6 / 32
第6話 オレと京平
「どこに行くんだ」と怖い顔で睨まれて思わず答えそうになったが、さっき「聖女が危険」と忠告されたことを思いだした。
京平にオレの居場所を教えると聖女にも伝わるかもしれないから、教えない方がいいだろう。
「えーと……遠いところ?」
目を反らしなが答えると、京平の不機嫌オーラが増した。
「何だそれ……ちゃんと場所を言え。というか、お前も城にいろ。何日かしたら、塔ができる場所の近くへ出発することになるようだが」
「へえ、そうなんだ? オレは行かないけどがんばれよ! 怪我したら、しっかり聖女に治して貰うんだぞ? 平和も大事だけど、お前の身の安全が一番だからな。そのうち会いに行くよ」
そう言って別れ、改めて出発しようとしたのだが……京平は手を放してくれない。
どうしたものかと悩んでいると、オレを掴む京平の手に手刀が入った。
「チハヤ、行こう」
手刀はリッカのもので、驚いた京平が手を放した瞬間、今度はリッカに手を引っ張られた。
「……誰だ?」
京平がリッカと後ろにいるシオン先生を睨んでいるが、オレが答える。
「これからオレがお世話になる人たちだよ」
「…………」
京平のリッカとシオン先生を睨む視線が、一層鋭くなる。
でも、リッカとシオン先生は平気そうだ。
勇者の覇気なのか、親友のオレでもちょっと怖いと思うし騎士たちも青い顔をしているのにすごいな。
「千隼、変な奴らについて行くな」
京平は二人を威圧することから、オレの説得に戻った。
一歩オレに詰めてきたが「来るな」と止める。
「変な奴、って何だよ。二人のことを何も知らないくせに失礼なことを言うな」
会ったばかりだけれど、獣人という立場に苦労しながらもがんばって暮らしているのは分かるし、これからお世話になる人達を悪く言われるのは腹が立つ。
強く言い返すと京平は一瞬戸惑っていたが、すぐに言い返してきた。
「こっちに来て知り合ったばかりの連中だろ!? お前だって大して知らないだろ!」
その通りだけど、オレの人を見る目を信用しないのか!? とまた苛立った。
「そうだな! それでも、これからお世話になりたいって思ったんだよ! オレはオレの好きにする! オレがこういう性格だって、お前は知ってるだろ? だからもう止めるな! 行かせてくれ!」
そう伝えると、京平は苦い顔をしたまま黙った。
「『風邪薬』ってからかったこと……悪かった」
「!」
京平を見ると、珍しく弱弱しい顔をしていて驚いた。
普段は中々謝らないし、謝るとしても強気を崩さなくて「謝ってやってもいいけど?」というスタンスだったのだが……。
それほど反省したってことなのかな。
オレもカッとしちゃったけど、ケンカ別れをしたいわけじゃない。
そう思うとすぐに冷静になれた。
「別にいいよ。いつものおふざけだって分かってるから。あのとき、オレもキレて怒鳴っちゃったし、ノリが悪くてごめ――」
「そうじゃなくて!」
一際大きな声で遮られて驚く。
何がそうじゃないのか分からないけれど、京平は何かを必死に伝えようとしているのは分かる。
「行くなよ! お前だけは、得にならなくても俺のそばにいてくれるんだろ!?」
「!」
そう叫ぶ京平の顔を見て、子どもの頃のことを思い出した。
転校してきた京平がクラスで浮いていた頃――。
しつこく勝負をしかけ、そのうち普通に友達として絡み始めたオレに、京平が問いかけてきた。
『俺といても何も得しないのに、どうして一緒にいるんだ?』
あとから聞いたのだが――。
京平が幼い頃、忙しい父親が珍しく休日にいたので『遊んで欲しい』と頼むと、『得るものがない。京平も塾にでも行った方が将来のためになる』と言われたそうだ。
それから京平は、『得がないと時間を使う意味がない』と思うようになったらしい。
クラスメイトと仲良くなっても、休日に遊ぶこともなければ、自分よりも能力が劣る者から得るものなんてない。
だから、クラスメイトから話しかけられても必要最低限しか話さなかったそうだ。
『別に得にならなくても一緒にいてもいいだろ。っていうか、楽しいから得になってるじゃん』
そう答えたオレに、当時の京平は目を見開いて驚愕していたなあ。
京平の両親は忙しい人で、参観日にも来たことがない。
習いごとが多くて友達と遊ぶ時間もなかったし、オレからすれば「情報を詰め込むだけのロボットか?」と思うくらいに、子どもらしい時間を過ごすことはないようだった。
多分、京平は自分では気づいていなかったようだが、寂しかったのだと思う。
オレと遊ぶようになって、ようやく笑うようになった気がするし、『楽しい』『楽しくない』『好き』『嫌い』を言うようになったと思う。
……今でも空気は読めないけどさ。
「これを機にオレ以外にも友達を作ってみろよ」
友達じゃなくなるわけではないが、オレとはいつでも会える環境じゃなくなる。
それにオレと仲良くなってからは人を寄せ付けない感じは薄くなったけれど、友達が増えたらもっと生きやすくなるんじゃないかな。
「オレもちょっとは役に立てるようになったら、必ず会いに行くから」
封印のことは話せないけど、いつか風邪薬じゃないぞ! と自信を持って言えるようになったら力になりたい。
そう思って、『お互い頑張ろう!』の笑顔を向けたのだが、京平の顔はみるみる怒りに染まっていった。
「なんだよ、それ……ふざけんな! 離れるなんて許さないからな!」
再び京平がオレの腕を掴んできた。
掴む力が強くて痛い。
「痛いな、離せっ!」
「お前はここで俺と一緒にいるんだ!」
「チハヤが痛がってるだろ」
抵抗しているとリッカが京平を強く突き飛ばし、オレは離れることができた。
「早く行こう!」
京平がふらついている間に、リッカがオレを担いで走り始めた。
先生もそれに並走する。
「ちょっと! さすがにこれは恥ずかしいんだけど! 自分で走るから下ろせ!」
「舌を嚙まないように黙っておいて。人間のチハヤでは僕たちのスピードについてこられないから」
「!」
オレが遅い……足手まといってこと!?
ずっと「足が速い」と褒められて生きてきたオレにはダメージが大きい。
でも、たしかにすごいスピードで京平が遠ざかっていっているから、オレが走ったら置いてきぼりになりそうだ。
「待て!! 千隼を連れて行くな!!」
大人しく運ばれるか、と思っていたら、京平がリッカに負けない勢いで追いかけてきた。
異世界にきて勇者補正がかかっているのか、オレと競い合っていたころより何倍も早い!
「貴重な転移札だったんですけどね。致し方ありません」
追跡に気がついた先生が、お札のようなものを取り出して破った。
高価なものっぽいのに、破ってしまっていいの!?
光がオレたちを包むと、少し目の前が白くなりくらりとした。
京平にオレの居場所を教えると聖女にも伝わるかもしれないから、教えない方がいいだろう。
「えーと……遠いところ?」
目を反らしなが答えると、京平の不機嫌オーラが増した。
「何だそれ……ちゃんと場所を言え。というか、お前も城にいろ。何日かしたら、塔ができる場所の近くへ出発することになるようだが」
「へえ、そうなんだ? オレは行かないけどがんばれよ! 怪我したら、しっかり聖女に治して貰うんだぞ? 平和も大事だけど、お前の身の安全が一番だからな。そのうち会いに行くよ」
そう言って別れ、改めて出発しようとしたのだが……京平は手を放してくれない。
どうしたものかと悩んでいると、オレを掴む京平の手に手刀が入った。
「チハヤ、行こう」
手刀はリッカのもので、驚いた京平が手を放した瞬間、今度はリッカに手を引っ張られた。
「……誰だ?」
京平がリッカと後ろにいるシオン先生を睨んでいるが、オレが答える。
「これからオレがお世話になる人たちだよ」
「…………」
京平のリッカとシオン先生を睨む視線が、一層鋭くなる。
でも、リッカとシオン先生は平気そうだ。
勇者の覇気なのか、親友のオレでもちょっと怖いと思うし騎士たちも青い顔をしているのにすごいな。
「千隼、変な奴らについて行くな」
京平は二人を威圧することから、オレの説得に戻った。
一歩オレに詰めてきたが「来るな」と止める。
「変な奴、って何だよ。二人のことを何も知らないくせに失礼なことを言うな」
会ったばかりだけれど、獣人という立場に苦労しながらもがんばって暮らしているのは分かるし、これからお世話になる人達を悪く言われるのは腹が立つ。
強く言い返すと京平は一瞬戸惑っていたが、すぐに言い返してきた。
「こっちに来て知り合ったばかりの連中だろ!? お前だって大して知らないだろ!」
その通りだけど、オレの人を見る目を信用しないのか!? とまた苛立った。
「そうだな! それでも、これからお世話になりたいって思ったんだよ! オレはオレの好きにする! オレがこういう性格だって、お前は知ってるだろ? だからもう止めるな! 行かせてくれ!」
そう伝えると、京平は苦い顔をしたまま黙った。
「『風邪薬』ってからかったこと……悪かった」
「!」
京平を見ると、珍しく弱弱しい顔をしていて驚いた。
普段は中々謝らないし、謝るとしても強気を崩さなくて「謝ってやってもいいけど?」というスタンスだったのだが……。
それほど反省したってことなのかな。
オレもカッとしちゃったけど、ケンカ別れをしたいわけじゃない。
そう思うとすぐに冷静になれた。
「別にいいよ。いつものおふざけだって分かってるから。あのとき、オレもキレて怒鳴っちゃったし、ノリが悪くてごめ――」
「そうじゃなくて!」
一際大きな声で遮られて驚く。
何がそうじゃないのか分からないけれど、京平は何かを必死に伝えようとしているのは分かる。
「行くなよ! お前だけは、得にならなくても俺のそばにいてくれるんだろ!?」
「!」
そう叫ぶ京平の顔を見て、子どもの頃のことを思い出した。
転校してきた京平がクラスで浮いていた頃――。
しつこく勝負をしかけ、そのうち普通に友達として絡み始めたオレに、京平が問いかけてきた。
『俺といても何も得しないのに、どうして一緒にいるんだ?』
あとから聞いたのだが――。
京平が幼い頃、忙しい父親が珍しく休日にいたので『遊んで欲しい』と頼むと、『得るものがない。京平も塾にでも行った方が将来のためになる』と言われたそうだ。
それから京平は、『得がないと時間を使う意味がない』と思うようになったらしい。
クラスメイトと仲良くなっても、休日に遊ぶこともなければ、自分よりも能力が劣る者から得るものなんてない。
だから、クラスメイトから話しかけられても必要最低限しか話さなかったそうだ。
『別に得にならなくても一緒にいてもいいだろ。っていうか、楽しいから得になってるじゃん』
そう答えたオレに、当時の京平は目を見開いて驚愕していたなあ。
京平の両親は忙しい人で、参観日にも来たことがない。
習いごとが多くて友達と遊ぶ時間もなかったし、オレからすれば「情報を詰め込むだけのロボットか?」と思うくらいに、子どもらしい時間を過ごすことはないようだった。
多分、京平は自分では気づいていなかったようだが、寂しかったのだと思う。
オレと遊ぶようになって、ようやく笑うようになった気がするし、『楽しい』『楽しくない』『好き』『嫌い』を言うようになったと思う。
……今でも空気は読めないけどさ。
「これを機にオレ以外にも友達を作ってみろよ」
友達じゃなくなるわけではないが、オレとはいつでも会える環境じゃなくなる。
それにオレと仲良くなってからは人を寄せ付けない感じは薄くなったけれど、友達が増えたらもっと生きやすくなるんじゃないかな。
「オレもちょっとは役に立てるようになったら、必ず会いに行くから」
封印のことは話せないけど、いつか風邪薬じゃないぞ! と自信を持って言えるようになったら力になりたい。
そう思って、『お互い頑張ろう!』の笑顔を向けたのだが、京平の顔はみるみる怒りに染まっていった。
「なんだよ、それ……ふざけんな! 離れるなんて許さないからな!」
再び京平がオレの腕を掴んできた。
掴む力が強くて痛い。
「痛いな、離せっ!」
「お前はここで俺と一緒にいるんだ!」
「チハヤが痛がってるだろ」
抵抗しているとリッカが京平を強く突き飛ばし、オレは離れることができた。
「早く行こう!」
京平がふらついている間に、リッカがオレを担いで走り始めた。
先生もそれに並走する。
「ちょっと! さすがにこれは恥ずかしいんだけど! 自分で走るから下ろせ!」
「舌を嚙まないように黙っておいて。人間のチハヤでは僕たちのスピードについてこられないから」
「!」
オレが遅い……足手まといってこと!?
ずっと「足が速い」と褒められて生きてきたオレにはダメージが大きい。
でも、たしかにすごいスピードで京平が遠ざかっていっているから、オレが走ったら置いてきぼりになりそうだ。
「待て!! 千隼を連れて行くな!!」
大人しく運ばれるか、と思っていたら、京平がリッカに負けない勢いで追いかけてきた。
異世界にきて勇者補正がかかっているのか、オレと競い合っていたころより何倍も早い!
「貴重な転移札だったんですけどね。致し方ありません」
追跡に気がついた先生が、お札のようなものを取り出して破った。
高価なものっぽいのに、破ってしまっていいの!?
光がオレたちを包むと、少し目の前が白くなりくらりとした。
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中