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真白とすっかり音信も途絶えて。
そんな日々が当たり前になって、俺が所願していた平穏が戻ってきたはずなのに、どこか空虚な毎日を送っていたある日。
終業時間になって、ロッカールームに鞄を取りに行った時だった。
誰もいないロッカールームでロッカーを開けながら、我知らず溜め息を吐いていると、不意に背後で扉が開いて。
振り向くと、真白が立っていた。
毎日、会社で見かけているはずなのに、二人きりの真白との空間は何だか酷く懐かしく感じられて、思わず胸が動悸を打って。
「伊吹。元気?」
その声はとても柔和で、俺はまたしても何かを期待している自分に気付く。
どこか、心の隅で真白が話しかけてきてくれたことが嬉しい自分もいて。
だけど──。
途端に間合いを詰めて来た真白が俺をロッカーに押しやる。
何だか既視感しかないこの状況に、頭の中が自動で記憶を辿り始めて。
「何? 真白……」
言葉を発したと同時、すぐに唇を塞がれて、抵抗を許さないとばかりに指で無理やり唇を割られ、口内に舌が挿し込まれる。
絡め取られた舌に、どう反応したらいいのかわからず、真白にされるがまま舌を預けていると、唐突にスラックスの上から陰嚢を握り潰された。
そうだ、確かこれは、新入社員歓迎会で泥酔した南波ちゃんを送って行った次の日にされたそれと同じだ。
痛みに眉をしかめて、真白の胸を押して唇の解放を求めてみても、後頭部を牢として押さえ込まれていて、唇の間口から「っ、う……」と堪えきれない辛苦の吐息がこぼれる。
やがて真白がそっと唇を離した。
「僕が連絡しなくなって、伊吹は少しでも僕のことを考えた? 僕の大切さに気がついた?」
ずっと、ずっと真白のことを考えている。
でも、そんなことを言ったら真白をつけ上がらせるだけだし、そもそもこの行為が、真白が何も変わっていない証拠だ。
「逆に、真白は……何か変わった?」
「変わったよ。伊吹が欲しくて仕方がない」
その言葉に、グラリ感情が揺らいでしまうのを止めることが出来ない。
真白の胸に再び、柔に縋りつきたい気持ちを止めることが出来ない。
でも──。
また真白の演技に絡め取られるのだけは、もう嫌だった。
そんな日々が当たり前になって、俺が所願していた平穏が戻ってきたはずなのに、どこか空虚な毎日を送っていたある日。
終業時間になって、ロッカールームに鞄を取りに行った時だった。
誰もいないロッカールームでロッカーを開けながら、我知らず溜め息を吐いていると、不意に背後で扉が開いて。
振り向くと、真白が立っていた。
毎日、会社で見かけているはずなのに、二人きりの真白との空間は何だか酷く懐かしく感じられて、思わず胸が動悸を打って。
「伊吹。元気?」
その声はとても柔和で、俺はまたしても何かを期待している自分に気付く。
どこか、心の隅で真白が話しかけてきてくれたことが嬉しい自分もいて。
だけど──。
途端に間合いを詰めて来た真白が俺をロッカーに押しやる。
何だか既視感しかないこの状況に、頭の中が自動で記憶を辿り始めて。
「何? 真白……」
言葉を発したと同時、すぐに唇を塞がれて、抵抗を許さないとばかりに指で無理やり唇を割られ、口内に舌が挿し込まれる。
絡め取られた舌に、どう反応したらいいのかわからず、真白にされるがまま舌を預けていると、唐突にスラックスの上から陰嚢を握り潰された。
そうだ、確かこれは、新入社員歓迎会で泥酔した南波ちゃんを送って行った次の日にされたそれと同じだ。
痛みに眉をしかめて、真白の胸を押して唇の解放を求めてみても、後頭部を牢として押さえ込まれていて、唇の間口から「っ、う……」と堪えきれない辛苦の吐息がこぼれる。
やがて真白がそっと唇を離した。
「僕が連絡しなくなって、伊吹は少しでも僕のことを考えた? 僕の大切さに気がついた?」
ずっと、ずっと真白のことを考えている。
でも、そんなことを言ったら真白をつけ上がらせるだけだし、そもそもこの行為が、真白が何も変わっていない証拠だ。
「逆に、真白は……何か変わった?」
「変わったよ。伊吹が欲しくて仕方がない」
その言葉に、グラリ感情が揺らいでしまうのを止めることが出来ない。
真白の胸に再び、柔に縋りつきたい気持ちを止めることが出来ない。
でも──。
また真白の演技に絡め取られるのだけは、もう嫌だった。
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