こんな僕の想いの行き場は~裏切られた愛と敵対心の狭間~

ちろる

文字の大きさ
34 / 56

34

しおりを挟む
 家に帰ると今日も暖人はるとが待っていてくれた。
 キッチンに立って鍋の中のカレーを温め直してくれている匂いがする。

「おかえり、葵晴あおは。大丈夫か? 飯食おう?」

 でも、僕は何故だかさっきタクシーで帰っている途中から頭がふわふわしていて、身体が怠くて、それから窄まりが酷く痛んで、フラフラしながらリビングの扉を開けたところで。

「暖人……なんか、具合悪い……」

 暖人がコンロのガスを止めて近付いてきた。
 僕の額に手を当てる。その動作に、自分で支えられていた重心が支えられなくなって、暖人の胸に身を預ける。

「葵晴、すげぇ熱あんぞ? 風邪か? 大丈夫か?」
 
 言いながら、僕を横抱きにして寝室の扉をくぐりベッドに降ろしてくれた。
 ネクタイを引き抜かれて、シャツを脱がされ、スラックスのベルトに手がかかる。

 朦朧とする頭の中で、また傷ついたそこを見られたくないという意識が働いて手首を掴んでみたけれど、暖人がそれを制して下着ごと引き下げた。

 拳を握りしめているのがわかった。
 暖人のスウェットの胸に力なく、指を震わせながらしがみつく。

「暖人、来栖くるす先輩はね……僕が暖人の傍にいるのが気に食わないから、僕を捕まえてるんだって。暖人が僕の家を出て行ったら、来栖先輩の勝ちで、そしたら僕とはもう寝なくて済むんだって……。セフレ以下の関係だったよ……僕たち……。暖人……痛いよ、全部全部痛いよ……」

 堪えきれなくなった涙がはらはらとこめかみを伝う。
 暖人が無言で救急箱から軟膏を取り出して、僕の窄まりに優しく塗り込んで、黙ってスウェットに着替えさせられた。

「葵晴、もう喋んな。明日、一緒に病院へ行くぞ。今日はもう、なんも考えずに寝ろ」

 リビングへ戻っていった暖人が、額に貼る冷感シートを持ってきてくれて、僕の額に貼って、その上から掠めるように口付けた。

 一緒に、ベッドの中に入ってきてくれる。

 僕を包み込むように抱きしめて、「死にてぇのは俺の方だよ、葵晴。俺は、最低だ。アイツよりも、最低だ」それだけ呟いて、静かに肩を震わせた。

 暖人の言うとおりだよ──。

 言うとおりなのに、僕は何故だか縋るように、熱で上気している腕を暖人の背に回してしまって。

「死ぬなんて言わないで……暖人」

 暖人の瞳から流れる涙を指で拭ってあげたら、 指先から伝染したように僕の瞳からも涙がこぼれた。

「だから、もう喋んなって。早く寝ろ」

 そう紡がれた暖人の声は、どこまでも震えていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...