒してもまた出てくるなら、放っておけばいいじゃないのか?」
「放置すれば塔の外に魔物が溢れだし、魔王も凶悪化する。だから、塔が出現したら、早急に対処しなければならないのだ。これまでも我が国は、勇者を召喚して助力を願い、国の危機を乗り越えてきた。勇者よ、どうかこの国を救ってくれないだろうか」
完全にモブと化したオレの前で、京平を主人公とした物語が進んでいる。
「倒したら、元の世界に帰れるのか?」
「それは……申し訳ない。『召喚』はできるのだが、『帰還』の技術はないのだ」
「えっ」
完全に置物人形化していたオレだったが、これには思わず声がでた。
オレは関係ないみたいだから帰りたいのだが……。
もう家族に会えない?
子どもの頃から一緒に暮らした飼い猫の『しらたま』にも会えない?
今までの思い出やたくさんの友達の顔が、走馬灯のように頭に駆け巡った。
絶望感に襲われ、頭が真っ白になる――。
「千隼」
「?」
京平に話しかけられてハッとすると、周囲がオレに注目していることに気がついた。
置物に何か用でも?
「何?」
「俺の要望には何でも応えてくれるらしいから、とりあえず城で暮らすことにした。お前もそうするだろ?」
「え?」
突然そんなことを聞かれても困る。
「お前は勇者みたいだけど……オレは何をすればいいんだ? スキルとかも聞いてないけど……」
「あ、そうだな。千隼のスキルは何だったんだ?」
京平から質問された聖女は、気まずそうにしながらもこちらを見た。
この聖女、目つきが嫌なんだよなあ。
姫だし聖女だから偉い人なのは間違いないのだが、人を見下すような目をしている。
「ご友人のスキルは……『小回復』です」
「しょ、小回復?」
ただの回復でもなく……『小』?
それを聞いた周囲の誰かが「くっ」と笑うのを堪えた。
他にも堪えている人がいるようで、俯いたり隣の人とこそこそ話しているのが見える。
悪意のあるざわめきが広がっている――。
「小回復? それはどういうものだ?」
聞かなくてもショボいと分かるのに、京平はわざわざ質問した。
悪気はなく、純粋に聞いているのがこいつの質が悪いところだ。
こういう空気が読めないところがあるのは、親友だから分かるけどさ……。
京平の質問に、聖女はどこか嬉しそうに答えた。
「風邪などの体調不良や軽い怪我を癒すことができます。魔力が少ない者でも持っている、ありふれたスキルですわね」
大体想像した通りでげんなりする。
異世界にきて、持っていたスキルが小回復だけって……。
「ははっ。それなら戦闘にでるのは危険なんじゃないか? まあ、魔王退治には風邪薬代わりに連れて行ってやるよ」
京平の言葉に周囲は堪えられなくなったのか、どっと笑いが起きた。
王様も「はっはっは」と大きく口を開けて豪快に笑っているし、聖女も「勇者様は愉快な方ですのね」と上品に笑っている。
「…………」
今の京平の言葉は、仲がいいからこその冗談だと分かる。
でも、元の世界に帰ることができない、しらたまにも会えない、という絶望的な状況で馬鹿にされ……オレの心は折れた。
それはもうぽっきりと――。
折れたところから、怒りや絶望が混じったドロドロしたものが溢れてくる。
ここを出ても行く場所はないが……とにかく一人になりたくて、オレはこの場から出ていくことにした。
「千隼? どこに行くんだ?」
「うるさい! 勇者のお前に関係ないだろ!」
「!」
歩き出したオレに京平が声をかけてきたが、怒りを我慢できず思わず怒鳴ってしまった。
驚いている京平の顔を見て申し訳なく思ったけど、今は怒りが勝っているから一緒にいたくない。
「千隼、待てって……!」
京平が追ってこようとしたが、聖女が京平の腕を掴んで止める。
「わたくしは優れた回復魔法の使い手、聖女です。勇者様は、わたくしがお支えしますので、風邪薬は必要ありませんわ」
「いや、今のは冗談で……千隼!」
京平の引き止める声がしたけれど、オレは足を止めなかった。
ちらりと後ろを見てみると、聖女だけではなく大勢に囲まれて追ってこられないようだった。
少しホッとしながら、オレはその光景に冷めた目を向けたあと、この場を立ち去った。
負けず嫌いなオレ――志水千隼は今、人生最大の敗北を味わっている。
今まで何でも競い合ってきた親友に、これでもかと格の違いを見せつけられているようだ。
白地に黄金の装飾が施された豪華な壁と柱、水晶がふんだんに使われたまばゆいシャンデリア。
赤い絨毯が敷かれていて、天蓋がある壇上には金のゴテゴテした玉座。
そこには、恰幅のいいひげ面の王様が座っている。
コスプレ? セット? と戸惑ったが、どうやらここは本当に異世界で、ふざけているわけではないらしい。
王様の近くには、姫であり聖女だという女性――ローゼンセ・アウローラが立っている。
高校生のオレと同年代だと思うが、腰まである波打つ豊かなストロベリーブロンドが華やかだ。
凛々しい表情、背丈も172センチあるオレと同じくらいで、迫力のある美女だと思う。
彼女は、オレの親友の剣崎京平を「勇者様」と歓迎してくっついている。
京平は身長185センチで体もたくましい。
欧州生まれの父を持つハーフなので明るい茶髪に青い目で、海外のモデルみたいな容姿だから、美男美女で似合っているが……オレの疎外感がすごい。
何も説明して貰えないまま、オマケとしてここに連れてこられて放置されているオレは置物のようだ。
黒髪黒目だから、日本人形として飾られているのか?
高校の授業が終わり、制服のままバッティングセンターに行こうとしていたオレと京平は、気がついたら知らない森にいた。
呆然としているところに現れた騎士たちに保護され、すぐに城に連れて来られた。
わけも分からないうちに持ち合わせている能力——スキルの鑑定をされていたらしく、京平は勇者認定された。
なんでも、『物理貫通攻撃』とか『全属性ブースト』とか『エクスプロージョン』とか『アブソリュートゼロ』とかサンダーなんたらなど、説明がなくてもすごいと分かるスキルがてんこ盛りだったそうだ。……厨二かな?
「我が魔法国アウローラでは、数百年感覚で『宿根塔』と呼ばれている魔物が巣くう塔が出現する。先日、それが出現する兆候が確認されたのだ。勇者様には、塔が出現したら最上階にいる魔王を倒して貰いたい。そうすれば塔は再び眠りにつく」
王様が玉座から偉そうに話を始めている。
対面している京平は、王様に負けないくらい偉そうな顔だ。
いつも愛想がないしクールな奴だが、異世界に来てもブレないな。
「倒しても塔はまた現れる――。枯れても根は残って何度も咲く『宿根草』みたいだから『宿根塔』か。倒してもまた出てくるなら、放っておけばいいじゃないのか?」
「放置すれば塔の外に魔物が溢れだし、魔王も凶悪化する。だから、塔が出現したら、早急に対処しなければならないのだ。これまでも我が国は、勇者を召喚して助力を願い、国の危機を乗り越えてきた。勇者よ、どうかこの国を救ってくれないだろうか」
完全にモブと化したオレの前で、京平を主人公とした物語が進んでいる。
「倒したら、元の世界に帰れるのか?」
「それは……申し訳ない。『召喚』はできるのだが、『帰還』の技術はないのだ」
「えっ」
完全に置物人形化していたオレだったが、これには思わず声がでた。
オレは関係ないみたいだから帰りたいのだが……。
もう家族に会えない?
子どもの頃から一緒に暮らした飼い猫の『しらたま』にも会えない?
今までの思い出やたくさんの友達の顔が、走馬灯のように頭に駆け巡った。
絶望感に襲われ、頭が真っ白になる――。
「千隼」
「?」
京平に話しかけられてハッとすると、周囲がオレに注目していることに気がついた。
置物に何か用でも?
「何?」
「俺の要望には何でも応えてくれるらしいから、とりあえず城で暮らすことにした。お前もそうするだろ?」
「え?」
突然そんなことを聞かれても困る。
「お前は勇者みたいだけど……オレは何をすればいいんだ? スキルとかも聞いてないけど……」
「あ、そうだな。千隼のスキルは何だったんだ?」
京平から質問された聖女は、気まずそうにしながらもこちらを見た。
この聖女、目つきが嫌なんだよなあ。
姫だし聖女だから偉い人なのは間違いないのだが、人を見下すような目をしている。
「ご友人のスキルは……『小回復』です」
「しょ、小回復?」
ただの回復でもなく……『小』?
それを聞いた周囲の誰かが「くっ」と笑うのを堪えた。
他にも堪えている人がいるようで、俯いたり隣の人とこそこそ話しているのが見える。
悪意のあるざわめきが広がっている――。
「小回復? それはどういうものだ?」
聞かなくてもショボいと分かるのに、京平はわざわざ質問した。
悪気はなく、純粋に聞いているのがこいつの質が悪いところだ。
こういう空気が読めないところがあるのは、親友だから分かるけどさ……。
京平の質問に、聖女はどこか嬉しそうに答えた。
「風邪などの体調不良や軽い怪我を癒すことができます。魔力が少ない者でも持っている、ありふれたスキルですわね」
大体想像した通りでげんなりする。
異世界にきて、持っていたスキルが小回復だけって……。
「ははっ。それなら戦闘にでるのは危険なんじゃないか? まあ、魔王退治には風邪薬代わりに連れて行ってやるよ」
京平の言葉に周囲は堪えられなくなったのか、どっと笑いが起きた。
王様も「はっはっは」と大きく口を開けて豪快に笑っているし、聖女も「勇者様は愉快な方ですのね」と上品に笑っている。
「…………」
今の京平の言葉は、仲がいいからこその冗談だと分かる。
でも、元の世界に帰ることができない、しらたまにも会えない、という絶望的な状況で馬鹿にされ……オレの心は折れた。
それはもうぽっきりと――。
折れたところから、怒りや絶望が混じったドロドロしたものが溢れてくる。
ここを出ても行く場所はないが……とにかく一人になりたくて、オレはこの場から出ていくことにした。
「千隼? どこに行くんだ?」
「うるさい! 勇者のお前に関係ないだろ!」
「!」
歩き出したオレに京平が声をかけてきたが、怒りを我慢できず思わず怒鳴ってしまった。
驚いている京平の顔を見て申し訳なく思ったけど、今は怒りが勝っているから一緒にいたくない。
「千隼、待てって……!」
京平が追ってこようとしたが、聖女が京平の腕を掴んで止める。
「わたくしは優れた回復魔法の使い手、聖女です。勇者様は、わたくしがお支えしますので、風邪薬は必要ありませんわ」
「いや、今のは冗談で……千隼!」
京平の引き止める声がしたけれど、オレは足を止めなかった。
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