こんな僕の想いの行き場は~裏切られた愛と敵対心の狭間~

ちろる

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 結局、僕はあの後、無理やり吐精させられて。
 シャワーを浴びる羽目になって、着替えを済ませてからなんとか暖人はるとと一緒に待ち合わせ時間に間に合い、焼肉屋『徳寿福とくじゅふく』に辿り着いた。

 店の前に、もう来栖くるす先輩が来ていた。
 近寄ってきた僕たちに気づいて目をしばたたかせていた。

日高ひだかくん? 何で?」

「来栖先輩、今日はどうも。俺が来ちゃ邪魔でした? 葵晴あおはと俺の話を訊きたいんすよね? 葵晴のことなら俺が何でも話せますんで」

 途端、冷や汗が出る。
 こいつは僕の何を語るつもりだ。確かに六年も付き合ってたんだから、僕のことなら何でも知っているけれど、何でも知っているだけに何を喋り出すかわかったもんじゃない。

「まぁ、いいか。入ろう? 二人共」

 来栖先輩が促してくれて僕たちは店内に入る。
 すぐに四人席に案内されて暖人が僕の隣に、来栖先輩が僕の正面に座った。

 注文した肉が一通りテーブルの上に揃うと、暖人がためらいなく先陣を切って焼き始める。何でお前が仕切ってるんだよ、お前は部外者だろうが。僕とはもうただの仕事仲間なんだから。

「すみません、来栖先輩。余計なの連れてきちゃって……」

 来栖先輩が僕の顔を窺い見た。
 僕は何となく目を合わせにくくって、暖人がよそってくれたカルビを口に含む。

「で、椎名しいながゲイで二人は付き合ってたって本当なの? 日高くんが浮気して椎名を傷つけた元カレなの?」

「そうっすよ。俺のちょっとした気の迷いで……でも俺はやっぱ葵晴を愛してるんで」

 ああ、もうやめてくれ……。
 どの口が愛してるとか言ってるんだよ。僕はこの三ヶ月、来栖先輩に散々泣き言を言って慰めてもらっていたのに、これじゃあ変な誤解を生ませてしまう。

「俺は、椎名がどれだけ傷ついていたかを知ってる。椎名がどれだけ憔悴していたかわかってるの?」

「わかってますよ? だから、戻ってきたんです。葵晴を傷つけたこと、償おうと思って」

 来栖先輩が険しい顔を暖人に向けた。
 僕はその瞳に感動を覚える。来栖先輩は本当に僕のことを心配してくれていて、僕のために怒ってくれているんだ。

「椎名の家に住み着くのは違うんじゃないの? 退職したとはいえ貯金くらいあるよね?」

「そうっすね。だけど俺は葵晴とやり直したいんで。でも──」

 おい、何だよ。何を言うつもりだ。
 暖人の言葉にビクビク怯えていると、来栖先輩が「でも?」と訊き返した。

「葵晴、来栖先輩のことが好きとか言い出すんすよ。なので、牽制に来ました」

 終わった──。
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