親友は勇者 オレはケモ耳男子校で保健室の先生はじめます

花果唯

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第19話 返り討ち

「ハウル。お前、前から思っていたが気持ち悪いぞ」
「! き、気持ち悪い……?」

 吹っ飛ばされた体勢のまま床に転がっている狼獣人の生徒――ハウルが、仲間のスノウから非難されてショックを受けている。

「さようなら」

 どういう意味なのか分からないが、リッカが分かれの言葉を送りながら、足をあげて蹴りの体制に入った。
 スノウも同時に同じ動きをしている。
 え、また蹴るつもり!?
 そこまでしなくても! と思っていたら、いつの間にか近づいていたキオウ先生が素早く二人を左右に抱えた。

「一度目は大目にみたが、これ以上はやりすぎだ」
「「…………」」

 スノウとリッカの足が浮いていて、ぷらんと揺れている。
 高身長の二人を余裕で抱えて抑えるなんて、キオウ先生のパワーはすごい!
 二人もキオウ先生には反発する気がないのか、なすがままになっている。
 しばらくそのままでいてください。

「まったく、チハヤ先生に変なこと言わないでよね!」

 ハウルに向けて、アリスが立ち上がって怒り始めた。

「え、あ……アリスちゃん、今のは冗談で……!」
「笑えない! ほんと気持ち悪い!」
「! そ、そんな……」

 学校のお姫様なアリスに嫌われてハウルは涙目だ。
 残念ながら君の青春は終わったのかもしれない……。

「生理的に受けつけませんね」
「!」

 アリスの近くに座っているカンガルー獣人のシャルも、一緒に軽蔑のまなざしを向けた。
 雑食獣の獣人グループにいるクコもこくこくと頷いて同意している。

「うっ……ゴミを見るような目でおいらを見ないで……」
「まあまあ。お姫さんたち、そう怒らないでやってくれ」

 寮長のライオン獣人が立ち上がると、そう言いながらポケットに手を突っ込んでハウルに近づいて行った。
 リッカやスノウと同じくらい背が高く、筋肉もついて逞しい。
 長めのゆるい巻き毛が後ろに流れていて、ライオンのたてがみのように見える。
 赤に近いオレンジ色なので、何か魔法を使えるのかもしれない。
 寮長ということもあり存在感がある。

「バリー……!」

 まだ蹴り飛ばされて倒れたままになっているハウルは「救世主が来た!」という目でライオン獣人の生徒――バリ―を見上げたのだが……。

「まったく、お前は学習しねえなあ」
「あうっ! ひどい……うぅっ……」

 バリーにまで軽く蹴られ、ハウルは突っ伏して泣き出してしまった。
 オレは気にしていないのに、こんなにフルボッコにされてちょっと可哀想……。

「それにしても、同時におんなじ動きして、やっぱりお前ら仲良しじゃん。ほんとに兄弟なんじゃない?」
「「違う」」

 二人がバリーを睨むが、キオウ先生に抱えられたままなので迫力がない。
 バリーも同じことを思ったのか、二人を鼻で笑うとアリスの方を見た。

「なあ、アリス。許してやってよ。ハウルはいつものノリで絡んじゃったんだよ」
「…………」

 気やすく話しかけるバリーに、アリスは険しい顔をする。
 なんとなく、バリーに嫌悪感を持っているように見える。
 寮長同士だが、あまり仲良くないのだろうか。

「……いつものノリって、いつも気持ち悪いってこと?」
「! ぐすっ……」
 
 アリスの言葉に、ハウルは突っ伏したまま反応した。

「そうそう。いつもの気持ち悪さ」
「……うああああん!」

 とうとう大きな声を出して泣き始めたが、誰もフォローしていない。
 優しさの塊、シュロ先生でさえスルーしている。

「『許してやって』って言うけど、謝るならボクにじゃなくてチハヤ先生にだと思うけど?」

 アリスに指摘されたバリーは、「たしかに」と肩をすくめてオレを見た。

「先生、ハウルを許してくれるよな?」
「いいよ。次から気をつけてね」

 オレは怒っていないし、もう十分すぎる仕打ちを受けただろう。
 だから突っ伏しているハウルにそう声をかけたら、「はい……」という弱弱しい返事があった。
 これで一件落着、と思ったのだが……。

「…………」

 バリーがオレのことをジーッと見ていた。
 何? と聞こうとしたら、やっとキオウ先生に下ろして貰った二人がオレの前に立った。

「お前はチハヤと直接話すな」
「ハウル以上にお前は禄でもない」

 リッカがオレのマネージャーのようなことを言い、スノウはバリーを威嚇し始めた。
 え、スノウとバリーって楽しそうに話しながらご飯を食べていたのに。
 仲がいい人にそんなことを言われるバリーって……実は性格に難あり?

「おーおー。兄弟そろってお姫様を守る騎士になっちゃって」
「「違う」」
「じゃあ、お姫様と話をさせてくれよ」
「「断る」」

 リッカとスノウは見事にシンクロして守ってくれているが……。
 別に守ってくれなくても大丈夫だぞ?
 二人の間から割って出ると、オレはバリーに話しかけた。

「オレは姫じゃなくて保健室の先生、な。それで、何?」
「姫先生、俺も実は頭痛がひどくてさ。治して欲しいなあ」
「姫じゃないって。頭痛?」

 それは大変、治さないと……って、どうもみても元気そうだ。
 本当か? と見つめ返したのだが、バリーは涼しい顔で笑っている。
 痛いのを我慢しているようには思えない。……きっと嘘だ。

「お前は頭が悪いだけでは痛くはないだろ」
「そうそう」

 リッカの言葉にスノウが頷く。

「スノウとリッカは黙ってろ! ほらほら、みんなの前で治してよ。先生のスキルが効くって証明になるだろ?」

 もしかして……。
 オレに治させたあと、「治ってない、まだ痛い」と言って困らせるつもりか?
 アリスがちょっと険悪な感じをだしていたのは、こういうことを仕掛ける性格のせいかも?

「バリー。悪い癖が出ているぞ。本当は頭痛なんて——」

 シュロ先生も嘘だと思ったようで、止めに入ろうとしてくれたが、オレは大丈夫だと笑ってみせた。
 これくらいのアクシデント、自分で解決しないとな。

 オレはバリーの前に立つと、丁寧に「いいこいいこ」をするように撫でながらスキル『小回復』を使った。

「いたいのいたいの とんでいけ」

 体調不良はなくてもスキルは発動するようで、オレの手はぽわっと光った。
 頭を撫でられて少し戸惑っていたバリーも、それが分かったようで……。

「治してくれてありがとう。でもさ、俺の頭痛はまだ――」
「どう? 人前で貶めてやろうって性根の悪さ、治った?」
「!」

 言葉を遮ってそう聞いてやると、バリーが目を丸くして驚いた。
 見守っていた周りも、きょとんとする感じで驚いていたのだが……。

「ははっ!!」

 静かな空間に、リッカの笑い声が響いた。
 それにも周囲が驚いている。

「お前、そんな顔で笑えるんだな」

 スノウも驚いてそんなことを言っているが、オレはまだ言いたいことがあるので、バリーに改めて向き合った。
 何か言われることを悟ったバリーが、少したじろいでいるように見える。

「バリー、これで治っていい子になってないなら……本当に体調が悪いとき、治してやらないからな? 分かった?」
「…………っ!」

 顔を覗きこんでニコリと笑うと、バリーは固まった。
 少し反応を待ってみたが、反論はないのか動かない。
 ふふ、勝った! っと思っていたら――。

――ぱちぱちぱちっ

「?」

 なんだ? と思ったら、シオン先生とシュロ先生が拍手していた。

「うまいね、バリーを返り討ちにしてやったじゃん!」

 シュロ先生がそう言ってくれたので、オレはへへっと照れてしまった。
 拍手は生徒たちにも広がって、アリスとシャルが興奮気味に近寄ってきた。

「チハヤ先生、かっこいい……大人の魅力、って感じでした!」
「男を虜にするサキュバスのようでしたよ!」
「サキュバス!?」

 オレは『子どもを叱るお兄さん』のつもりだったのだが、どういう解釈をされたんだ!?

「チハヤ先生、魅了のスキルが発現したのでは……?」
「!?」

 シオン先生の言葉に、オレは身を乗り出した。
 もうオレの能力の封印が解け始めた!?

「え、ほ、本当に?」
「いえ、まだ『小回復』だけです」
「…………」

 期待させるような冗談はやめてください!

「スキルがなくても人を魅了できる方が素敵ですよ」
「はあ……」

 褒められた、のか? と首を傾げていたら、また頭に覚えのある重みが乗った。

「リッカ、顎を置くな」
「チハヤ。最高だったけど、もうバリーに触っちゃだめ」
「おい、クソヒョウ! 先生にくっつくな!」

 リッカとスノウが近くで揉め始めたが……。
 もう集会は終わりですか?
 オレの保健室の先生としてのスタート、大丈夫そうですか!?
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