親友は勇者 オレはケモ耳男子校で保健室の先生はじめます

花果唯

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第3話 それはびっくり

 豪華なエリアを通り過ぎ、良く言えば少し落ち着いた印象、率直に言うとグレードが下がったエリアの一室の扉の前でユキヒョウ獣人は足を止めた。
 そして、ノックをすることなくバンッと開ける。
 引っ張られるままに部屋の中に入ると、椅子に座って本を読んでいた男性と目が合った。

 肩まである菫色の髪に、暗い緑のローブを身にまとっている。
 アラフォーくらいの印象だがとても美人で、濃い紫の目が知的で優雅な雰囲気だ。
 ただ、顔の左半分に大きな傷がある。
 ……昔やんちゃしてた人? ギャップがあってかっこいい。

「おかえり、リッカ。帰りが遅いから心配していたよ。……おや、お客さんを連れてくるなんて初めてだね」

『リッカ』? このユキヒョウ獣人の名前のようだ。
 この国ではどんな意味、どんな印象の名前なのか分からないが、可愛い名前だなあ。
 態度はあんまり可愛くないけど。

「先生、この人に頭痛を治して貰った。学校に連れて帰ろう」
 
 拾ったものを『家』に持って帰る、とかなら分かるが……『学校』?
 そういえば、この人を「先生」と呼んでいたが、教師と生徒という関係?
 いや、その前に連れて帰るってどういうこと!?

「君の頭痛が……治った?」

 あれ、先生は「学校に連れて行く」よりも、頭痛が治ったことに驚いている。

「本当だ。この人の魔法で治ったんだ。しかも、『小回復』らしい」 
「……にわかに信じられませんが」 

 先生は訝し気にリッカとオレを見た。
 
「本当だ。頭はもう痛くなくなったから……こうしよう」 

 そう言うと、リッカは爪で自分の腕を引っ搔いた。 
 獣人の爪は鋭いようで、腕に刻まれた痛々しい三本の傷から血が流れる。
 うわああああっ、見ているだけでも痛い!
 
「何やってるんだよ!」 

 驚くオレに、平然と腕を突き出してくるリッカ。 

「さっきみたいに治してよ」 
「は? まさか、治すのを見せたいからこんなことしたのか?」 

 そうだけど? と軽く頷くリッカに怒りが湧く。サイコパスかよ!
 とにかく、この痛そうな傷を治さないと……。 
 えーと……まだ、ちゃんとした魔法の使い方が分からないから、さっきと同じ手段を取るしかないか。 

「いたいのいたいの とんでいけ」 

 傷を直接触ると痛いだろうから、ぎりぎりのところに手をかざす。 
 すると、まだぽわっと光って傷が消えていった。 

「なんと……本当ですね」 
「ほら」 

 リッカが得意げな顔をしているが、治したのはオレだからね? 

「…………」 

 治るのを興味深そうに見ていた先生は、顎に手を当てて考え込んでいる。 
 この沈黙の間に、オレは言いたいことを言うことにする。 

「お前さ、治せたからよかったけど、わざとこんなことするんじゃないぞ!」 
「?」 

 何で? という顔にもイラッとした。 

「自分を大事にしろ! それに、目の前でこんなことされたら心配するだろ!」 
「!」 

 リッカはガラス玉みたいな目をまん丸にして驚いている。 
 ……どこに驚きポイントがあるって言うんだ。 
 目の前で自傷行為する奴がいたら、みんな同じことを言うだろ。 
 そんなことを考えていたら、リッカが真顔で抱き着いてきた。 

「先生。これ、絶対持って帰ろう」
「オレを物みたいに言うな! 離れろって」

 本物のユキヒョウなら嬉しいが……自分より大きな男に抱き着かれても嬉しくない! 

「……は? どうして僕が? お前から離れろ」

 そう言うと、またオレを軽く突き飛ばした。
 はああああっ!?

「お前、何なの!? 抱き着いてきたのはお前だろ!」
「知らない」

 真顔でそっぽを向くリッカに、思い切り蹴りを入れたくなった。
 3キックくらいは許されるよな!?

「リッカが人にこんなに懐くなんて驚きです」
「いや、懐てるなら突き飛ばしませんよね!?」
「ははは。本能に意識が追いついていないんだと思いますよ」
「はい? 意味分かんない」

 見ていた先生が笑っているが、オレは怒ってます。

「面白いものを見せて頂きました。あ、ご挨拶が遅れてすみません。私はリッカが在籍している全寮制の学校で教師をしている『シオン』と申します」 

 全寮制……。
 なるほど、それで「連れて帰る」という表現になるのか。 

「あなたのお名前を伺っても?」 
「あ、オレは千隼と言います。えーと……異世界から来ました」 

 この世界でも握手はあるようで、手を差し出されたのでそれに応える。 

「ほう、異世界人ですか。勇者召喚が成功した、と耳にしましたが、あなたのことでしたか」 
「あー……それは友達で、オレは巻き込まれちゃっただけの人間です。ハハ」 

 すごくない方で残念だったですね、と自嘲する意味を込めて言ったのだが、シオン先生は顔を明るくした。
 
「それはいい。運命の巡り合わせかもしれません」 
「はい?」 
「あなたは元の世界に帰ることはできませんよね? 今後、どこで生活をするか決まりましたか?」 
「それは……まだ。考え中です」 

 今一番聞かれると困る質問に思わず俯いた。
 お金もなければ住むところもない。
 この世界の常識も分からないし、お先真っ暗ゴートゥーヘルコースだ。

「じゃあ、やっぱり僕の学校に来るべきだ」 

 そっぽを向いていたリッカが会話に参加してきたが、つき飛ばしたり連れて行こうとしたり、本当にお前は何なんだ……。
 ジーッと睨むと、またそっぽを向いたリッカをスルーして先生に質問する。

「それは……生徒になれ、ってことですか?」 
「生徒でも、教師でも……いや、いるだけでも構いません。ただ、あなたのスキルで生徒たちを救って欲しいのです」 
「救う、って……オレのスキル、『小回復』だけど」 

 それこそ京平が言うように、風邪薬ぐらいにしかなれないと思うのだが……。 

「あなたの世界に獣人はいましたか?」 

 突然の質問に驚きながらも答える。 

「想像上の生き物としてはいますけど、存在はしていません」 

 首を横に振ると、先生は頷いて話を始めた。 

「獣人とは、リッカのように獣と人の特徴を持つ種族です。獣人は魔力の耐性が強いので、魔法攻撃に強いという良い面がある一方、魔法による回復がまったく効かないのです。ですから、怪我や病は基本薬での治療となるのです」 

 日本人のオレからすると、魔法を使わずに治すのは普通だけれど……。 
 手術をしなくても一瞬で病気や、大きな怪我を治すことができる世界ではとても不便だろうなあ。 

「でも、オレの『小回復』は効いたけど?」 
「ええ、ですから驚いています。獣人を魔法で治せるのは、今まで聖女だけでしたから」
「えっ」
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