こんな僕の想いの行き場は~裏切られた愛と敵対心の狭間~

ちろる

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 翌朝、暖人はるとに「気ぃつけて行って来いよ」と見送られて出勤すると、皆がかたわらに近寄ってきてくれて、心配の言葉をかけてくれた。

 ポンと、頭に大きな手の平が乗って、動悸を打つ。

椎名しいな、おはよう。大丈夫?」

 来栖くるす先輩の、まるで何もなかったかのような態度に胸がヒリつく。

 病名を社長にしか公表していなかったから、来栖先輩の行為のせいで休んでいたとは思い至っていないんだろう。

「大丈夫です。来栖先輩も大丈夫でしたか? 暖人に殴られたって……」

「ああ、クビになって清々してるよ。もう椎名も日高ひだかくんに苦しめられることもなくなったしね? やっぱり、俺が勝った」

 来栖先輩の負けだよ──。

 そう思ったことは言葉には出さなかった。

 だって僕は来栖先輩の暖人への敵対心と、僕への興味本位な気持ちで傷ついて。自分から縋ったことだけれど傷ついて。

 結果、今もまだ暖人が好きだから。

 もう、暖人とは元には戻れないから、そういう意味では、来栖先輩の勝ちなのかもしれないけれど、でも来栖先輩の負けだよ。

「そうですね。来栖先輩の勝ちですね。でも──」

 そこで言葉を切ると来栖先輩が僕の瞳を覗き込んだ。

「僕はまた、暖人を好きになっちゃいました。お陰様で、暖人は家を出ていくし、もう元には戻れませんけど」

 来栖先輩がクスクスと笑った。
 勝ち誇ったように、にこやかな視線を向けた。

「残念だったね? 椎名。あんな男と一緒にいたせいだよ? 俺が、正しい道へ戻してあげたんだ。俺の役目も、もう終わり。今度はちゃんとした男捕まえなよ?」

 僕は拳を握りしめて、涙が滲みそうになったけれど、ここで泣いたら本当に僕の負けだ。

「ありがとうございました」

 にっこり笑みを返すと、来栖先輩はもう何も言わず去っていった。
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