その火遊び危険につき~ガチで惚れたら火傷した模様~

ちろる

文字の大きさ
52 / 85

52

しおりを挟む
***

「嘘……ですよね?」

 開店準備を終えようかという時、パウダールームで時也ときやさんが話し掛けてきた言葉に俺は瞠目どうもくした。

「まだわかんねぇ……。今日は欠勤かもしれねぇけど……あんなことがあって連絡もなく出勤しないってことは飛んだ可能性もあるってことだ。それでなくともあれ以来真夜まやはお前と目も合わせないくらい萎縮してただろ?」

 〝飛ぶ〟というのは所謂いわゆる、突然音信不通になって店をバックレて消えてしまうということだ。

売掛金うりかけきんはあったんですか……?」

「いや、真夜の客は金払いがいいから売掛金はないと中川なかがわさんが言ってた」

「……そうですか」

 売掛金とはホストに料金を立て替えてもらう〝ツケ〟という意味で、月末に客から回収することになっていて、(昨今ではこの制度をなくそうという動きが見られるが)これを回収せずに飛ぶと真夜が責任を負うことになる。

 『ネロック』はバックに反社会的勢力――暴力団などのフロント企業が経営の背景にあるなどということは無いから真夜に売掛金がないのであれば、失踪したとて自宅や実家にまで追われることはないだろう。

 だが、一度飛んでしまうとこの狭い歌舞伎町界隈、噂はあっという間に仁義を重んじる水の世界に広まり、また違う店でホストを続けるのは困難になる。

 まして真夜は老舗『ネロック』の新星ナンバーツーとして名が知れ渡っているからもしも飛んだりしたら、客の間にも噂が広まってたちまち悪名を轟かせるだろう。

 店によっては遅刻や欠勤などの勤務態度で罰金が発生する場合もあるが、『ネロック』は九条くじょうさんの信条によりその始末はない。

 それに、真夜のことを息子のようだと言っていた九条さんは真夜がしばらく姿を消したとしてもきっとおとがめはないはずだ。

 しかし、真夜に心酔している太客ふときゃくたちの信頼は損ねてしまうし、ナンバースリー入りはもう無理になってしまうかもしれない。

 歩合制ぶあいせいのホスト業界で指名のないキャストの収入など微々たるもので、とてもホスト一本では食い繋げないだろう。

 そんなことになったら、真夜はまた男娼の道へ戻ってしまうのではないだろうか。

 今日だけの欠勤なら、明日はきちんと出勤してくれたら何の問題もないし、九条さんに恩義があるから店を辞めることはしないと言っていたらしいけれど、もしもこのまま飛んでまた身を売るしかなくなってしまったから……。

 完全に、俺のせいだ――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...