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「勝負は颯くんの勝ちみたいですね」
家へ帰った途端、「おかえり」もなく由貴が掛けてきた言葉はその敗北宣言だった。
「小鳥遊から何か言われたのか?」
「ええ。先ほど陽ちゃんからスマホにメッセージが届きました。『申し訳ありません。好きな人がいます』って。颯くんのことに間違いないですよね? 何でもお願いを一つだけ聞いてあげます。何を望みますか?」
(俺は……)
由貴に俺だけを見てずっとそばに居て欲しい、他の女や男とは手を切って俺だけを見て俺だけを求めて欲しい。
なのに――。
「俺は望みなんて何もねぇよ。由貴が勝手に振る舞おうと俺には知ったこっちゃねぇ。ただ――」
そこで言葉を切って由貴の綺麗に澄んだ瞳を覗き込んでみると、いつもの掴みどころのない美しい顔がやけに真摯な眼差しをしていた。
「別れ話なら……聞きたくねぇ……」
「それは颯くんが僕にそばに居て欲しいってことですか? キミは僕のことをどう思っていますか?」
折角勇気を出して別れ話なら聞きたくないと言ったのに、そんな風に試すような言葉を掛けられたら素直になれない。
「恋人……だと俺は思ってるけど……。別に由貴が遊び歩くことを止めるつもりはない。だから――」
『全部許すからそばに居てくれ』って言おうとしたのに、由貴は最後までその言葉の続きを聞かず遮るように言い放った。
「やっぱり駄目みたいですね。颯くんは。別れましょう。この部屋はキミに差し上げます。どうせ颯くんはそう答えると思っていたので今日、マンスリーマンションをとりあえず契約してきました」
「……は?」
やっぱり駄目って、最初から由貴の望む答えを言わないって決めつけられていたってわけかよ。
俺は、そばにいてくれって言おうとしたのに――。
家へ帰った途端、「おかえり」もなく由貴が掛けてきた言葉はその敗北宣言だった。
「小鳥遊から何か言われたのか?」
「ええ。先ほど陽ちゃんからスマホにメッセージが届きました。『申し訳ありません。好きな人がいます』って。颯くんのことに間違いないですよね? 何でもお願いを一つだけ聞いてあげます。何を望みますか?」
(俺は……)
由貴に俺だけを見てずっとそばに居て欲しい、他の女や男とは手を切って俺だけを見て俺だけを求めて欲しい。
なのに――。
「俺は望みなんて何もねぇよ。由貴が勝手に振る舞おうと俺には知ったこっちゃねぇ。ただ――」
そこで言葉を切って由貴の綺麗に澄んだ瞳を覗き込んでみると、いつもの掴みどころのない美しい顔がやけに真摯な眼差しをしていた。
「別れ話なら……聞きたくねぇ……」
「それは颯くんが僕にそばに居て欲しいってことですか? キミは僕のことをどう思っていますか?」
折角勇気を出して別れ話なら聞きたくないと言ったのに、そんな風に試すような言葉を掛けられたら素直になれない。
「恋人……だと俺は思ってるけど……。別に由貴が遊び歩くことを止めるつもりはない。だから――」
『全部許すからそばに居てくれ』って言おうとしたのに、由貴は最後までその言葉の続きを聞かず遮るように言い放った。
「やっぱり駄目みたいですね。颯くんは。別れましょう。この部屋はキミに差し上げます。どうせ颯くんはそう答えると思っていたので今日、マンスリーマンションをとりあえず契約してきました」
「……は?」
やっぱり駄目って、最初から由貴の望む答えを言わないって決めつけられていたってわけかよ。
俺は、そばにいてくれって言おうとしたのに――。
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