その執着、愛ですか？～追い詰めたのは俺かお前か～

２０

　それから数週間が過ぎて──。

　俺は相変わらず要かなめ先輩と孝太郎こうたろうさんの部屋でお世話になりっぱなしになっているのだけれど。

　今日は明日が土曜日だということもあって、要先輩たちとお酒を入れてしまったせいか、真夜中、トイレに目が覚めてしまって。

　要先輩たちの寝室の前を音を立てないように静かに通り過ぎた時だった。

「ぁ、や……ん……孝太、ろっ……」

「要……っ、愛してるっ」

　そんな、要先輩と孝太郎さんの睦言むつごとを聴いてしまって。
　何故か、何故か、何故だかわからないけれど瞳から涙が溢れて。どんな感情で流れているのかもわからない反射的な涙が溢れて。

　酷く、懐かしい記憶を紐解いてしまったような気分になって。
　蓋をして、どうにか押し込めようと、考えないようにしようと、忘れてしまおうとしていた酷く懐かしい記憶を。

　俺と真白ましろにも、こんな幸せな時があった。

　真白が俺を優しく抱いてくれる時もあった。
　そんな、かけがえのない愛おしい思い出たちが、次から次へと胸の中から泉のように湧き出てくる感情を抑えきれなくて。

　南波ななみちゃんと、幸せな付き合いが出来たらいいと思っているはずなのに、そうしていきたいと思っているはずなのに胸の中が真白でいっぱいで。

　どうして、こんなに真白が胸の中にいる──？

　変わってしまった真白と別れたいと言い出したのは俺の方だ。
　なのにこんなにも胸が苦しい。こんなにも真白との記憶が消えない。

　幸せな、要先輩と孝太郎さんを見ていると、どうして俺たちは幸せになれなかったんだろう？と、考えても仕方がないことばかり頭を支配する。

　トイレを済ませて借りている一室に戻るとスマートフォンを確認してみた。
　あんなに狂気のように鳴った着信もメッセージも何も入っていない。

　真白の俺への執着はもうなくなってしまった？
　俺が真白から離れたから、真白も俺から離れた？

　そうなることを望んでいたくせに、どうしてこんなに胸が苦しいんだ。
　どうしてこんなに頭が、胸が、心が、真白でいっぱいなんだ。

　教えてよ、誰か──。