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ディスプレイに“暖人”と表示されたスマートフォンが絶えず振動を繰り返して、震える指で受話器マークをスワイプする。
だけど──。
「もしもし」と言えなかった。
自分から電話したくせに、いざ暖人から電話が返ってくると、何を話したらいいのかわからなくなってしまって、何も言葉が出てこなかった。
暖人の息遣いが聴こえる。息を呑んだのがわかった。
『……葵晴? この番号、葵晴だよな? 俺、葵晴の声、すげぇ聴きたかった……』
堰を切ったように涙がこぼれる。
「暖人の……バカ。なんで、こんな時間まで電話に出ないんだよ……。もう二十三時過ぎてるよ? どこの女と一緒にいるの?」
『悪ぃ、俺、今、システムエンジニアやってんだ。終業遅くて、やっと仕事が終わったとこで……。スマホ見たら葵晴から電話来てて、すげぇ嬉しくて……。女なんているわけねぇだろ』
電話の向こうで暖人が鼻をすする音が聴こえて、泣いてるんだって思ったら、僕も、つられるように鼻をすする。
「暖人……まだ、僕のこと……忘れてない?」
『言ったろ? あの日。俺はもうずっと葵晴以外を見れねぇって。どうやったら忘れられんのか訊きてぇっつーの。電話くれたの、何で? 来栖になんかされたか? 助けて欲しいから連絡くれたんだろ? 俺に出来ることなら何でもすっから、言ってみ?』
──本当に何でもしてくれる? 僕、暖人を信じてもいい?
「本当? 本当に何でもしてくれる?」
『葵晴の頼みなら何でも聞くっつってんだろ?』
じゃあ、僕、今からすごいワガママ言うよ?
呆れちゃうくらいワガママ言うよ?
「何でも?」
『ああ、何でも』
だったら──。
「今すぐ、僕を攫いにきて? 明日じゃ、やだ。すぐ逢いたい」
だけど──。
「もしもし」と言えなかった。
自分から電話したくせに、いざ暖人から電話が返ってくると、何を話したらいいのかわからなくなってしまって、何も言葉が出てこなかった。
暖人の息遣いが聴こえる。息を呑んだのがわかった。
『……葵晴? この番号、葵晴だよな? 俺、葵晴の声、すげぇ聴きたかった……』
堰を切ったように涙がこぼれる。
「暖人の……バカ。なんで、こんな時間まで電話に出ないんだよ……。もう二十三時過ぎてるよ? どこの女と一緒にいるの?」
『悪ぃ、俺、今、システムエンジニアやってんだ。終業遅くて、やっと仕事が終わったとこで……。スマホ見たら葵晴から電話来てて、すげぇ嬉しくて……。女なんているわけねぇだろ』
電話の向こうで暖人が鼻をすする音が聴こえて、泣いてるんだって思ったら、僕も、つられるように鼻をすする。
「暖人……まだ、僕のこと……忘れてない?」
『言ったろ? あの日。俺はもうずっと葵晴以外を見れねぇって。どうやったら忘れられんのか訊きてぇっつーの。電話くれたの、何で? 来栖になんかされたか? 助けて欲しいから連絡くれたんだろ? 俺に出来ることなら何でもすっから、言ってみ?』
──本当に何でもしてくれる? 僕、暖人を信じてもいい?
「本当? 本当に何でもしてくれる?」
『葵晴の頼みなら何でも聞くっつってんだろ?』
じゃあ、僕、今からすごいワガママ言うよ?
呆れちゃうくらいワガママ言うよ?
「何でも?」
『ああ、何でも』
だったら──。
「今すぐ、僕を攫いにきて? 明日じゃ、やだ。すぐ逢いたい」
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